「なぜプロペラを回すと電気が起こるのか」— 自由研究の一行が、ファラデーの日誌に届くまで
自由研究のテーマとして、子どもが立てた疑問はこの一行だった。
なぜプロペラを回すと電気が起こるのか
7月23日に聞き始めて、8月19日に行き着いたのは、1831年のマイケル・ファラデーの実験ノートだった。あいだの1か月で、コイルの巻き方を3回考え直し、実物の実験で5回つまずき、最後には発電量の計算式を手に入れている。
やったことは単純で、わかった気にならずに、わからないところを名指しして聞き返しつづけただけだ。ただ、その効き目が思っていたより大きかったので、経過を残しておく。
最初に返ってきた答えは、少しだけ間違っていた
はじめの説明はこうだった。モーターの中には磁石とコイルが入っている。コイルが磁力の中を素早く動くと、コイルの中の電子が押されて流れ出す。速く回すほどたくさん電気ができる。
小学生向けとしては、これで通る。実際そこで終わってもよかった。終わらなかったのは、子どもの親のほうが引っかかったからだ。
コイル状のものは、他のものと比べて電子を溜め込みやすい性質があるんですか?
これが分かれ目になった。答えは違う。金属である以上、まっすぐな1本の導線でもコイルでも、含まれる自由電子の量は変わらない。コイルにする理由は溜めるためではなく、磁力の効果を積み上げるためだ。
その「磁力の効果」を数える話に入る前に、磁力線という言い方だけ先に共有しておきたい。磁石のまわりに砂鉄をまくと、粒が数珠つなぎに並んで曲線の模様が浮かび上がる。理科の教科書でおなじみのあれが、そのまま磁力線だ。N極から出て、S極へ戻る閉じた道すじが、磁石のまわりの空間に広がっている。
見てのとおり、線は極の近くにぎゅっと集まり、離れるほどまばらになる。この線の混み具合が、そのまま磁力の強さにあたる。あとで「1メートルの輪では磁力が届かない」という話が出てくるが、その根拠はこの図にすでに写っている。
さて、この磁力線が輪を通り抜ける量を磁束と呼ぶ。そして磁束が変化する瞬間に、輪の中へ電子を押す力(起電力)が生まれる。輪を100回巻けば、その力が100回ぶん足し算される。それだけの話だった。
ついでにもう1つ、最初の説明のイメージも正確ではなかった。「すでに溜まっている電気を流す」のではない。磁石が動いているあいだだけ、電子を押す力が発生しつづけている。磁石を止めれば、その瞬間に流れも止まる。
左右で違うのは、磁石が動いているかどうかだけだ。強い磁石を輪のすぐそばに置きっぱなしにしても、電流はまったく流れない。電気を生むのは磁力そのものではなく、磁力の「変化」のほう、という言い方になる。
そして「100回巻けば100倍」のほうも、絵にしてみると単純な話だった。
コイルを100回巻いても、磁石の動きが100倍になるわけでも、通り抜ける磁力線が100倍になるわけでもない。同じ1回の変化を、100個の輪がそれぞれ受け取り、その起電力が直列につながって足される。それだけだ。
ひとつ注意すると、足し算されるのは電圧(押す力)のほうだけになる。線を100周ぶん使えばその分だけ抵抗も増えるので、流れる電流まで素直に100倍にはならない。それでも、あとで出てくるLEDのように「ある電圧を超えないと、そもそも動かない」相手には、この電圧の足し算が決定的に効いてくる。
ここが一段クリアになると、次の問いが自然に具体的になった。
「ぐちゃぐちゃに丸めてもいいのか」
導線を輪っかで巻かなくても、極端な話、その距離の中に詰め込めればいいんだから、ぐちゃぐちゃでもいいという理解で合ってますか?
