わかりやすい不動産登記簿の見方・読み方 — 第3章(全8章)
🏠 甲区欄の見方 — 持ち主の歴史を読む
所有権保存から、相続・売買・贈与による移転、差押え、仮登記、買戻し特約まで。「この不動産はいま誰のものか」「過去に何があったか」を甲区から読み解く。
出典: 『わかりやすい不動産登記簿の見方・読み方(6訂版)』日本法令(p.98〜231)。記録例は原本の帳票レイアウトを再現しつつ、内容を正規化データで管理している。
凡例: 記録例の中の下線は「抹消事項」=後の登記で効力を失った記録(登記簿は消さずに線を引いて歴史を残す)
甲区は「この不動産の持ち主はだれか」を記録する欄で、上から下へ時間が流れる持ち主の歴史年表です。 第1章では「保存→売買→住所変更→差押え」という4枚のカードで年表の骨格を見ました。 この章では、その1枚1枚のカードのバリエーション — 相続・売買・贈与などの移転、間違い直しの更正、 買戻し特約、差押え、仮登記 — を、代表的な記録例を深掘りしながら読めるようになります。
先に読み方のコツを3つ。①各行は「登記の目的」「原因(とその日付)」「権利者その他の事項」の3点セットで読む。 ②下線(=もう効力がない印)が引かれるのは、更正・変更・抹消のときだけ。 普通の売買や相続で持ち主が交代しても、前の持ち主には下線を引きません(歴史として残す)。 ③持分(もちぶん)の数字は「不動産全体に対する割合」で、一度書いた数字はあとから書き換えない。 今の持分は引き算で読みます。この3つを頭に置いて進みましょう。
令和6年から「所有者の書かれ方」が変わった — 4つの新記録事項
所有権の登記では、所有者が個人なら住所と氏名、法人なら本店と商号が記録されます(法59条4号)。 これに加えて令和6年4月1日から、次の4つの事項が新たに記録されるようになりました。 最近の登記事項証明書で「見慣れないかっこ書きや番号」を見たら、まずこれを疑います。
| 新記録事項 | 対象 | どう書かれるか |
|---|---|---|
| 旧氏(きゅううじ)の併記 | 希望する所有権の登記名義人(日本国籍の人のみ) | 「不動美桜(法令美桜)」のように、旧姓をかっこ書きで氏名に添える |
| 海外居住者の国内連絡先 | 外国に住所がある所有者 | 「国内連絡先 ○市○町○番○号 法令順子」。いない場合は「国内連絡先 なし」と記録 |
| ローマ字氏名の併記 | 外国人(日本国籍を有しない人)の所有者 | 「ジョン・スミス(JOHN SMITH)」のように、原則すべて大文字・氏と名の間はスペース |
| 法人識別事項 | 法人の所有者 | 「会社法人等番号 0100-01-123456」。外国法人は設立準拠法国、その他の法人は設立根拠法 |
旧氏とローマ字氏名は所有権の「登記事項」ではなく、氏名を補足する位置付けです。 登記の申請を伴わずに併記だけを申し出ることもでき、その場合は 「○番登記名義人表示変更」という付記登記でされ、原因は「申出」、 併記前の氏名には下線が記録されます。
このうち法人識別事項は、法人の種類で書かれ方が3つに分かれます。 ①会社法人等番号を持つ普通の会社なら「会社法人等番号 0100-01-123456」、 ②番号を持たない外国法人なら「設立準拠法国」(どこの国・州の法律で設立されたか)、 ③どちらでもない法人(組合など)なら「設立根拠法 何法」です。 実際の記録例で、②の外国法人のケースを見てみましょう。 海外居住者の「国内連絡先」も同じ行にそろって登場します。
| 権 利 部(甲区) (所有権に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 1 | 所有権保存 | 令和○年○月○日 第○○号 | 所有者 ○国○州○通り2号 甲コーポレーション 設立準拠法国 ○国○州 国内連絡先 ○市○町1番2号 乙 某 |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
同じ内容を「1行 = 1できごと」に分解すると、こうなります。
記録例: 法人識別事項(設立準拠法国)が記録されている場合
- 1番所有権保存受付 令和○年○月○日 第○○号
外国の会社(甲コーポレーション)が持ち主になった例。住所も外国の書き方になっている。会社法人等番号を持たない外国法人なので、代わりに「どこの国(州)の法律で作られた会社か」(設立準拠法国)が記録され、日本国内の連絡係(国内連絡先)もセットで載る。
- 所有者
- ○国○州○通り2号 甲コーポレーション
- 設立準拠法国
- ○国○州
- 国内連絡先
- ○市○町1番2号 乙 某
読みどころは所有者欄です。住所が「○国○州○通り2号」と外国の書き方になっていて、 所有者は甲コーポレーションという外国の会社。 会社法人等番号がない代わりに「設立準拠法国 ○国○州」で会社の素性を示し、 外国に住所があるので「国内連絡先 ○市○町1番2号 乙 某」で 日本国内の連絡係も記録されています。 見慣れない行が並んでいても、「番号の代わりの素性表示」と「日本での連絡係」と読めば怖くありません。
所有権保存 — 「はじめての持ち主」だけができる登記
所有権の保存登記は、所有権の登記がされていない不動産に最初にされる所有権の登記です (表題登記はモノの状況を記録するだけで、所有権の登記ではありません)。 以後の売買・相続などの移転登記は、すべてこの保存登記を土台に積み上がります。 保存登記をするかどうかは所有者の自由で、しなくても罰則はありません。 ただし申請できる人は限られています(法74条)。
所有権保存の登記を申請できる人(法74条)
- 表題部に所有者と記録されている人(表題部所有者)、またはその相続人その他の一般承継人(1項1号)
- 所有権を持つことが確定判決で確認された人(1項2号)
- 収用(しゅうよう)で所有権を取得した人(1項3号)
- 区分建物(マンション)の場合のみ、表題部所有者から所有権を取得した人(転得者)(2項)
読み方のポイントは3つ。①保存登記は最初の所有権の登記なので順位番号は必ず1番。 ②原因は記録されない(だれかから取得したのではないため。 例外として敷地権付き区分建物だけは「売買」などの原因が載ります)。 ③保存登記がされると、表題部の「所有者」欄に下線が引かれ、バトンが甲区へ渡ったことを示します。 原本の見た目は第1章の甲区記録例(1番 所有権保存)で見たとおりです。 共有なら「共有者」と表記され、「持分5分の3 甲野太郎」のように各人の持分も記録されます。
所有権移転(1)相続 — バトンの引き継ぎ
持ち主が亡くなると、所有権は相続人に移ります。これを登記簿に反映するのが相続登記です。 遺言で決めても、遺産分割協議で決めても、民法の法定相続分どおりでも、 登記原因はすべて「相続」。つまり登記簿からは「どうやって分け方が決まったか」まではわかりません。 令和元年7月1日以後に開始した相続では、法定相続分を超える部分は登記をしないと第三者に主張できなくなったため(民法899条の2)、 相続登記の重要性は増しています。
基本形 — 原因の日付は「亡くなった日」
| 権 利 部(甲区) (所有権に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 2 | 所有権移転 | 平成○年○月○日 第○号 | 原因 平成○年○月○日売買 所有者 ○市○町○番○号 甲野花子 |
| 3 | 所有権移転 | 令和○年6月23日 第○号 | 原因 令和○年6月3日相続 所有者 ○市○町○番○号 甲野大輔 |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
同じ内容を「1行 = 1できごと」に分解すると、こうなります。
記録例: 相続による所有権移転(単独相続)
- 2番所有権移転受付 平成○年○月○日 第○号
甲野花子さんがこの不動産を買って持ち主になった。ここまでは普通の売買。
- 原因
- 平成○年○月○日売買
- 所有者
- ○市○町○番○号 甲野花子
- 3番所有権移転受付 令和○年6月23日 第○号
甲野花子さんが6月3日に亡くなり、相続人の甲野大輔さんがバトンを受け継いだ。原因の日付は「亡くなった日」なので、受付の日(6月23日)より前になる。前の持ち主の花子さんには下線を引かない。
- 原因
- 令和○年6月3日相続
- 所有者
- ○市○町○番○号 甲野大輔
注目は日付のズレです。受付は6月23日なのに、原因は「6月3日相続」。 相続は死亡の瞬間に自動で起こるので、原因日付=被相続人が死亡した日、 受付日=相続人が法務局に申請した日、と読み分けます。 そして前の持ち主(甲野花子さん)に下線は引かれません。 バトンの引き継ぎは「間違いの訂正」ではなく「歴史の1ページ」だからです。
法定相続分と相続のバリエーション
遺言も遺産分割協議もない場合の取り分(法定相続分)は、民法900条で次のように決まっています (昭和56年1月1日以降に開始した相続の場合)。配偶者は常に相続人になります。
| 相続人の組合せ | 配偶者 | 子 | 直系尊属 | 兄弟姉妹 |
|---|---|---|---|---|
| 配偶者と子 | 2分の1 | 2分の1 | — | — |
| 配偶者と直系尊属(親など) | 3分の2 | — | 3分の1 | — |
| 配偶者と兄弟姉妹 | 4分の3 | — | — | 4分の1 |
ここからは、相続まわりの記録例のバリエーションを原本ビューで順に見ていきます。 どれも「目的・原因・日付」の3点セットの読み方は同じで、原因欄の言葉が物語を教えてくれます。
胎児の相続 — おなかの赤ちゃんも相続人
