AI活用の再設計 11|業務の棚卸しは記憶でやらない。AIとの作業ログを読ませる

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業務の棚卸しは、記憶を頼りに一覧表を手で埋めるところから始まる。 書き出す本人が覚えている業務しか出てこないので、繁忙期にこなした細かい対応ほど抜け落ちる。 表は完成した瞬間から古くなり、次の繁忙期が終わる頃には誰も見返さなくなる。

この記事は、税理士向けの生成AI活用をまとめた書籍の事例をお題に借りて、自分の実運用を書いてきたシリーズの続きである。 ここからの数本は、お題を書籍ではなく2025年分の確定申告の現場から取る。

記憶を頼りに一覧表を手で埋め本人の記憶の範囲しか出ずに更新されず陳腐化する従来のやり方と、作業ログを全量抽出してAIに分類させ取捨のロードマップまで固定する自分の再設計の対比図
図1: 記憶で埋める従来と、ログで埋める自分の対比

業務の棚卸しを、記憶でなくログの全量抽出に置き換える

2026年3月、確定申告作業用のリポジトリでAIエージェント(Claude Code)を使ったセッションが102本、メッセージ数にして808件たまっていた。 これを1件ずつ思い出す代わりに、全量をスクレイピングするスクリプトを書かせ、自分がAIに出した指示だけを1つのマークダウンに抽出した。 指示の集合をAIに分類させると、スキル化8件、プラグイン化3件、エージェント化4件、ルールファイル化12件に仕分けられた。 同じタイミングで顧問先8件の業務リストも書き出し、指示ログの分類とあわせて「標準業務リスト」43項目・6フェーズと「自動化分類」のシートにまとめた。

思い出す作業をログの抽出に置き換えると、棚卸しが本人の記憶に依存しなくなる。 指示ログにはその期間に実際にやった作業だけが残るので、抜け漏れが記憶力の勝負にならない。

分析で終わらせず、棚卸しの出口を取捨の決定に固定する

ただし3月の棚卸しはここで止まった。 標準業務リストと自動化分類のシートは作ったが、分類に基づく実装は人間がやる前提のままで、1件も手が付かなかった。 分析結果を並べるところまで進んでも、それを誰が実装するかを決めていなければ、リストは分析で終わる。

102セッション808メッセージの指示ログを全量抽出して4分類に仕分けた3月の棚卸しが人が実装する前提のまま止まり、7月の棚卸しでは13件の取捨判定を経てロードマップと記事群まで進んだことを示す時系列の流れ図
図2: 3月は分類で止まり、7月は取捨判定まで進めた

2026年7月、同じ構図の棚卸しをもう一度実施した。 今度は分類で終わらせず、3月に構想した13件それぞれに取捨の判定を付け、5件を優先実装に、残りは却下か来季送りに割り振ってロードマップとして文書に固定した。 棚卸しの出口を一覧表ではなく取捨の決定に据えたことで、3月に止まった作業がようやく動き出している。 なお、この記事を含む現場編の記事群自体が、7月の棚卸しで掘り出した事例から書かれている。 指示ログを読み返す作業が、次に書く記事の候補まで一緒に掘り出してくる。

職員へのヒアリングでなく、既にある記録から棚卸しする

会計事務所の業務の棚卸しは、たいてい職員へのヒアリングで進める。 聞かれた本人が思い出せる範囲でしか業務は出てこず、繁忙期の細かい対応ほど話に出てこない構造は、税理士本人の記憶頼みの棚卸しと変わらない。

事務所にもメール、チャット、作業ログといった、すでに存在する記録がある。 ヒアリングで新しく聞き出す代わりに、こうした既存の記録をAIに読ませて業務を拾い出し、分類の先に「どれから着手するか」の判定まで固定すれば、棚卸しが分析だけで止まらずに済む。

作法・工程をファイルにするというこのシリーズの背骨は、棚卸しにも当てはまる。 一覧表ではなく、記録を読ませる仕組みと、取捨の決定をファイルに固定することが棚卸しの本体になる。