自分の理解を仮説の形にして投げる。いい聞き方だと思う。そして、これも違った。
効くのは導線の長さではなく、それぞれの輪が磁石に対して同じ向きを向いていることのほうだ。起電力には向きがある。輪の向きがバラバラだと、ある輪で生まれた力と別の輪で生まれた力が逆を向き、打ち消し合ってしまう。
大勢でブランコを押すのに似ている。同じタイミング、同じ方向で押せばどんどん高く振れるが、めいめい勝手に押したら相殺されてほとんど揺れない。押す人数(=導線の長さ)が同じでも、揃っているかどうかで結果がまるで違う。
つまり棒に巻くのは、長さを稼ぐ都合ではない。棒という軸があるおかげで、1周目も100周目も自動的に同じ向きの輪になる。これがコイルの本質だった。
自分で気づいた核心 —「磁力が届かない」
次の質問は、途中で自分から折り返した。
1センチの棒に100回巻くより、1メートルの棒に3周のほうが合計距離は長い。そのほうがいいという理解で合ってますか? あ、でもあれか。1メートルも離れちゃったら、磁力の影響が及ばないからダメなのか。
後半が正解だった。
磁力は距離が離れると急激に弱まる。1メートルの輪を作っても、磁石のそばの部分は磁力を受け取れるが、残りの大部分は磁力線をほとんど拾えない。面積は大きいのに、その面積のほとんどが空振りする。
だから正解は逆で、磁石にぴったり寄り添う小さい輪を、その分たくさん重ねる。実際のモーターや発電機のコイルが、磁石に巻きついた小さい形をしていて大きく広がっていないのは、これが理由だ。
理屈だけで、実物の設計理由を言い当てたことになる。この時点ではまだ、何も作っていない。
横道が本筋になる — レモン電池と何が違うのか
発電の仕組みが腑に落ちると、比較対象への疑問が出てきた。
モーターは磁石が動くと電圧が発生する仕組みですよね。でも電池は、回さなくても磁石が動かなくても、炭とレモン汁とアルミで電気が発生する。仕組みはどう違うんですか?
まったく別物だ。電池のほうは動きも磁石も関係なく、化学反応だけで電気が生まれる。アルミニウムは銅より電子を手放したがる(イオン化傾向が大きい)ので、電解液に浸して導線でつなぐと、アルミ側に余った電子が銅側へ流れていく。
面白かったのは、その次の一言のほうだった。
逆に共通点はあるんですか?
ある。どちらも起電力、つまり「電子を一方向に押して、片側に余らせ、もう片側を不足にする力」を作っている。何が押しているかが違うだけで、押された結果は同じだ。だからLEDや導線の側からは、流れてくる電子が磁石由来か化学反応由来かを区別できない。回路図でも、発電機と電池は同じ「電圧源」の記号で書かれる。
もう1つの押し方 — 太陽電池は光で電子をたたき出す
同じ問いを太陽電池にも当ててみる。あれは何が電子を押しているのか。
太陽電池の中身は、性質を少しずつ変えた2種類のシリコンを貼り合わせた板だ。片方(n型)は電子が少し余っていて、もう片方(p型)は電子が少し足りない。貼り合わせると境目で電子がにじみ出して落ち着き、その結果、境目にだけ電子を一方向に押し流す「坂」ができる。この坂は、光が当たっていなくても最初からそこにある。
そこへ光が当たる。光のエネルギーがシリコンの中の電子を1つたたき出し、自由になった電子と、電子が抜けた穴(正孔)のペアが生まれる。たたき出された電子は、さきほどの坂に沿ってn型側へ転がり落ちていく。穴のほうは逆にp型側へ動く。
結果として、n型側に電子が余り、p型側が足りなくなる。これが電圧だ。導線でつなげば、余っているほうから足りないほうへ電子が流れる。
面白いのは、これが手回し発電機とも電池とも違う、3つ目の押し方になっていることだ。
- 磁石も動かないし、化学反応も起きない。シリコン自体は減らないので、電池のように「使い切って終わり」がない