相続では、胎児(たいじ)は「すでに生まれたもの」とみなされます(民法886条1項)。 出生が数か月早いか遅いかで取り分が変わるのは不公平だからです。 登記簿には「法令花子胎児」(母の氏名+胎児)という仮の名前で共有者に載ります(令和5年4月からの書き方)。
| 権 利 部(甲区) (所有権に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 3 | 所有権移転 | 令和6年○月○日 第○○号 | 原因 令和6年○月○日相続 共有者 ○市○町1番2号 持分2分の1 法令花子 ○市○町1番2号 2分の1 法令花子胎児 |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 胎児と共に法定相続分による登記をした場合
- 3番所有権移転受付 令和6年○月○日 第○○号
お父さんが亡くなったとき、お母さん(法令花子さん)のおなかの中にいた赤ちゃんも相続人になれる。まだ名前がないので「法令花子胎児(お母さんの名前+胎児)」という呼び方で、半分ずつの共有者として登記される。
- 原因
- 令和6年○月○日相続
- 共有者
- ○市○町1番2号 持分2分の1 法令花子
- ○市○町1番2号 2分の1 法令花子胎児
その後の展開は2通りです。生きて生まれたら「出生」を原因とする変更登記で本当の名前に貼り替えます。
| 権 利 部(甲区) (所有権に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 3 | 所有権移転 | 令和6年○月○日 第○○号 | 原因 令和6年○月○日相続 共有者 ○市○町1番2号 持分2分の1 法令花子 ○市○町1番2号 2分の1 法令花子胎児 |
| 付記1号 | 3番登記名義人住所、氏名変更 | 令和7年○月○日 第○○号 | 原因 令和7年○月○日出生 共有者法令花子胎児の氏名住所 ○市○町1番2号 法令守 |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 胎児が生きて生まれた場合の変更登記
- 3番所有権移転受付 令和6年○月○日 第○○号
まずは胎児のまま共有者として登記された状態。赤ちゃんが生まれると、下の付記で名前が付け替えられ、「法令花子胎児」という仮の名前とその住所に下線(もう使わない印)が引かれる。
- 原因
- 令和6年○月○日相続
- 共有者
- ○市○町1番2号 持分2分の1 法令花子
- ○市○町1番2号
- 2分の1 法令花子胎児
- 3番 付記1号3番登記名義人住所、氏名変更受付 令和7年○月○日 第○○号
赤ちゃんが無事に生まれて「法令守」という名前が付いたので、仮の名前を本当の名前に書き換えた。原因は「出生」、日付は生まれた日。持ち主が変わるわけではないので、移転ではなく名札の貼り替え(変更登記)でよい。
- 原因
- 令和7年○月○日出生
- 共有者法令花子胎児の氏名住所
- ○市○町1番2号 法令守
残念ながら死産だった場合は、最初から胎児がいなかったものとして「錯誤」による更正登記をします。 変更(その後の出来事による書き換え)と更正(最初から間違い)の使い分けが、ここにも表れています。 更正なので、原因に日付はありません。
| 権 利 部(甲区) (所有権に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 3 | 所有権移転 | 令和6年○月○日 第○○号 | 原因 令和6年○月○日相続 共有者 ○市○町1番2号 持分2分の1 法令花子 ○市○町1番2号 4分の1 法令順子 ○市○町1番2号 4分の1 法令花子胎児 |
| 付記1号 | 3番所有権更正 | 令和7年○月○日 第○○号 | 原因 錯誤 共有者 ○市○町1番2号 持分2分の1 法令花子 ○市○町1番2号 2分の1 法令順子 |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 胎児が死体で生まれた場合の更正登記
- 3番所有権移転受付 令和6年○月○日 第○○号
お母さん・お姉ちゃん・おなかの赤ちゃんの3人で相続登記をした状態。残念ながら赤ちゃんが亡くなって生まれたため、この分け方は「最初から間違いだった」ことになり、共有者の記載全体に下線が引かれた。
- 原因
- 令和6年○月○日相続
- 共有者
- ○市○町1番2号 持分2分の1 法令花子
- ○市○町1番2号 4分の1 法令順子
- ○市○町1番2号 4分の1 法令花子胎児
- 3番 付記1号3番所有権更正受付 令和7年○月○日 第○○号
法律では、亡くなって生まれた赤ちゃんは「最初から相続人ではなかった」と扱う。だから取り消しではなく、間違い直し(更正)として2人の共有に書き直す。原因は「錯誤」で、日付は書かれない。
- 原因
- 錯誤
- 共有者
- ○市○町1番2号 持分2分の1 法令花子
- ○市○町1番2号 2分の1 法令順子
数次相続 — 相続が終わらないうちに次の相続
数次相続(すうじそうぞく)は、相続登記をしないうちに相続人も亡くなって、相続が重なった場合です。 本来は中間の人の名義をいったん経由しますが、中間の相続が単独相続なら、 原因欄に2つの相続を並べて1件の申請で最終の相続人名義にできます。 中間が共同相続の場合はこの省略はできません。
| 権 利 部(甲区) (所有権に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 2 | 所有権移転 | 平成○年○月○日 第○号 | 原因 平成○年○月○日売買 所有者 ○市○町○番○号 山川一郎 |
| 3 | 所有権移転 | 平成○年6月23日 第○号 | 原因 平成20年4月1日山川花子相続 令和○年7月3日相続 共有者 ○市○町○番○号 持分3分の2 山川次郎 ○市○町○番○号 3分の1 赤石恵子 |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 数次の相続が一括して申請された場合
- 2番所有権移転受付 平成○年○月○日 第○号
山川一郎さんが買って持ち主になった。ここから相続が2回重なる物語が始まる。
- 原因
- 平成○年○月○日売買
- 所有者
- ○市○町○番○号 山川一郎
- 3番所有権移転受付 平成○年6月23日 第○号
一郎さんが平成20年に亡くなって花子さんがひとりで相続したのに、登記しないうちに花子さんも亡くなった。中間の花子さんが「ひとり相続」だったので、原因欄に2つの相続を並べて、1回の申請で最終の2人の名義にできた。
- 原因
- 平成20年4月1日山川花子相続 令和○年7月3日相続
- 共有者
- ○市○町○番○号 持分3分の2 山川次郎
- ○市○町○番○号 3分の1 赤石恵子
原因欄の「平成20年4月1日山川花子相続 令和○年7月3日相続」は、 「平成20年にいったん花子さんが相続し、その花子さんが令和○年に亡くなって次の相続が起きた」と読みます。 なお、この記録例は原本の印字どおりに再現していますが、原本では受付欄が「平成○年6月23日」、 原因欄の2つ目の相続が「令和○年7月3日相続」と元号が食い違って印刷されています(誤植とみられます)。 令和の死亡による申請を平成に受け付けることはできないので、制度のうえで筋が通るのは受付も「令和」の読みです。
家督相続・遺産相続 — 古い登記簿に残る旧民法の言葉
明治31年7月16日〜昭和22年5月2日の間に開始した相続には、旧民法が適用されます。 家督相続(かとくそうぞく)は家の主(戸主)の地位と財産をひとりが丸ごと継ぐ制度、 遺産相続は戸主でない家族の財産の承継です。 古い登記簿の調査ではいまでも現役で登場します。
| 権 利 部(甲区) (所有権に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 2 | 所有権移転 | 昭和○年○月○日 第○号 | 原因 昭和20年○月○日家督相続 所有者 ○市○町○番○号 山川一郎 |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 家督相続
- 2番所有権移転受付 昭和○年○月○日 第○号
昔の民法(明治31年〜昭和22年)では、家の主(戸主)の地位と財産を、次の戸主がまるごとひとりで受け継いだ。これが家督相続。古い登記簿でこの原因を見たら「戦前の相続だ」とわかる。
- 原因
- 昭和20年○月○日家督相続
- 所有者
- ○市○町○番○号 山川一郎
| 権 利 部(甲区) (所有権に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 3 | 所有権移転 | 昭和○年6月23日 第○号 | 原因 昭和20年○月○日遺産相続 共有者 ○市○町○番○号 持分2分の1 山川一郎 ○市○町○番○号 2分の1 山川寅次郎 |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 遺産相続(旧民法)
- 3番所有権移転受付 昭和○年6月23日 第○号
旧民法ではもうひとつ、家の主ではない家族が亡くなったときの相続を「遺産相続」と呼んで区別していた。こちらは今の相続に近く、複数人で分け合うことができた。
- 原因
- 昭和20年○月○日遺産相続
- 共有者
- ○市○町○番○号 持分2分の1 山川一郎
- ○市○町○番○号 2分の1 山川寅次郎
相続財産分離 — 財産を混ぜないための裁判所の仕切り
亡くなった人の財産と相続人自身の財産が混ざると、どちらかの債権者が損をすることがあります。 家庭裁判所の審判で相続財産の分離が命じられると、相続人はその財産を勝手に処分できなくなり、 それを第三者に主張するためにこの登記をします(民法945条)。
