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成長率 × フォワード PER 散布図の読み方

この記事は、ビートモニタリングの成長率 × フォワードPER 散布図何を表現しようとしているのかをロジックで説明し、同時にこの図が**構造上カバーできないこと(限界)**を正直に並べるためのものです。図だけ見て結論を出すと足をすくわれるので、読み方とセットで限界を持っておくための解説です。

散布図は「構造転換済み」9銘柄(NVDA / AMD / MU / ALAB / CRDO / SNDK / STX / WDC / DELL)を、横軸 = NTM EPS 成長率、縦軸 = フォワード PER の2軸でプロットしています。データは Koyfin のコンセンサスを Turso 経由でビルド前に取り込んだもの(スナップショット日: 2026-05-29)。


2つの軸の指標が意味するもの

縦軸:フォワード PER(forward P/E)

フォワード PER = 直近株価 ÷ NTM EPS
  • NTM EPS(Next Twelve Months EPS) = 直近株価の時点から見てこれから先の4四半期のコンセンサス予想 EPS(調整後)の合計。
  • 普通の(実績)PER が「過去1年に稼いだ利益の何倍まで株価がついているか」なのに対し、フォワード PER は「これから1年で稼ぐ見込みの利益の何倍か」を測る。
  • 分母が未来の予想なので、利益が伸びる前提の成長株では実績 PER より小さく出る。「いまの株価は、1年先の利益で見れば何倍か」という前向きの割高・割安の物差し。

横軸:NTM EPS 成長率

NTM EPS 成長率 = NTM EPS ÷ LTM EPS − 1
  • LTM EPS(Last Twelve Months EPS) = 直近に発表済みの4四半期の実績 EPS(調整後)の合計。
  • NTM EPS = 上と同じ、これから先の4四半期の予想 EPS の合計。
  • つまり横軸は「過去1年の実績利益に対して、これから1年でどれだけ利益が増えると見込まれているか」。+70% なら「1年先の利益は直近実績の1.7倍が見込まれている」という意味。
  • LTM が赤字(マイナス)だと割り算の符号が反転して成長率の意味が壊れるので、散布図では LTM が赤字の銘柄・NTM の4四半期が揃わない銘柄は除外している(除外理由は図の下に列挙)。

ページのデータテーブルが LTM 4四半期と NTM 4四半期を並べて出しているのは、この2つの合計値が成長率と PER の分母・分子そのものだから。予想(NTM)が現実離れしていれば PER は簡単に「割安に見える」ので、過去実績(LTM)の伸びと並べて妥当性を確認できるようにしている。


この散布図が表現しようとしていること

ねらい:PER を「成長期待で正規化」して見る

PER の高い・低いを単体で眺めても、割高・割安は判断できない。利益が急成長する会社なら高い PER でも正当化されうるし、利益が伸びない会社の低い PER は「安い」のではなく「成長を期待されていない」だけかもしれない。

そこで 横軸に期待成長、縦軸に支払い対価(PER) を取って2次元に置くと、「成長期待に対して、いま株価がどれだけ割増・割安についているか」という相対位置が一目で読める。これは PEG(= PER ÷ 成長率) の発想を平面に展開したものと考えると分かりやすい。

  • 原点から右下へ伸びる向き(成長は大きいのに PER は低い)= PEG が小さい = 成長1単位あたりに払う対価が安い
  • 原点から左上へ伸びる向き(成長は小さいのに PER は高い)= PEG が大きい = 割高

4つのゾーンの読み方

ゾーン成長率フォワードPER解釈
右下高い低い成長の割に安い。市場がまだ成長を信じ切っていない、またはサイクルのピークを疑っている
右上高い高い成長プレミアム。高い成長を見込んで高い対価が払われている
左上低い高い割高警戒ゾーン。成長が乏しいのに対価だけ高い
左下低い低い低成長・低評価。枯れた、またはディスカウントされている

実データで読む(2026-05-29 スナップショット)

  • MU(+331%, 9.8x)/ SNDK(+423%, 10.1x) — 極端な右下。三桁成長 × 一桁 PER で、図の中で最も「成長の割に安い」位置。PEG はほぼゼロに見える。ただし後述のとおり、この三桁成長は直前がメモリ不況の底だったことの裏返しでもあり、額面どおりには受け取れない。
  • NVDA(+70%, 21.6x) — 高成長だが超大型で予想の確度が高く、PER は抑制的。右下寄りで PEG ≈ 0.3。
  • ALAB(+58%, 104.3x) — 上方。AI 光通信の成長プレミアムが厚く乗っている(PEG ≈ 1.8)。CRDO(+83%, 46.7x)も同じ光通信クラスタだが ALAB より割安に位置する。
  • STX(+92%, 36.9x)/ WDC(+87%, 34.2x) — HDD/ニアライン回復組。右側中段のクラスタ。
  • DELL(−3%, 23.8x) — 唯一のマイナス成長で左端。NTM EPS が LTM をわずかに下回る予想(実値 −2.7%)で、ハードウェア中心ゆえ成長率では他の半導体組に見劣りする位置。