- 光が当たっているあいだだけ働く。この点は手回し発電機と同じで、遮れば止まる。溜める働きは持っていないので、夜に使いたければ別にバッテリーが要る
- 電圧はほぼ一定で、変わるのは電流のほう。シリコン1枚(1セル)が作る電圧はおよそ0.5V。日なたでも日陰でもこの電圧はあまり変わらず、明るさに応じて流れる電流の量が変わる
最後の点が、このあとの実験とつながってくる。1セル0.5Vでは、LEDの1.8Vにまったく届かない。電卓やソーラーライトの黒いパネルに細い線がたくさん入っていて、短冊がいくつも並んで見えるのは、あれがセルを直列につないで電圧を足しているからだ。4枚で2V、6枚で3V。
コイルを100回巻いて起電力を足し算したのと、やっていることは同じだった。
この4つのうち、コンデンサだけは仲間はずれに見える。実際そのとおりで、コンデンサは電子を押さない。ただ溜めるだけだ。ここが後で実験のつまずきどころになる。
理屈から実物へ。そして5回つまずいた
8月16日、話が実物に移った。家に手回し発電機があるという。
写真を見ると、透明ケースの中に緑色の歯車が並んでいた。この歯車が効いている。手でハンドルを回す速さはたいしたことがなくても、歯車で増速されて中のモーターはハンドルよりずっと速く回る。だから手回しでもLEDが光る電圧が出る。先に理屈をやっておいたので、写真1枚からこういう読み取りができるようになっていた。
一緒に写っていた「テスター」は、実はテスターではなかった。BT-168という型番の乾電池チェッカーで、規格の決まった電池を差し込んで残量を判定する専用機だ。導線をつなぐ端子がないので、コイルの電圧を測る用途には使えない。ここは早めに訂正しておいてよかった。
秋葉原で電気二重層コンデンサ(1F・5.5V、100円)を買ってきて、実験が始まった。そして、ここからが本番だった。
1. 電池ではLEDが光らない。豆電球は光るのに
最初の症状はこうだった。手回し発電機につなぐとLEDは光る。ところが電池につないでも光らない。赤と白のクリップを入れ替えても光らない。同じ電池で豆電球を試すと、ちゃんと点く。だから電池が悪いわけではない。
極性を入れ替えても直らない、というのが決め手だった。極性の問題なら、逆にすれば直るはずだからだ。
原因は電圧不足だった。LEDには順方向電圧という下限があって、赤色でも1.8〜2.2V程度を超えないとそもそも点灯しない。使っていたのは単3電池1本。あとで表記を確認したら充電池(eneloop)で、1本1.2Vだった。アルカリ乾電池の1.5Vだとしても、やはり下限に届いていない。豆電球(白熱球)にはこの下限がないので、電圧が低ければ低いなりに暗く光る。この対比が、症状を切り分ける手がかりになった。
電池ボックスをもう1つ足して直列2本(2.4V)にしたら、あっさり点いた。
2. コンデンサの電気が、どこかへ消える
次はこれだ。発電機・コンデンサ・LEDを全部つないだまま回し、回すのをやめてもLEDが光り続けない。
犯人は、つなぎっぱなしにしていた発電機のほうだった。止まっているモーターのコイルは、電気的には抵抗のとても低い通り道になる。コンデンサに溜まった電気からすると、点灯に電圧を要求するLEDよりも、ほぼ素通りできるコイルのほうが「楽な道」に見える。だから手を止めた瞬間、電気はLEDではなく発電機の中へ一気に逃げていた。
充電したら発電機を物理的に切り離す。この一手間には、ちゃんと理由があった。ダイオードを1個挟めば逆流を防げるので、つなぎ替えずに済ませることもできる。
3. 色が変わるLEDが、赤でしか光らない
手持ちのLEDには、足が2本で色が自動的に切り替わるタイプが混ざっていた。これがコンデンサ経由だと赤のまま止まる。
このタイプは中に小さな制御ICが入っていて、色を切り替える動作のぶん余分に電力を食う。電圧が下がってくると、まず「色を切り替える」という余計な仕事から先にできなくなり、サイクルの最初の色(多くは赤)で固定される。力不足の症状だ、という読みで合っていた。