| 権 利 部(甲区) (所有権に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 3 | 相続財産分離 | 令和○年○月○日 第○号 | 原因 令和○年○月○日相続財産分離 権利者 ○市○町○番地 甲野太郎 |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 相続財産分離
- 3番相続財産分離受付 令和○年○月○日 第○号
亡くなった人の財産と、相続人自身の財産が混ざると、貸したお金を返してもらえなくなる人が出ることがある。そこで家庭裁判所が「この財産は分けて管理しなさい」と決めた印。これが付くと相続人は勝手に処分できない。
- 原因
- 令和○年○月○日相続財産分離
- 権利者
- ○市○町○番地 甲野太郎
相続人不存在 — 持ち主が「財産そのもの」になる
相続人がだれもいないと、法律上は相続財産そのものが法人になります(民法951条)。 このとき行われるのは移転登記ではなく、持ち主の名前を「亡甲野太郎相続財産」に書き換える 氏名変更登記です。原因は「相続人不存在」、日付は亡くなった日で、 被相続人の氏名に下線が引かれます。
| 権 利 部(甲区) (所有権に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 2 | 所有権移転 | 平成○年○月○日 第○号 | 原因 平成○年○月○日売買 所有者 ○市○町○番○号 甲野太郎 |
| 付記1号 | 2番登記名義人氏名変更 | 令和○年○月○日 第○号 | 原因 令和○年○月○日相続人不存在 登記名義人 亡甲野太郎相続財産 |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 相続人不存在(死亡時の住所が登記記録と同じ場合)
- 2番所有権移転受付 平成○年○月○日 第○号
甲野太郎さんが買って持ち主になった。のちに亡くなるが、相続人がだれもいないことがわかる。
- 原因
- 平成○年○月○日売買
- 所有者
- ○市○町○番○号 甲野太郎
- 2番 付記1号2番登記名義人氏名変更受付 令和○年○月○日 第○号
相続人がいないと、法律上は財産そのものが「亡甲野太郎相続財産」という法人になる。持ち主の交代ではないので移転登記ではなく、名札の貼り替え(氏名変更)で済ませ、太郎さんの名前に下線が引かれる。日付は亡くなった日。
- 原因
- 令和○年○月○日相続人不存在
- 登記名義人
- 亡甲野太郎相続財産
亡くなったときの住所が登記簿の住所と違っていた場合は、目的が「○番登記名義人住所、氏名変更」になり、 死亡時の住所もあわせて記録されます。この場合は住所と氏名の両方に下線が引かれます。
| 権 利 部(甲区) (所有権に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 2 | 所有権移転 | 平成○年○月○日 第○号 | 原因 平成○年○月○日売買 所有者 渋谷区○町二丁目3番3号 甲野太郎 |
| 付記1号 | 2番登記名義人住所、氏名変更 | 令和○年○月○日 第○号 | 原因 令和○年○月○日住所移転 令和○年○月○日相続人不存在 登記名義人 港区○町一丁目1番1号 亡甲野太郎相続財産 |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 相続人不存在(被相続人の住所に変更がある場合)
- 2番所有権移転受付 平成○年○月○日 第○号
甲野太郎さんが渋谷区に住んでいたころに買った不動産。その後引っ越し、引っ越し先で亡くなった。
- 原因
- 平成○年○月○日売買
- 所有者
- 渋谷区○町二丁目3番3号 甲野太郎
- 2番 付記1号2番登記名義人住所、氏名変更受付 令和○年○月○日 第○号
亡くなったときの住所が登記簿の住所と違っていたので、住所の引っ越しと「相続財産」への名札の貼り替えをまとめて記録した。だから目的が「住所、氏名変更」になり、死亡時の住所(港区)も書かれる。
- 原因
- 令和○年○月○日住所移転 令和○年○月○日相続人不存在
- 登記名義人
- 港区○町一丁目1番1号 亡甲野太郎相続財産
遺留分減殺 — もう新しくは登場しない原因
遺言で全財産を譲られても、兄弟姉妹以外の相続人には最低限の取り分(遺留分・いりゅうぶん)があります。 改正前の民法では、この取り分を不動産の持分そのもので取り戻せたため、 「遺留分減殺(げんさい)」を原因とする所有権一部移転の登記がされました。 令和元年7月1日以後に開始した相続では金銭請求に一本化されたため、この原因の登記は新しくはされません。 過去の登記簿を読むための知識です。
| 権 利 部(甲区) (所有権に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 3 | 所有権一部移転 | 平成○年○月○日 第○号 | 原因 平成○年○月○日遺留分減殺 共有者 ○市○町○番○号 持分4分の1 山川一郎 ○市○町○番○号 4分の1 山川花子 |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 遺留分減殺
- 3番所有権一部移転受付 平成○年○月○日 第○号
「全部あの人にあげる」という遺言があっても、家族には最低限の取り分(遺留分)が守られる。昔はその取り分を不動産の持分で取り戻せたので、こういう一部移転の登記がされた。今の法律ではお金で請求する仕組みに変わり、この登記は新しくはされない。
- 原因
- 平成○年○月○日遺留分減殺
- 共有者
- ○市○町○番○号 持分4分の1 山川一郎
- ○市○町○番○号 4分の1 山川花子
相続人申告登記 — 義務化時代の「とりあえずの一手」
令和6年4月1日から相続登記の申請が義務になり、自分が相続人になったと知った日から 3年以内に相続登記を申請しなければならなくなりました(法76条の2)。 でも、遺産分割協議がまとまらないこともあります。そのための救済が相続人申告登記(法76条の3)。 「相続が始まったこと」と「自分が相続人であること」を申し出るだけで、登記義務を果たしたとみなされる制度です。
| 権 利 部(甲区) (所有権に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 3 | 所有権移転 | 昭和○年○月○日 第○○号 | 原因 昭和○年○月○日売買 所有者 ○市○町1番2号 法令太郎 |
| 付記1号 | 相続人申告 | 令和○年○月○日 第○○号 | 原因 令和○年○月○日申出 相続開始年月日 令和○年○月○日 法令太郎の相続人として申出があった者 ○市○町○○番○号 法令花子 |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 相続人申告登記(単有の登記名義人の相続人が単独で申出)
- 3番所有権移転受付 昭和○年○月○日 第○○号
法令太郎さんが昭和の時代に買ったまま、登記が止まっている状態。
- 原因
- 昭和○年○月○日売買
- 所有者
- ○市○町1番2号 法令太郎
- 3番 付記1号相続人申告受付 令和○年○月○日 第○○号
法令太郎さんが亡くなったあと、相続人の法令花子さんが「相続が始まったこと」と「私が相続人です」をとりあえず届け出たメモ。3年以内の相続登記義務はこれでひとまずセーフになるが、持ち主の交代を示す登記ではないので、売るときは本物の相続登記が必要。
- 原因
- 令和○年○月○日申出
- 相続開始年月日
- 令和○年○月○日
- 法令太郎の相続人として申出があった者
- ○市○町○○番○号 法令花子
付記登記でされ、原因は「申出」、日付は申出の受付日です。 大事なのは、これは所有権の移転を公示するものではないこと。 宿題の提出期限に「やります宣言」を出してセーフにしてもらった状態に近く、 不動産を売るときには結局、本物の相続登記が必要になります。
所有権移転(2)会社の合併等 — 組織のバトンタッチ
会社が合併すると、消える会社の権利義務は合併後の会社がまるごと(包括的に)引き継ぎます。 不動産も例外ではなく、形は所有権移転登記で付け替えます。 原因は新設合併でも吸収合併でも「合併」とだけ記録され、日付は合併の効力が生じた日です。
| 権 利 部(甲区) (所有権に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 1 | 所有権保存 | 平成○年○月○日 第○号 | 所有者 ○市○町○番○号 株式会社B |
| 2 | 所有権移転 | 令和4年○月○日 第○号 | 原因 令和4年8月3日合併 所有者 ○市○町○番○号 株式会社A |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 会社の合併による承継
- 1番所有権保存受付 平成○年○月○日 第○号
株式会社Bがこの不動産の最初の持ち主として登録された。
- 所有者
- ○市○町○番○号 株式会社B
- 2番所有権移転受付 令和4年○月○日 第○号
株式会社Aが株式会社Bを合併して、Bの財産をまるごと引き継いだ。会社が消えてもこの不動産が宙に浮かないよう、形は移転登記でAに付け替える。日付は合併の効力が生じた日で、新設合併でも吸収合併でも原因は「合併」とだけ書く。
- 原因
- 令和4年8月3日合併
- 所有者
- ○市○町○番○号 株式会社A
国の公団や独立行政法人などの特殊法人も、法律によって解散・承継が起こります。 この場合は原因欄に根拠となる法律の条文名がそのまま記録されるので、 原因欄がとても長くなるのが見た目の特徴です。