この図の限界(重要)

この散布図は「候補の相対位置と外れ値を一目で掴む」ための入口であって、ここから割安・割高の結論を出す道具ではない。構造上カバーできない点を正直に並べる。

1. 成長率は分母(LTM)に振り回される

成長率は NTM ÷ LTM − 1 なので、分母の LTM が小さいほど機械的に巨大化する。MU の +331%、SNDK の +423% は「優れている」のではなく、直前4四半期(とくにその前半)がメモリ不況の底で LTM が小さかったことの裏返しでもある(SNDK の LTM 4Q は 0.29 → 1.22 → 6.20 → 23.41 と、ほぼゼロから急回復している)。横軸は「サイクルの底からの回復」と「構造的な成長」を区別できない。三桁成長の銘柄ほど、この歪みを疑う必要がある。

2. NTM は「次の1年だけ」のスナップショット

横軸が見ているのは次の4四半期だけ。成長の持続性も長期 CAGR も表現していない。1年で跳ねてその後減速する銘柄と、緩やかでも長期に伸び続ける銘柄が、同じ横位置に並びうる。PEG 的な読みも、分母が1年だけの(しかも上記1で歪んだ)成長率なので、教科書的な PEG とは意味が違う。

3. フォワード PER は「予想 EPS」が分母 → 予想の質に全面依存

NTM EPS はアナリストのコンセンサス予想。予想が楽観的なら自動的に「割安」に見え、予想が外れれば一夜で割高に反転する。予想の分散(アナリスト間のばらつき)、確度、上方・下方修正の勢いは、この図には一切現れない。とくにメモリ(MU / SNDK)は予想のブレが大きく、点の位置はその瞬間のコンセンサス次第で大きく動く。

4. 調整後(non-GAAP)EPS ベースの比較

EPS は調整後(eps_adj)ベース。自社株買いによる EPS の押し上げ、希薄化、一時項目の扱い、そして会社ごとに「調整」の定義が違うことから、銘柄間の比較可能性には限界がある。

5. 決算カレンダーのズレ(カレンダー化していない)

各社の会計年度の期末はバラバラで、実データでも散らばっている — AMD・ALAB は12月(暦年)、NVDA・DELL は1月末、CRDO は4月末、STX・WDC・SNDK は6〜7月、MU は8月末。「次の4四半期(NTM)」は各社の決算カレンダー基準で取るので、同じ"1年先"でも実際にカバーする暦上の期間が銘柄ごとに半年近くずれる。暦年ベースに揃える補正(カレンダー化)はしていないため、厳密な横並び比較の前提は揃っていない。

6. 株価は1点のスナップショット

PER の分子は snapshot 日(2026-05-29)の株価1点。日々動く PER を静止画で見ているにすぎない。図はあくまで「撮った日の状態」。

7. PER だけでバリュエーションは決まらない

この図は負債(資本構成)、フリーキャッシュフロー、ROIC、希薄化、金利環境、セクター固有のリスクを一切見ていない。PER は数ある物差しの1つ。とくに高成長・赤字近接の銘柄では PER が意味を失う。

8. 除外による選択効果(生存バイアス)と母集団の狭さ

LTM 赤字(成長率が定義できない)や NTM 4四半期が未充足の銘柄は、図から消える。つまり最も不確実な銘柄ほど図に載ってこない。さらに対象は「構造転換済み」9銘柄に限られ、AI/半導体に強く偏っている。クラスタの位置は、銘柄の良し悪しではなくセクター特性(メモリ=低 PER・シクリカル、AI 光通信=高 PER・グロース)を映しているだけかもしれない。

9. 軸は自動レンジ(相対スケール)で潰れる

軸の最小・最大はデータに合わせて自動で伸縮する。MU・SNDK のような極端な外れ値が縦横のレンジを引き伸ばすと、残りの銘柄が左上に密集して潰れて見える。点と点の見かけの距離は、絶対的な割安度の差ではない。


だから、この図はこう使う

  • 入口として使う。 右下に外れている銘柄を見つけたら、「なぜ成長の割に安いのか」を個別に検証する起点にする(サイクルのピーク懸念か、予想の信頼性が低いのか、構造的に安いのか)。
  • 必ず四半期内訳とセットで見る。 ページのテーブルで LTM 4Q と NTM 4Q を並べ、予想(分母)が過去の実績の伸びから見て妥当かを確認する。図の点1つは、この内訳の要約でしかない。
  • 結論にしない。 割安・割高の最終判断は、負債・FCF・予想の確度・セクターのサイクル局面まで見てから。この散布図は地図であって、目的地ではない。

FCF 基準で見る(2026-06-15 追加)