4. 手回しでは、充電が安定しない
腕の回転速度のムラが、そのまま充電電圧のムラになる。ここで出てきた質問がよかった。
電池とコンデンサをつないで、電池の電気をコンデンサに貯めることもできるんですか? そのほうが電圧が安定していいんですかね。実験には不向きですけど
できる。そして電池は出力電圧がほぼ一定なので、毎回同じところまできれいに充電できる。実際にやってみたら、色変化LEDがちゃんとキラキラ光った。
「実験には不向き」という自己ツッコミも正しい。今回の見どころは「手を動かす→電気になる→溜まる」という変換の過程そのものなので、そこを電池に置き換えると主役が消える。ただし、手回し30秒と電池30秒で点灯時間を比べれば、回転ムラがどれだけ結果に効くかという比較実験にはなる。
5. 接触不良
地味だが、いちばん多い落とし穴だった。クリップの金属部分がリード線をしっかり噛んでいないと、見た目はつながっていても電流は流れない。序盤にはLEDの足がX字に交差してショートしていたケースもあった。
「買ってきたばかりだから調子が悪いのでは」という疑いも出たが、これは関係ない。電気二重層コンデンサは買ってすぐ使える。長期間放置した電解コンデンサの慣らし充電の話と混ざっていた。
+と−はどこで決まるのか — N極が+ではない
つなぎ替えのたびに毎回わからなくなったのが、ここだった。
書いてあるけど、逆にこれどっちがモーター側のプラスマイナスかわからないんですけど、モーター側ってどうやって調べればいいんですかね?
先に、思い込みを1つ外しておく。磁石のN極が+、S極が−、という固定の対応はない。発電機の+と−は、次の3つが揃って初めて決まる。
- N極とS極、どちらがコイルに向いているか
- 近づいているのか、遠ざかっているのか
- コイルがどちら巻きか
だから同じ発電機・同じ磁石でも、ハンドルを逆に回すだけで+と−は入れ替わる。「N極側が+」と覚えても、回す向きを変えた瞬間に外れる。この実験でも、途中で「回す向きを変えると極性が反転する」ことを確認している。
では実物ではどうするか。答えは、その日の実験の中にすでにあった。LEDが光ったときの配線が、そのまま答えになっている。
LEDは逆につないでも壊れない。だから安全に「試して確かめる」ことができる。光ったときにLEDの長い足(+側)につながっていた端子が、発電機の+だ。推測ではなく実測なので、これがいちばん確実になる。
あとは2つ守るだけでいい。回す向きを変えないこと。そしてコンデンサ側では試し挿しをしないこと。有極性のコンデンサは逆につなぐと劣化・故障の原因になるので、こちらは本体の印(帯、+記号、足の長さの違い)で判定する。LEDと違って「逆にしてみる」が使えない相手だ。
なお、多くの手回し発電機は赤端子=+、黒端子=−で配線されている。ただし「たぶんそうだろう」で進めず、LEDでの実測を優先する。
+−が固定されているもの、いないもの
整理すると、向きで+−が入れ替わるのは発電機だけだった。先の比較表にも1行入れてある。
- 化学電池 — 材料で固定。イオン化傾向の大きいほう(亜鉛・アルミ)が−、小さいほう(銅・炭素)が+。ひっくり返しようがない
- 太陽電池 — 構造で固定。p型側が+、n型側が−。2種類のシリコンを貼り合わせた時点で決まっている
- コンデンサ — 自分では決めない。充電したときの向きをそのまま保持しているだけ
毎回わからなくなっていたのは、実は発電機だけの話だった、ということになる。
川で例えたら、症状が全部つながった
つまずきを一通り抜けたあと、こういう質問が来た。
電圧っていうのは、水で言うと流れる水の量みたいな感じなんですかね
ここが、この日いちばん大事な訂正だった。電圧は水の量ではなく、高低差のほうだ。
| 電気 | 川 |