| 権 利 部(甲区) (所有権に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 3 | 所有権移転 | 平成11年10月29日 第○号 | 原因 平成11年10月1日都市基盤整備公団法附則第6条第1項の権利承継 所有者 千代田区九段北一丁目14番6号 都市基盤整備公団 |
| 4 | 所有権移転 | 平成16年○月○日 第○号 | 原因 平成16年7月1日独立行政法人都市再生機構法附則第4条第1項の権利承継 所有者 横浜市中区本町六丁目50番地1 独立行政法人都市再生機構 |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 特殊法人の包括承継(独立行政法人都市再生機構)
- 3番所有権移転受付 平成11年10月29日 第○号
国の組織替えで「住宅・都市整備公団」が解散し、財産がまるごと「都市基盤整備公団」へ。会社の合併と違い、法律がそのまま引っ越しの原因になるので、原因欄に法律の条文名が書かれる。
- 原因
- 平成11年10月1日都市基盤整備公団法附則第6条第1項の権利承継
- 所有者
- 千代田区九段北一丁目14番6号 都市基盤整備公団
- 4番所有権移転受付 平成16年○月○日 第○号
さらに組織替えがあり、今度は「独立行政法人都市再生機構(UR)」へバトンタッチ。原因欄の法律名を追えば、国の組織の歴史がそのまま読める。
- 原因
- 平成16年7月1日独立行政法人都市再生機構法附則第4条第1項の権利承継
- 所有者
- 横浜市中区本町六丁目50番地1 独立行政法人都市再生機構
| 権 利 部(甲区) (所有権に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 3 | 所有権移転 | 平成13年○月○日 第○号 | 原因 平成13年4月1日年金福祉事業団の解散及び業務の承継等に関する法律第1条第1項により承継 所有者 千代田区霞が関一丁目4番1号 年金資金運用基金 |
| 4 | 所有権移転 | 平成18年○月○日 第○号 | 原因 平成18年4月1日年金積立金管理運用独立行政法人法(平成16年法律第105号)附則第3条第1項により承継 所有者 港区虎ノ門四丁目3番13号 独立行政法人福祉医療機構 |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 特殊法人の包括承継(年金資金運用基金)
- 3番所有権移転受付 平成13年○月○日 第○号
「年金福祉事業団」が法律で解散し、その財産が「年金資金運用基金」に引き継がれた記録。原因欄が長い法律名になるのが特殊法人の承継の特徴。
- 原因
- 平成13年4月1日年金福祉事業団の解散及び業務の承継等に関する法律第1条第1項により承継
- 所有者
- 千代田区霞が関一丁目4番1号 年金資金運用基金
- 4番所有権移転受付 平成18年○月○日 第○号
年金資金運用基金も解散し、この不動産は「独立行政法人福祉医療機構」へ。組織の名前が変わるたびに移転登記が積み重なっていく。
- 原因
- 平成18年4月1日年金積立金管理運用独立行政法人法(平成16年法律第105号)附則第3条第1項により承継
- 所有者
- 港区虎ノ門四丁目3番13号 独立行政法人福祉医療機構
所有権移転(3)売買 — 持分の算数に強くなる
売買による移転登記は、売主(登記義務者)と買主(登記権利者)が共同で申請するのが原則です(法60条)。 相手が協力しないときは、移転登記を命ずる確定判決を取れば単独で申請できます。 原因は「売買」、日付は売買契約が成立した日(代金受領を成立の条件にした特約があれば受領日)。 基本形(2番の持ち主から3番の持ち主へ交代)は第1章で見たとおりで、ここでも前の持ち主に下線は引かれません。 なお、AからB、BからCと転売されたとき、登記だけA→Cへ飛ばす中間省略登記は申請できません (判決による場合や、最初から第三者へ直接所有権を移す「第三者のためにする契約」は別です)。
持分の移転 — 「書いてある数字」と「今の持分」は別物
共有の不動産では、登記の目的が「乙川あゆみ持分一部移転」のように人名入りになります。 ここで甲区でいちばんつまずく読み方が出てきます。
| 権 利 部(甲区) (所有権に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 3 | 所有権移転 | 平成○年○月○日 第○号 | 原因 平成○年○月○日売買 共有者 ○市○町○番○号 持分2分の1 甲野太郎 ○市○町○番○号 2分の1 乙川あゆみ |
| 4 | 乙川あゆみ持分一部移転 | 令和○年7月8日 第○号 | 原因 令和○年7月3日売買 共有者 ○市○町○番○号 持分4分の1 丙田次郎 |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 共有持分の一部移転(売買)
- 3番所有権移転受付 平成○年○月○日 第○号
甲野太郎さんと乙川あゆみさんが半分ずつ(2分の1ずつ)で共有している状態。
- 原因
- 平成○年○月○日売買
- 共有者
- ○市○町○番○号 持分2分の1 甲野太郎
- ○市○町○番○号 2分の1 乙川あゆみ
- 4番乙川あゆみ持分一部移転受付 令和○年7月8日 第○号
乙川あゆみさんが自分の持分の半分を丙田次郎さんに売った。書いてある「4分の1」は不動産全体に対する割合。3番の乙川さんの「2分の1」は書き換えられないので、今の持分は引き算(2分の1−4分の1=4分の1)で読む。
- 原因
- 令和○年7月3日売買
- 共有者
- ○市○町○番○号 持分4分の1 丙田次郎
4番で丙田次郎さんが取得した「持分4分の1」は、不動産全体に対する割合です。 一方、3番の乙川あゆみさんの「2分の1」という記載は売ったあとも書き換えられず残ります。 だから今の持分は自分で引き算します: 乙川あゆみ = 2分の1 − 4分の1 = 4分の1。 結果、甲野太郎2分の1・乙川あゆみ4分の1・丙田次郎4分の1の共有、と読むのが正解です。 レシートの「残高」欄がない家計簿のようなもので、足し算・引き算は読む人の仕事です。
関連する目的のバリエーションも、名前から意味が読めます。 「甲野太郎持分全部移転」は甲野さんの持分まるごと、 「共有者全員持分全部移転」は全員の持分を1人がまとめて買って単独所有になる場合 (このとき権利者の表記は「所有者」になり、持分は書きません)。 ただし共有者の1人の持分にだけ抵当権が付いているときは、まとめ方式は使えず1人ずつ別々に移転登記をします。 また「乙川あゆみ持分一部(順位3番で登記した持分)移転」という長い目的は、 2回に分けて取得した持分のうち「抵当権が付いていない方の持分」を特定して売るための書き方です。
所有権移転(4)その他の原因 — 原因と日付の早見表
甲区の原因欄には、売買・相続以外にもいろいろな言葉が登場します。 それぞれ「日付が何の日か」までセットで覚えると、記録から物語を復元できます。
| 原因 | 日付は何の日? | ひとこと |
|---|---|---|
| 売買 | 契約成立の日 | 代金受領を条件とする特約があれば受領日 |
| 相続 | 被相続人が死亡した日 | 遺言・遺産分割・法定相続のどれでも原因は「相続」 |
| 遺贈(いぞう) | 遺言者が死亡した日 | 遺言で相続人以外にも譲れる。相続人への遺贈は令和5年4月から受遺者が単独申請できる |
| 贈与 | 契約成立の日 | 死因贈与(死んだらあげる契約)は贈与者が死亡した日。原因はどちらも「贈与」 |
| 財産分与 | 分与契約成立の日 | 離婚にともなう分配。日付は離婚と同日かそれ以後になる |
| 時効取得 | 時効期間の開始の日(起算日) | 満了日ではない点に注意。時効の効力は起算日にさかのぼる(民法144条) |
| 真正な登記名義の回復 | 日付なし | 抵当権などを生かしたまま、名義だけを正しい所有者に付け替える便法 |
| 共有物分割 | 分割協議成立の日 | 共有関係の解消。2つの土地を交換して「1人1つずつ」にする例が典型 |
| 持分放棄 | — | 放棄された持分は他の共有者に持分割合で帰属する(民法255条) |
| 遺産分割 | 分割協議成立の日 | 法定相続の登記をしたあとに協議がまとまった場合。令和5年4月からは更正登記でもできる(次節) |
とくに引っかかりやすいのが時効取得です。20年(善意無過失なら10年)住み続けて時効が完成したのに、 日付は「住み始めた日」。時効の効果が起算日にさかのぼるためで、登記簿の日付だけ見ると 「ずいぶん昔に取得したのに今ごろ登記?」と見える理由がこれです。 真正な登記名義の回復は、本当はAの物なのにB名義になっているとき、 Bの登記を抹消するとBが付けた抵当権者の承諾が必要になって動けない — そこで 「B→Aへの移転」という形だけ借りて名義を直す実務の知恵です。実際の売買はないので日付もありません。 では、ここからは原文の1〜16の型を、記録例で順に見ていきます (遺留分減殺は相続の節で紹介済みです)。
相続・合併・売買のほかに代表的な所有権移転の原因 — 16の型
- 遺贈
- 遺産分割
- 贈与
- 真正な登記名義の回復
- 時効取得
- 民法646条2項の規定による委任者への所有権移転
- 法人格のない社団の構成員全員の共有名義を代表者の単有名義とする所有権移転
- 民法287条の放棄による所有権移転
- 共有者の一人が死亡した場合の特別縁故者不存在による移転
- 民法958条の2の規定による審判による移転
- 民法262条の2の裁判による共有持分の移転
- 共有物分割
- 代物弁済
- 財産分与
- 相続分の譲渡(贈与または売買)
- 持分放棄による移転
遺贈 — 遺言で家族以外にも譲れる