散布図ページの上部に「EPS 基準 / FCF 基準」のトグルを追加した。FCF 基準を選ぶと 2 軸が次に切り替わる:

横軸: NTM FCF 成長率       = NTM FCF/株 ÷ LTM FCF/株 − 1
縦軸: フォワード FCF Multiple = 直近株価 ÷ NTM FCF/株  (フォワード PER の FCF 版)

なぜ FCF 軸も用意したか

BCU(ロンドン市立大学)の Yartseva (2025) は、米国上場 464 銘柄・2009〜2024 の 10 倍株(テンバガー)を実証分析し、「FCF 利回りが主要な駆動要因」と特定している。これに対し本サイトの既存散布図は 会計利益(EPS)ベース の PEG プロットで、減価償却・SBC・運転資本の動きを含まない。同じゾーン読み(右下=割安成長)を保ったまま、会計利益と実キャッシュの両面から銘柄を見るために FCF 軸を足した。詳細は BCU 論文の要約と解説 を参照。

「FCF 利回り」ではなく「FCF Multiple」表示にした理由

論文は FCF 利回り (NTM FCF/株 ÷ 株価、4.36%) を主要指標として扱う。この情報量は同じだが、本散布図では 逆数の「フォワード FCF Multiple (22.9x)」 を縦軸に置いている。理由は 3 つ:

  1. フォワード PER と同じ表記: EPS 基準の散布図と縦軸の単位 (x) が揃い、両方の縦軸数値を直接比較できる
  2. 軸方向が同じ: PER も Multiple も「小さいほど割安」なので、「右下=割安成長」のゾーン読みが両基準で一致する(軸反転トリック不要)
  3. 株価が分子にある: 「Price/FCF」と読めば「いまの株価は NTM FCF の何倍か」が直感的にわかり、株価情報が軸に乗っていることがはっきりする

利回り表記が必要な場合(論文に従いたい等)は、Multiple の逆数を取れば即座に得られる(22.9x → 1/22.9 = 4.37%)。

EPS 基準 vs FCF 基準の使い分け

場面おすすめ理由
入口(広く眺める)EPS 基準コンセンサスの整備度が高く、全 13 銘柄プロット可能
キャッシュ起点で検証FCF 基準減価償却・運転資本・SBC を含まない実キャッシュ視点。論文の主張に近い
半導体サイクル銘柄両方並べるEPS 基準で割高に見えても FCF ベースだと逆、というケースが起きる
一過性損益が多い銘柄(WDC 等)FCF 基準寄りキャッシュの実体は EPS より歪まない
Multiple 比較で割安発掘FCF 基準フォワード PER 22x と FCF Multiple 22x を直接並べて、会計利益と実キャッシュで同じ倍率かをチェック可能

両基準とも「散布図は入口、判断は四半期内訳と財務全体で」という設計思想は同じ。

限界:除外銘柄が EPS 基準より増える

FCF コンセンサス(NTM FCF/株、LTM FCF/株)の Koyfin での 粒度は EPS より粗い。具体的に:

  • 一部銘柄は NTM 4Q のうち 3Q ぶんしか forecast が無い → 「NTM FCF 4 期未充足」で除外
  • LTM が 赤字 FCF(capex 重い局面、運転資本拡大局面、買収直後 等)の銘柄は成長率の符号が反転するため除外
  • 半導体サイクルの底では設備投資が先行する銘柄が複数同時に除外されることがある(除外多発は本当の意味で「FCF で見ると割安に見える」状況ではないため、判断保留サインとして扱う)

FCF 基準のトグル時、除外リストに「NTM FCF 未取得」「LTM FCF 赤字」が並ぶのは仕様。EPS 基準で見える「全 13 銘柄」と同じ充足度を期待しないこと。

二次トグル(Non-GAAP / GAAP)は FCF 基準では表示されない

FCF は会計基準による Non-GAAP / GAAP の区別が EPS ほど明確でないため、本サイトでは FCF 基準を選ぶと二次トグル(Non-GAAP / GAAP)を非表示にして「FCF は単一系列」として扱う。仕訳された FCF コンセンサスの定義(capex の扱い、リース・SBC の扱い等)は Koyfin の各銘柄定義に従う。


データの出所と関連ページ

  • データソース: Koyfin のコンセンサス予想 → Turso(earnings-dynamicsv_latest_valuation + consensus_estimates)→ ビルド前に valuation.ts を生成(SSG。実行時に DB へは接続しない)。FCF は view を経由せず consensus_estimatesmetric_name='fcf_per_share' 系を直読みして NTM/LTM 4Q 合計を集計している。
  • スナップショット日: 2026-05-29。
  • 散布図ページ本体: /beat-monitoring/scatter
  • モニタリング一覧: /beat-monitoring
  • この指標・パイプラインを実装した日の記録: /beat-monitoring-ntm-per-pipeline