|---|---|
| 電圧(V) | 上流と下流の高低差。水を押し流す力 |
| 電流(A) | 実際に流れている水の量 |
| 抵抗(Ω) | 川幅の狭さ、岩やゴミの多さ |
| コンデンサ | 貯水池 |
この対応をあてはめると、それまでのつまずきが全部ひとつの説明に乗った。
- 1.2VでLEDが光らなかった — 高低差が足りず、堰を越えられなかった。LEDには「この高さを超えないと流れ始めない」という段差がある
- 速く回すと明るくなる — 高低差が大きくなり、流れる水の量が増える
- コンデンサの充電に時間がかかる — 貯水池は大きく、途中の川は狭い(内部抵抗が大きい)
- コンデンサの電圧が電池の電圧を超えない — 貯水池の水面は、上流の水面の高さまでしか上がらない
- LEDがだんだん暗くなり、あるところでフッと消える — 水位が下がっていき、LEDの堰の高さを下回った瞬間に流れが止まる
最後のひとつは、実際に目で見える。コンデンサにつないだLEDは、じわじわゼロに消えるのではなく、ある電圧で急に消える。消えたあともコンデンサには電気が残っているのに、LEDからは「空っぽ」に見える。順方向電圧という概念が、そのまま光り方として可視化されていた。
数式にすると、差は22倍だった
ここまで来ると、パラメータを整理したくなる。
コイルの巻き数、磁石の強さ、動くスピード。電気が発生するのって、何か計算式でまとめられる気がするんですけど
ある。ファラデーの電磁誘導の法則、1本で済む。
V = N × A × ΔB/Δt
N コイルの巻き数
A コイルを実際に貫く磁力の面積
ΔB/Δt コイルを貫く磁力が、どれだけ速く変わるか
動かし方によって最後の項の形が変わる。磁石を出し入れするなら V = N × A × (ΔB/Δx) × v、モーターのように回すなら V = N × B × A × ω になる。
そこで、手巻きコイルとモーター内部のコイルを同じ式に入れて比べられるシミュレーターを作った。
→ コイル比較シミュレーターを開く(巻き数・磁石の直径・速さを動かせる)
初期値で比べると、巻き数はほぼ同じなのに、モーターは自作コイルの20倍以上の電圧を出す。差の正体は3つだった。
- 磁石との隙間 — モーターは0.5mm以下。磁力は距離で急激に落ちるので、ここが決定的
- 鉄芯 — 回転子の鉄が磁力を吸い寄せて集める。空芯の手巻きコイルにはこの助けがない
- 速さ — 手で秒速0.5m程度に対し、モーターはギア増速で毎秒20回転以上
面白いのは、「動かす速さ」のスライダーだけを最大にしても届かないことだ。速さだけでは埋まらない差がある、というのがこの比較の見どころになる。
そしてもう1つ、式と直感がずれるところがある。「コイル直径」を大きくすると、エナメル線の長さも見かけの面積も増えるのに、電圧はむしろ下がる。式の A が「コイルが囲む面積」ではなく「コイルを実際に貫いている磁力の面積」だからだ。
これは、7月に自分で「1メートルの輪だと磁力が届かない」と気づいたことの、数式版でしかない。ひと月かけて、同じ結論に別の道から戻ってきた。
モーターの中身そのものは、断面を動かせる図にした。
→ モーター断面のアニメーションを開く(速さと巻き数で電圧波形が変わる)
左右に磁石、中央に回るコイル、そして整流子。コイルが半回転するたびに導線が磁力線を横切る向きが逆になるので、そのままだと電圧は交流になる。整流子は半回転ごとに接点を入れ替えて、マイナス側の波をプラス側へ折り返す部品だ。手回し発電機から一定向きの電気が取り出せるのは、これが入っているからだった。
ファラデーは何回巻いたのか
自作コイルの出力は、式に入れると数十ミリボルト。LEDの点灯ラインには遠く及ばない。手で磁石を出し入れするだけでは、LEDは光らない。