遺贈(いぞう)は、遺言で財産を譲ることです。もらう人(受遺者)は相続人でなくても、会社でもかまいません。 原因は「遺贈」、日付は遺言の効力が生じる日=遺言者が亡くなった日です。 令和5年4月からは、相続人への遺贈に限り受遺者がひとりで申請できるようになりました。
| 権 利 部(甲区) (所有権に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 2 | 所有権移転 | 平成○年○月○日 第○号 | 原因 平成○年○月○日売買 所有者 ○市○町○番○号 甲野大助 |
| 3 | 所有権移転 | 令和○年○月○日 第○号 | 原因 令和○年○月○日遺贈 所有者 ○市○町○番○号 甲野太郎 |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 遺贈(特定遺贈及び包括遺贈)
- 2番所有権移転受付 平成○年○月○日 第○号
甲野大助さんが買って持ち主になった。のちに遺言を残して亡くなる。
- 原因
- 平成○年○月○日売買
- 所有者
- ○市○町○番○号 甲野大助
- 3番所有権移転受付 令和○年○月○日 第○号
大助さんの遺言で甲野太郎さんがこの不動産をもらった。家族以外の人や会社にも遺言で譲れるのが「遺贈」で、相続と区別される。日付は遺言の効力が生まれる日=遺言者が亡くなった日。
- 原因
- 令和○年○月○日遺贈
- 所有者
- ○市○町○番○号 甲野太郎
遺産分割 — 法定相続で登記したあとのまとめ直し
法定相続分でいったん共有の登記をしたあとに遺産分割協議がまとまった場合、 「遺産分割」を原因とする持分移転で最終の形に直せます。日付は協議成立の日です。 所有権更正の節で見たとおり、令和5年4月からは更正登記の単独申請という近道もできました。
| 権 利 部(甲区) (所有権に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 2 | 所有権移転 | 令和3年○月○日 第○号 | 原因 令和3年○月○日相続 共有者 ○市○町○番○号 持分4分の2 甲野花子 ○市○町○番○号 4分の1 甲野和子 ○市○町○番○号 4分の1 吉田玲子 |
| 3 | 甲野和子、吉田玲子持分全部移転 | 令和4年2月2日 第○号 | 原因 令和4年1月5日遺産分割 所有者 ○市○町○番○号 持分2分の1 甲野花子 |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 遺産分割(法定相続登記後)による移転
- 2番所有権移転受付 令和3年○月○日 第○号
話し合いがまとまる前に、ひとまず民法どおりの割合(お母さん4分の2、子ども4分の1ずつ)で相続登記をした状態。
- 原因
- 令和3年○月○日相続
- 共有者
- ○市○町○番○号 持分4分の2 甲野花子
- ○市○町○番○号 4分の1 甲野和子
- ○市○町○番○号 4分の1 吉田玲子
- 3番甲野和子、吉田玲子持分全部移転受付 令和4年2月2日 第○号
その後「お母さんがひとりで相続する」と話し合いがまとまったので、子ども2人の持分をお母さんに移した。原因は「遺産分割」、日付は協議がまとまった日。令和5年4月からは更正登記(付記)でもできるようになった。
- 原因
- 令和4年1月5日遺産分割
- 所有者
- ○市○町○番○号 持分2分の1 甲野花子
贈与 — タダであげる。死因贈与も原因は同じ
あげる・もらうの合意で成立するのが贈与。「死んだらあげる」と約束する死因贈与も、 条件付きの負担付贈与も、登記原因はすべて「贈与」です。 日付は契約成立の日(死因贈与は贈与者が死亡した日)。
| 権 利 部(甲区) (所有権に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 2 | 所有権移転 | 平成○年○月○日 第○号 | 原因 平成○年○月○日売買 所有者 ○市○町○番○号 甲野花子 |
| 3 | 所有権移転 | 令和○年○月○日 第○号 | 原因 令和○年○月○日贈与 所有者 ○市○町○番○号 甲野太郎 |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 贈与(死因贈与を含む)
- 2番所有権移転受付 平成○年○月○日 第○号
甲野花子さんが買って持ち主になった。
- 原因
- 平成○年○月○日売買
- 所有者
- ○市○町○番○号 甲野花子
- 3番所有権移転受付 令和○年○月○日 第○号
花子さんが太郎さんにタダであげた(贈与)。「死んだらあげる」と約束する死因贈与でも、原因は同じ「贈与」。日付はふつうの贈与なら契約の日、死因贈与ならあげる人が亡くなった日。
- 原因
- 令和○年○月○日贈与
- 所有者
- ○市○町○番○号 甲野太郎
真正な登記名義の回復 — 日付のない移転
間違った名義を抹消で消そうとすると、その名義人が付けた抵当権者などの承諾が必要になって動けないことがあります。 そこで移転の形だけ借りて正しい持ち主へ名義を直すのがこの原因。 原因欄に日付がないのが最大の目印で、実際の取引がないことを物語っています。
| 権 利 部(甲区) (所有権に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 2 | 所有権移転 | 平成○年○月○日 第○号 | 原因 平成○年○月○日売買 所有者 ○市○町○番○号 乙川次郎 |
| 3 | 所有権移転 | 令和○年○月○日 第○号 | 原因 真正な登記名義の回復 所有者 ○市○町○番○号 甲野太郎 |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 真正な登記名義の回復
- 2番所有権移転受付 平成○年○月○日 第○号
本当は甲野太郎さんの物なのに、何かの事情で乙川次郎さんの名義になってしまっている状態。
- 原因
- 平成○年○月○日売買
- 所有者
- ○市○町○番○号 乙川次郎
- 3番所有権移転受付 令和○年○月○日 第○号
間違った名義を消すには抵当権者などの承諾が要って大変。そこで「乙川→甲野へ移転」という形だけ借りて、正しい持ち主に名義を直した。実際の売買はないので、原因に日付がないのが目印。
- 原因
- 真正な登記名義の回復
- 所有者
- ○市○町○番○号 甲野太郎
時効取得 — 日付が大きく過去にさかのぼる
他人の不動産でも、20年(善意無過失なら10年)占有を続けると所有権を取得できます(民法162条)。 時効の効果は占有を始めた日(起算日)にさかのぼるので、 受付は令和なのに原因の日付は平成、という大きなズレが生まれます。
| 権 利 部(甲区) (所有権に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 2 | 所有権移転 | 平成○年○月○日 第○号 | 原因 平成○年○月○日売買 所有者 ○市○町○番○号 乙川次郎 |
| 3 | 所有権移転 | 令和○年○月○日 第○号 | 原因 平成○年○月○日時効取得 所有者 ○市○町○番○号 甲野太郎 |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 時効取得
- 2番所有権移転受付 平成○年○月○日 第○号
登記簿の上では乙川次郎さんの土地。でも実際には別の人が長年住み続けていた。
- 原因
- 平成○年○月○日売買
- 所有者
- ○市○町○番○号 乙川次郎
- 3番所有権移転受付 令和○年○月○日 第○号
甲野太郎さんが20年(落ち度なく信じていたなら10年)住み続けて時効が完成し、所有権を取得した。時効の効果は「住み始めた日」にさかのぼるので、受付は令和なのに原因の日付が平成と、大きくずれるのが特徴。
- 原因
- 平成○年○月○日時効取得
- 所有者
- ○市○町○番○号 甲野太郎
民法646条2項 — 「代わりに買っておいて」の精算
頼まれて自分名義で買っておいた不動産を、頼んだ本人(委任者)へ引き渡すときの移転です。 原因欄には「民法第646条第2項による移転」と条文がそのまま記録されます。
| 権 利 部(甲区) (所有権に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 2 | 所有権移転 | 令和○年○月○日 第○号 | 原因 令和○年○月○日民法第646条第2項による移転 所有者 ○市○町○番○号 甲野太郎 |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 民法646条2項の規定による委任者への所有権移転
- 2番所有権移転受付 令和○年○月○日 第○号
「私の代わりに買っておいて」と頼まれた人(受任者)が、いったん自分の名前で買って登記していた不動産を、頼んだ本人(甲野太郎さん)に引き渡した記録。原因欄に民法の条文番号がそのまま書かれる珍しいタイプ。
- 原因
- 令和○年○月○日民法第646条第2項による移転
- 所有者
- ○市○町○番○号 甲野太郎
委任の終了 — 法人になれない団体の名義の付け替え
同窓会や町内会のような法人格のない社団は、団体名では登記できないため、 代表者(または構成員全員)の名義で登記します。代表者が交代したときの付け替えの原因が 「委任の終了」です。中身は同じ団体の財産なのに、登記の形は移転になります。
| 権 利 部(甲区) (所有権に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 2 | 所有権移転 | 平成○年○月○日 第○号 | 原因 平成○年○月○日売買 共有者 ○市○町○番○号 持分3分の1 甲野花子 ○市○町○番○号 3分の1 乙川次郎 ○市○町○番○号 3分の1 丙田恵子 |
| 3 | 乙川次郎、丙田恵子持分全部移転 | 令和○年○月○日 第○号 | 原因 令和○年○月○日委任の終了 所有者 ○市○町○番○号 持分3分の2 甲野花子 |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 委任の終了
- 2番所有権移転受付 平成○年○月○日 第○号
同窓会や町内会のような「法人になっていない団体」は、団体の名前では登記できない。そこで代表者3人の共有名義で登記してある状態。肩書(代表)は書けない決まり。
- 原因
- 平成○年○月○日売買
- 共有者
- ○市○町○番○号 持分3分の1 甲野花子
- ○市○町○番○号 3分の1 乙川次郎
- ○市○町○番○号 3分の1 丙田恵子
- 3番乙川次郎、丙田恵子持分全部移転受付 令和○年○月○日 第○号
代表者が交代して花子さんひとりが名義人になることに。団体の財産を預かる「委任」が終わったという意味で、原因は「委任の終了」。団体の中身は何も変わっていないのに、登記の形は移転になる。
- 原因
- 令和○年○月○日委任の終了
- 所有者
- ○市○町○番○号 持分3分の2 甲野花子
民法287条の放棄 — 義務から抜けるために土地を手放す
水路の修繕義務などが付いた地役権(ちえきけん)の土地(承役地)の持ち主は、 その部分の所有権を地役権者に放棄して義務から抜けられます(民法287条)。 甲区には条文を原因とする移転が載り、乙区を見ると放棄の理由になった重い特約が読めます。 甲区と乙区をセットで読む練習にぴったりの記録例です。
| 権 利 部(甲区) (所有権に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 2 | 所有権移転 | 令和○年○月○日 第○号 | 原因 令和○年○月○日民法第287条による放棄 所有者 ○市○町○番○号 甲野太郎 |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 民法287条の放棄による所有権移転(承役地の甲区)
- 2番所有権移転受付 令和○年○月○日 第○号
隣の土地(要役地)のために水路の修繕などを引き受ける義務(地役権の特約)を負っていた土地の持ち主が、「義務から抜けたいので土地ごと差し上げます」と所有権を放棄して、地役権者の甲野太郎さんに渡した記録。これも原因欄に条文番号が書かれる。
- 原因
- 令和○年○月○日民法第287条による放棄
- 所有者
- ○市○町○番○号 甲野太郎
| 権 利 部(乙区) (所有権以外の権利に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 1 | 地役権設定 | 令和○年○月○日 第○号 | 原因 令和○年○月○日設定 目的 用水使用 範囲 全部 特約 用水は要役地のためにまず使用し承役地の所有者は用水使用のための溝を修繕する義務を負う 要役地 ○市○町○番 |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 承役地の乙区(民法286条の特約がある地役権)
- 1番地役権設定受付 令和○年○月○日 第○号
甲区の放棄の前提になっている地役権はこれ。「水はまず隣の土地のために使い、溝の修繕はこの土地の持ち主がやる」という重い特約付き。この義務から抜けるために、甲区で見た「土地ごと差し上げる」放棄ができる。
- 原因
- 令和○年○月○日設定
- 目的
- 用水使用
- 範囲
- 全部
- 特約
- 用水は要役地のためにまず使用し承役地の所有者は用水使用のための溝を修繕する義務を負う
- 要役地
- ○市○町○番
特別縁故者をめぐる2つの結末
共有者のひとりが相続人なしで亡くなると、その持分の行き先は2通りに分かれます。 特別縁故者(生計を共にした人・療養看護に努めた人など)が現れなければ他の共有者へ(民法255条)、 現れて家庭裁判所に認められれば特別縁故者へ(民法958条の2。共有者より優先)。 どちらも、まず「亡○○相続財産」への氏名変更(付記)を済ませてから移転する2段構えです。
| 権 利 部(甲区) (所有権に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 1 | 所有権保存 | 平成○年○月○日 第○号 | 共有者 ○市○町○番○号 持分2分の1 甲野太郎 ○市○町○番○号 2分の1 乙野花子 |
| 付記1号 | 1番登記名義人氏名変更 | 令和○年○月○日 第○号 | 原因 令和○年○月○日相続人不存在 共有者乙野花子の登記名義人 亡乙野花子相続財産 |
| 2 | 亡乙野花子相続財産持分全部移転 | 令和○年○月○日 第○号 | 原因 令和○年○月○日特別縁故者不存在確定 所有者 ○市○町○番○号 持分2分の1 甲野太郎 |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 特別縁故者不存在による移転
- 1番所有権保存受付 平成○年○月○日 第○号
甲野太郎さんと乙野花子さんが半分ずつ持っていた不動産。花子さんが亡くなったが、相続人がだれもいなかった。
- 共有者
- ○市○町○番○号 持分2分の1 甲野太郎
- ○市○町○番○号 2分の1 乙野花子
- 1番 付記1号1番登記名義人氏名変更受付 令和○年○月○日 第○号
まず花子さんの持分の名札を「亡乙野花子相続財産」という法人に貼り替える。この準備をしないと、次の移転に進めない決まり。
- 原因
- 令和○年○月○日相続人不存在
- 共有者乙野花子の登記名義人
- 亡乙野花子相続財産
- 2番亡乙野花子相続財産持分全部移転受付 令和○年○月○日 第○号
「特別お世話になった人(特別縁故者)」も現れなかったので、民法255条のルールに戻って、もうひとりの共有者の太郎さんに持分が移った。日付は申立期間が終わった日(または却下確定日)の翌日。
- 原因
- 令和○年○月○日特別縁故者不存在確定
- 所有者
- ○市○町○番○号 持分2分の1 甲野太郎
| 権 利 部(甲区) (所有権に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 1 | 所有権保存 | 平成○年○月○日 第○号 | 共有者 ○市○町○番○号 持分2分の1 甲野太郎 ○市○町○番○号 2分の1 乙野花子 |
| 付記1号 | 1番登記名義人氏名変更 | 令和○年○月○日 第○号 | 原因 令和○年○月○日相続人不存在 共有者乙野花子の登記名義人 亡乙野花子相続財産 |
| 2 | 亡乙野花子相続財産持分全部移転 | 令和○年○月○日 第○号 | 原因 令和○年○月○日民法第958条の2の審判 共有者 ○市○町○番○号 持分2分の1 山田めぐみ |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 特別縁故者に帰属した場合(民法958条の2の審判)
- 1番所有権保存受付 平成○年○月○日 第○号
こちらも、共有者の乙野花子さんが相続人なしで亡くなったところから始まる。
- 共有者
- ○市○町○番○号 持分2分の1 甲野太郎
- ○市○町○番○号 2分の1 乙野花子
- 1番 付記1号1番登記名義人氏名変更受付 令和○年○月○日 第○号
前提の名札の貼り替えはさっきと同じ。「亡乙野花子相続財産」という法人にしておく。
- 原因
- 令和○年○月○日相続人不存在
- 共有者乙野花子の登記名義人
- 亡乙野花子相続財産
- 2番亡乙野花子相続財産持分全部移転受付 令和○年○月○日 第○号
今度は、花子さんの療養看護に努めるなど特別お世話になった山田めぐみさんが家庭裁判所に認められ、持分をもらった。原因は条文そのままの「民法第958条の2の審判」、日付は審判が確定した日。共有者よりも特別縁故者が優先される。
- 原因
- 令和○年○月○日民法第958条の2の審判
- 共有者
- ○市○町○番○号 持分2分の1 山田めぐみ
原因の違いに注目してください。共有者ルートは「特別縁故者不存在確定」 (日付は申立期間満了日または却下確定日の翌日)、 特別縁故者ルートは「民法第958条の2の審判」(日付は審判確定日)です。
民法262条の2の裁判 — 行方不明の共有者の持分を引き取る
共有者の所在がわからないと、売ることも大きな修繕もできません。 令和5年からの新制度で、裁判所の裁判により所在等不明共有者の持分を取得できるようになりました (相続による共有なら相続開始から10年経過が必要。時価相当額は供託します)。
| 権 利 部(甲区) (所有権に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 3 | 所有権移転 | 平成○年○月○日 第○○号 | 原因 平成○年○月○日相続 共有者 ○市○町1番2号 持分2分の1 甲野太郎 ○市○町1番2号 2分の1 甲野二郎 |
| 4 | 甲野二郎持分全部移転 | 令和6年○月○日 第○○号 | 原因 令和6年○月○日民法第262条の2の裁判 所有者 ○市○町1番2号 持分2分の1 甲野太郎 |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 民法262条の2の裁判による所有権移転
- 3番所有権移転受付 平成○年○月○日 第○○号
兄弟で父の不動産を相続して半分ずつの共有に。ところが弟の二郎さんがどこにいるかわからなくなってしまった。
- 原因
- 平成○年○月○日相続
- 共有者
- ○市○町1番2号 持分2分の1 甲野太郎
- ○市○町1番2号 2分の1 甲野二郎
- 4番甲野二郎持分全部移転受付 令和6年○月○日 第○○号