では当時のファラデーはどうやって見つけたのか、という話になる。答えは方位磁針だ。電流が流れると磁針が振れる。それを検出器にしていた。ここから最後の質問が出た。
ファラデーはその時、何回ぐらい巻いたんですか? さすがに100回じゃなくて、300回ぐらい巻いたんですかね
だいたい当たっていた。
1831年8月29日の実験では、外径6インチ・太さ7/8インチの軟鉄のリングに、片側は約24フィートの銅線を3本、もう片側は合計60フィートの銅線を巻いている。ただしファラデーは巻き数を記録していない。当時は線の「長さ」で管理していたので、日誌に出てくるのは「24フィートの線を3本」という書き方だ。
鉄の太さ7/8インチ(約2.2cm)から1周あたり約7cmと計算すると、72フィート(約22m)はおよそ300回前後になる。300回という当てずっぽうは、かなりいい線をついていた。
もうひとつ、この実験には前段がある。ファラデーは最初、203フィートの銅線を大きな木のブロックに巻いて試し、ほとんど反応を得られていない。木を鉄に変えたことが成功の決め手だった。鉄芯が効くことを、発見者自身が失敗つきで実証している。
今回の自作コイルは、磁石を通す必要があるので鉄芯を入れられない。だから条件はファラデーの失敗作寄りになる。それでも方位磁針を検出器にすれば、100回巻きでも針は振れる。200年前と同じ道具立てで、同じ現象を確かめるところに着地した。
自由研究に残すべきもの
こうして振り返ると、価値があるのは完成した実験装置ではない。
この連鎖のうち、2番目・3番目・4番目はすべて「自分の理解を仮説の形にして、間違いを指摘された」ステップだ。最初の説明で満足していたら、1段目で終わっていた。
まとめに残すなら、この4つだと思う。
- LEDには「これ以下では光らない電圧」がある — 1.2Vでは光らず、2.4Vで光った。同じ電池で豆電球は暗いなりに点く、という対比があるから説得力が出る
- 回す速さが、電圧の振れ幅になる — 波形の上下として見え、明るさの違いとして手でも確かめられる
- 巻き数を増やすと、同じ速さでも高い電圧が出る — 起電力が巻き数のぶん足し算される。太陽電池のセルを直列に並べて電圧を稼ぐのも、まったく同じ理屈だった
- 電圧=高低差、電流=水量、コンデンサ=貯水池 — この例えで、起きたことが全部説明できる
そして失敗のほうを省かないこと。点灯しない → 仮説を立てて切り分ける → 解決するを5回繰り返した過程こそが、いちばん書く価値のある部分になる。うまくいった手順だけを並べた自由研究には、この部分が残らない。
実験に使った道具
同じことを試す人のために、一通り並べておく。最初から全部そろえる必要はない。手回し発電機とLEDと電池だけでも、この記事のつまずきの大半は再現できる。
電気をつくる・貯める
- 手回し発電機 — ギアで増速するタイプ。理科教材店やネット通販にある学習用のもの。ハンドルの速さの数倍〜十数倍で中のモーターが回るので、手回しでもLEDが光る電圧が出る。赤・黒の端子が付いているものが扱いやすい
- 電気二重層コンデンサ 1F・5.5V — 秋月電子通商で型番 SE-5R5-D105VY、1個100円。「1F」を必ず確認する。同じ棚に0.022Fなど容量の小さいものが並んでいて、それだと点灯が一瞬すぎて実験にならない
- LED(赤) — 点灯に必要な電圧が低く、結果が出やすい。色が自動で変わるタイプは制御ICが入っていて余分に電力を食うので、基本の実験には単色を使う
- 豆電球+ソケット — LEDと対比させるために要る。「電圧が足りないとき、豆電球は暗いなりに点くがLEDは全く点かない」という切り分けが、この2つを並べて初めてできる
- 単3電池 ×2 と電池ボックス ×2 — 直列にして2.4〜3V。1本(1.2〜1.5V)ではLEDが点灯しない