行方不明の共有者がいると売ることも貸すこともできない。相続から10年たてば、裁判所に「行方不明の人の持分を私に取得させて」と頼める制度(令和5年〜)ができた。お金(時価相当額)は供託して預けておく。
- 原因
- 令和6年○月○日民法第262条の2の裁判
- 所有者
- ○市○町1番2号 持分2分の1 甲野太郎
共有物分割 — 共有関係の解消
共有者はいつでも分割を請求して共有をやめられます(民法256条)。 土地を割る現物分割、売って代金を分ける代金分割、ひとりが引き取って他へお金を払う価格賠償の3方式があり、 登記の上では「共有物分割」を原因とする持分移転になります。
| 権 利 部(甲区) (所有権に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 2 | 所有権移転 | 平成○年○月○日 第○号 | 原因 平成○年○月○日売買 共有者 ○市○町○番○号 持分2分の1 甲野太郎 ○市○町○番○号 2分の1 乙川次郎 |
| 3 | 甲野太郎持分全部移転 | 令和○年○月○日 第○号 | 原因 令和○年○月○日共有物分割 所有者 ○市○町○番○号 持分2分の1 乙川次郎 |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 共有物分割(持分移転)
- 2番所有権移転受付 平成○年○月○日 第○号
甲野太郎さんと乙川次郎さんが半分ずつ持っている状態。共有は何をするにも相手の同意が要って窮屈。
- 原因
- 平成○年○月○日売買
- 共有者
- ○市○町○番○号 持分2分の1 甲野太郎
- ○市○町○番○号 2分の1 乙川次郎
- 3番甲野太郎持分全部移転受付 令和○年○月○日 第○号
「共有をやめよう」と話し合い、この土地は乙川さんの単独所有に(代わりに別の土地を甲野さんが取る、というのが典型)。原因は「共有物分割」、日付は協議がまとまった日。
- 原因
- 令和○年○月○日共有物分割
- 所有者
- ○市○町○番○号 持分2分の1 乙川次郎
代物弁済 — お金の代わりに不動産で払う
借金を現金ではなく物で返す約束が代物弁済(だいぶつべんさい)です(民法482条)。 原因は「代物弁済」、日付は契約成立の日。
| 権 利 部(甲区) (所有権に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 2 | 所有権移転 | 令和○年○月○日 第○号 | 原因 令和○年○月○日代物弁済 所有者 ○市○町○番○号 乙川次郎 |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 代物弁済
- 2番所有権移転受付 令和○年○月○日 第○号
借りたお金を現金で返す代わりに、不動産そのもので支払った記録。「お金の代わりの物で弁済」だから代物弁済。日付は契約が成立した日。
- 原因
- 令和○年○月○日代物弁済
- 所有者
- ○市○町○番○号 乙川次郎
財産分与 — 離婚にともなう分け前
離婚した夫婦の一方から他方への財産の分配が財産分与です(民法768条)。 日付は分与契約成立の日なので、離婚と同日かそれ以後になります。
| 権 利 部(甲区) (所有権に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 2 | 所有権移転 | 平成○年○月○日 第○号 | 原因 平成○年○月○日売買 所有者 ○市○町○番○号 甲野太郎 |
| 3 | 所有権移転 | 令和○年○月○日 第○号 | 原因 令和○年○月○日財産分与 所有者 ○市○町○番○号 甲野花子 |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 財産分与を原因とする所有権移転
- 2番所有権移転受付 平成○年○月○日 第○号
結婚していたころに甲野太郎さん名義で買った家。
- 原因
- 平成○年○月○日売買
- 所有者
- ○市○町○番○号 甲野太郎
- 3番所有権移転受付 令和○年○月○日 第○号
離婚にともない、夫婦で築いた財産の分け前としてこの家が花子さんへ。原因は「財産分与」、日付は分与の契約がまとまった日なので、離婚と同じ日かそれより後になる。
- 原因
- 令和○年○月○日財産分与
- 所有者
- ○市○町○番○号 甲野花子
共有持分の分与では、もらう側が引っ越し済みなら先に住所変更の付記を入れてから移転します。 受付番号が第99号→第100号と連番なのは、2件まとめて申請された印です。
| 権 利 部(甲区) (所有権に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 3 | 所有権移転 | 平成○年○月○日 第○号 | 原因 平成○年○月○日売買 共有者 甲市○町1番2号 持分2分の1 甲野太郎 甲市○町1番2号 2分の1 甲野花子 |
| 付記1号 | 3番登記名義人住所変更 | 令和○年○月○日 第99号 | 原因 平成○年○月○日住所移転 共有者甲野花子の住所 乙市○町3番4号 |
| 4 | 甲野太郎持分全部移転 | 令和○年○月○日 第100号 | 原因 令和○年○月○日財産分与 所有者 乙市○町3番4号 持分2分の1 甲野花子 |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 財産分与を原因とする共有持分の全部移転
- 3番所有権移転受付 平成○年○月○日 第○号
夫婦で半分ずつの共有にしていた家。離婚して花子さんは先に引っ越した。
- 原因
- 平成○年○月○日売買
- 共有者
- 甲市○町1番2号 持分2分の1 甲野太郎
- 甲市○町1番2号 2分の1 甲野花子
- 3番 付記1号3番登記名義人住所変更受付 令和○年○月○日 第99号
財産分与の移転をする前に、まず花子さんの住所を今の住所(乙市)に直しておく。登記簿の住所と実際の住所が違うままだと、次の登記が受け付けてもらえないため。
- 原因
- 平成○年○月○日住所移転
- 共有者甲野花子の住所
- 乙市○町3番4号
- 4番甲野太郎持分全部移転受付 令和○年○月○日 第100号
太郎さんの持分が財産分与で花子さんへ移り、花子さんの単独所有に。受付番号が付記(第99号)の次の第100号なのは、住所変更とセットで連続申請された印。
- 原因
- 令和○年○月○日財産分与
- 所有者
- 乙市○町3番4号 持分2分の1 甲野花子
相続分の譲渡 — 相続人の立場ごと譲る
遺産分割が終わる前なら、相続人としての立場(相続分)そのものを譲れます(民法905条)。 原因はタダなら「相続分の贈与」、有償なら「相続分の売買」。 「相続分の譲渡」という原因では登記できない決まりです。譲り受けた人は遺産分割の話し合いに参加できます。
| 権 利 部(甲区) (所有権に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 3 | 所有権移転 | 令和○年○月○日 第○号 | 原因 令和○年○月○日相続 共有者 ○市○町○番○号 持分4分の2 甲某 ○市○町○番○号 4分の1 乙某 ○市○町○番○号 4分の1 丙某 |
| 4 | 丙某持分全部移転 | 令和○年○月○日 第○号 | 原因 令和○年○月○日相続分の贈与 共有者 ○市○町○番○号 持分4分の1 丁某 |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 相続分の贈与による場合
- 3番所有権移転受付 令和○年○月○日 第○号
3人で相続した状態。このうち丙さんは、遺産分割の話し合いが面倒になってしまった。
- 原因
- 令和○年○月○日相続
- 共有者
- ○市○町○番○号 持分4分の2 甲某
- ○市○町○番○号 4分の1 乙某
- ○市○町○番○号 4分の1 丙某
- 4番丙某持分全部移転受付 令和○年○月○日 第○号
丙さんは「相続人としての立場ごと」丁さんにあげて、遺産分割から抜けた。タダなら「相続分の贈与」、お金をもらえば「相続分の売買」と書く。譲り受けた丁さんは、以後の遺産分割の話し合いに参加できる。
- 原因
- 令和○年○月○日相続分の贈与
- 共有者
- ○市○町○番○号 持分4分の1 丁某
持分放棄 — 捨てた持分は隣に流れる
共有者が持分を放棄すると、その持分は他の共有者に持分割合で自動的に帰属します(民法255条)。 だれかにあげる贈与とは違う点に注意。登記は放棄した人の持分全部移転の形で行います。
| 権 利 部(甲区) (所有権に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 3 | 所有権移転 | 令和○年○月○日 第○号 | 原因 令和○年○月○日相続 共有者 ○市○町○番○号 持分3分の1 甲某 ○市○町○番○号 3分の1 乙某 ○市○町○番○号 3分の1 丙某 |
| 4 | 丙某持分全部移転 | 令和○年○月○日 第○号 | 原因 令和○年○月○日持分放棄 共有者 ○市○町○番○号 持分6分の1 甲某 ○市○町○番○号 6分の1 乙某 |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 持分の放棄による移転
- 3番所有権移転受付 令和○年○月○日 第○号
3人で3分の1ずつの共有。丙さんは自分の持分が要らなくなった。
- 原因
- 令和○年○月○日相続
- 共有者
- ○市○町○番○号 持分3分の1 甲某
- ○市○町○番○号 3分の1 乙某
- ○市○町○番○号 3分の1 丙某
- 4番丙某持分全部移転受付 令和○年○月○日 第○号