- ワニ口クリップ付き導線 — 半田付けなしで組める。豆電球とLEDの基本実験セットを買うと、電池ボックスごと一式そろう
電池チェッカーはテスターの代わりにならない。 BT-168のような乾電池チェッカーは規格の決まった電池を差し込む専用機で、導線をつなぐ端子がない。電圧を数値で見たいならデジタルマルチメーター(1,000〜2,000円台)が別に要る。ただし今回は使わなくても、点灯時間をストップウォッチで測れば十分にデータになる。
コイルを自分で巻く
- エナメル線 0.3〜0.4mm — 今回は φ0.40mm(型番 QA-1/155)を使った。太さも扱いやすく、被膜も落としやすい
- 紙やすり #400 程度 — 線の両端の被膜を落とす。これを省くと確実に通電しない。爪やすり、カッターの刃、スチールたわしでも代用できる。ライターで炙る方法もあるが、焼けた黒い炭化物が残るとそれ自体が絶縁物になるので、炙ったあとに布で強くこすって銅の赤い光沢を出すところまでやる
- 磁石がぎりぎり通る細い筒 — 厚紙を丸めてテープで留めれば作れる。捨てる箱の切れ端で足りる。トイレットペーパーの芯は磁石に対して太すぎるので、磁力を取りこぼす
- ネオジム磁石 — 直径10〜20mm程度の強力なもの。円盤を積層した棒状のものはそのまま1本で使う。分けると弱くなるうえ、コイルの中で互いに打ち消し合うことがある
- 方位磁針 — 100円ショップで110円。トラベルグッズやアウトドアの売り場にある。中にオイルが入ったタイプは避ける。針の揺れを抑えて早く落ち着かせる作りなので、今回ほしい「一瞬ピクッと振れる」動きが見えにくい
方位磁針が、手巻きコイルでの検出器になる。コイルの線を磁針の上に南北へ沿わせて回路を閉じ、磁石を出し入れすると針が振れる。ファラデーが1831年にやったのと同じ道具立てで、しかも「電流が流れると磁力が生まれる」という発電とは逆向きの現象を同時に見せられる。
巻く前に導通を確かめておくと、あとが楽になる。 電池2本と豆電球とコイルの両端を1本の輪につなぎ、豆電球が点けば被膜は落ちている。点かなければ端がまだ絶縁されている。これを先にやっておくと、針が振れないときに原因を被膜と磁石の動かし方に切り分けられる。
磁力線を目で見る
- 砂鉄 — 100円ショップに単品はほぼ置いていない(砂鉄入りのスライム作成セットに含まれることはある)。確実なのはホームセンターか通販。ただし買わなくても取れる。磁石をポリ袋に入れて公園の砂場や川原の砂をなでると砂鉄が集まるので、袋から磁石だけ抜けば回収できる。「どこの砂に砂鉄が多いか」がそのまま次の研究テーマになる
- 硬質カードケース — 100円ショップの文具売り場で110円。砂鉄を少量入れて口をテープで封じると、こぼれない観察プレートになる。中が薄いので砂鉄が一層に広がり、模様がはっきり出る。何度でも使える
磁石はケースの下から当てる。 上に置くと砂鉄が磁石に吸い付いて、模様になる前に持っていかれる。置いたあとケースを指で軽く叩くと砂鉄が並び直して、図1の模様がそのまま現れる。棒磁石のままと円盤1枚だけの2通りを撮ると、N極からS極へ戻る模様と、極ひとつの同心円状の模様を比べられる。
作ったもの
会話の途中で作った2つを、そのまま置いてある。
- モーターの中身 — 回すとなぜ電気が生まれるのか 磁石とコイルの断面図。速さと巻き数のスライダー、電圧波形、整流子の有無を切り替えられる
- コイル比較 — 自作コイルとモーターはどれくらい違うのか ファラデーの法則で両者を比較。巻き数・磁石の直径・コイル直径・速さを動かすと発電力の比が変わる
いずれも簡易モデルなので、出てくる数値は目安として扱ってほしい。ただ「巻き数を2倍にしたら電圧はどうなるか」を作る前に予測してから確かめる、という使い方には十分足りる。式の予測と実測がずれたら、そのずれの理由を考えるところが、たぶん一番いい考察になる。