丙さんが持分を捨てると、その3分の1は残りの2人に半分ずつ(6分の1ずつ)自動で割り振られる。今の持分は引き算ならぬ足し算で、甲さん=3分の1+6分の1=2分の1。だれかにあげるのではなく「捨てたら隣に流れる」のが放棄。
- 原因
- 令和○年○月○日持分放棄
- 共有者
- ○市○町○番○号 持分6分の1 甲某
- ○市○町○番○号 6分の1 乙某
所有権更正 — 「間違えました」の訂正は必ず付記登記
更正(こうせい)登記は、登記した内容に錯誤(さくご=間違い)や記載漏れがあったときの訂正です。 訂正前と訂正後で「同じ登記」と言える範囲でしか認められません。 共有者の一部を直すのはOKですが、甲野太郎の単独所有を赤の他人の乙川次郎の単独所有に書き換えるような 「全とっかえ」はできません。 そして所有権の更正登記は必ず付記登記でします(規則3条2号)。 主登記にすると順位が後ろにずれて、「抵当権を設定した時点で所有者がいなかった」ような矛盾が生まれるからです。 抵当権者など利害関係人がいる場合は、その承諾がなければ更正できません。
| 権 利 部(甲区) (所有権に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 3 | 所有権移転 | 令和○年○月○日 第○○号 | 原因 令和○年○月○日相続 共有者 ○市○町1番2号 持分2分の1 法令花子 ○市○町1番2号 4分の1 法令順子 ○市○町1番2号 4分の1 法令守 |
| 付記1号 | 3番所有権更正 | 令和○年○月○日 第○○号 | 原因 令和○年○月○日遺産分割 共有者 ○市○町1番2号 持分2分の1 法令花子 ○市○町1番2号 2分の1 法令順子 |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 法定相続による登記をした後、遺産分割協議が成立した場合の更正登記
- 3番所有権移転受付 令和○年○月○日 第○○号
ひとまず民法どおりの割合(法定相続分)で3人の共有として相続登記をした状態。あとで話し合いがまとまったため、この共有者の記載には下線(もう効力がない印)が引かれた。
- 原因
- 令和○年○月○日相続
- 共有者
- ○市○町1番2号 持分2分の1 法令花子
- ○市○町1番2号 4分の1 法令順子
- ○市○町1番2号 4分の1 法令守
- 3番 付記1号3番所有権更正受付 令和○年○月○日 第○○号
遺産分割の話し合いがまとまったので、「正しい分け方はこちらでした」と上書き修正(更正)した。間違い直しの登記なので、必ず親の3番にぶら下がる付記登記でする。令和5年4月からは持分が増える人がひとりで申請できる。
- 原因
- 令和○年○月○日遺産分割
- 共有者
- ○市○町1番2号 持分2分の1 法令花子
- ○市○町1番2号 2分の1 法令順子
これは令和5年4月1日から使えるようになった新しい形です。 法定相続分でいったん登記したあと、①遺産分割協議がまとまった、②相続放棄が判明した、 ③特定財産承継遺言が見つかった、④相続人への遺贈が判明した — の4パターンは、 従来の「移転登記の共同申請」に代えて更正登記の単独申請でできます。 原因は「錯誤」ではなく「年月日遺産分割」のように実体を示す言葉になり、 更正前の共有者の記載には下線(抹消の記号)が引かれます。 純粋な書き間違いの更正(単有⇄共有、3人名義→2人名義など)では原因は「錯誤」で、日付は記録されません。 その基本形(単有名義を共有名義に更正する場合)がこちらです。 本当は甲野太郎・乙川次郎の共有なのに、誤って甲野太郎の単独所有で登記してしまった例で、 付記1号で共有に直し、従前の「所有者 甲野太郎」の事項に下線が引かれています。
| 権 利 部(甲区) (所有権に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 1 | 所有権保存 | 平成○年○月○日 第○号 | 所有者 ○市○町○番○号 甲野太郎 |
| 付記1号 | 1番所有権更正 | 令和○年7月7日 第○号 | 原因 錯誤 共有者 ○市○町○番○号 持分2分の1 甲野太郎 ○市○町○番○号 2分の1 乙川次郎 |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
買戻し特約 — 売主が持つ「買い戻しの予約券」
不動産の売主は、売買契約と同時に買戻しの特約をしておくと、 代金(または合意した金額)と契約費用を返して契約を解除し、不動産を取り戻せます(民法579条)。 期間は最長10年(定めなければ5年。あとから延長は不可)。 登記しておけば、その後にこの不動産を買った人や抵当権を付けた人にも買戻しの効果を主張できる、強力な札です。
| 権 利 部(甲区) (所有権に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 1 | 所有権保存 | 平成○年○月○日 第○号 | 所有者 ○市○町○番○号 乙川次郎 |
| 2 | 所有権移転 | 令和○年○月○日 第100号 | 原因 令和○年○月○日売買 所有者 ○市○町○番○号 甲野太郎 |
| 付記1号 | 買戻特約 | 令和○年○月○日 第100号 | 原因 令和○年○月○日特約 売買代金 金3,000万円 契約費用 なし 期間 令和○年○月○日から何年間 買戻権者 ○市○町○番○号 乙川次郎 |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 買戻特約付きの所有権移転
- 1番所有権保存受付 平成○年○月○日 第○号
乙川次郎さんが最初の持ち主として登録された。保存登記なので原因はない。
- 所有者
- ○市○町○番○号 乙川次郎
- 2番所有権移転受付 令和○年○月○日 第100号
甲野太郎さんがこの不動産を買った。ただし、すぐ下の付記とセットになっている点に注意。
- 原因
- 令和○年○月○日売買
- 所有者
- ○市○町○番○号 甲野太郎
- 2番 付記1号買戻特約受付 令和○年○月○日 第100号
売主の乙川さんが「代金と契約費用を返せば買い戻せる」という予約券を付けた。受付番号が2番と同じ第100号なのは、売買の登記と同時にセットで申請された印。
- 原因
- 令和○年○月○日特約
- 売買代金
- 金3,000万円
- 契約費用
- なし
- 期間
- 令和○年○月○日から何年間
- 買戻権者
- ○市○町○番○号 乙川次郎
読みどころは受付番号。所有権移転(2番)と買戻特約(付記1号)がどちらも「第100号」です。 買戻特約は売買の移転登記と同時に・別の申請書で申請され、同一番号で受け付けられて 売買の付記登記になります。重大な特約なのに所有権の登記の中に埋もれて見落とされないよう、 独立した付記で目立たせる仕組みです。 なお、契約から10年が過ぎた買戻特約は実体上消えたのと同じなので、 令和5年の改正で買主が単独で抹消申請できるようになりました(法69条の2)。 古い買戻特約が残っている物件の掃除がしやすくなっています。 その「掃除」の記録例がこちら。平成7年に付いた買戻特約(付記1号)を、 期間10年が過ぎたあと、相続で引き継いだ法令花子さんが法69条の2で抹消した流れです。 抹消された付記1号は、順位番号から事項まで全部に下線が引かれます。
| 権 利 部(甲区) (所有権に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 1 | 所有権移転 | 平成7年7月1日 第1234号 | 原因 平成7年7月1日売買 所有者 ○市○町1番2号 法令太郎 |
| 付記1号 | 買戻特約 | 平成7年7月1日 第1234号 | 原因 平成7年7月1日特約 売買代金 金○○円 契約費用 金○○円 期間 平成7年7月1日から10年間 買戻権者 ○市○町○番○号 甲 某 |
| 2 | 所有権移転 | 令和○年○月○日 第○○号 | 原因 令和○年○月○日相続 所有者 ○市○町1番2号 法令花子 |
| 3 | 1番付記1号買戻権抹消 | 令和○年○月○日 第○○号 | 原因 不動産登記法第69条の2の規定による抹消 |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
合意金額型 — 返すお金を「代金」以外に決めておける
買い戻すときに返すお金は、長らく「売買代金+契約費用」に固定されていました。 令和2年4月1日施行の民法改正(579条)で、当事者の合意で別に定めた金額でも よいことになり、その場合は登記事項も「売買代金」に代えて「合意金額」になります (令和2年3月31日民二第328号通達)。
| 権 利 部(甲区) (所有権に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 1 | 所有権移転 | 平成7年7月1日 第1234号 | 原因 平成7年7月1日売買 所有者 ○市○町1番2号 法令太郎 |
| 付記1号 | 買戻特約 | 平成7年7月1日 第1234号 | 原因 令和7年7月1日特約 合意金額 金○○円 契約費用 金○○円 期間 平成7年7月1日から何年間 買戻権者 ○市○町○番○号 甲 某 |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 買戻特約(合意金額の定めがある場合)
- 1番所有権移転受付 平成7年7月1日 第1234号
法令太郎さんがこの不動産を買った。すぐ下の付記(買戻特約)とセットで読む。
- 原因
- 平成7年7月1日売買
- 所有者
- ○市○町1番2号 法令太郎
- 1番 付記1号買戻特約受付 平成7年7月1日 第1234号
返すお金が「売買代金」ではなく「合意金額」と書かれているタイプ。代金とは別に当事者が話し合いで決めた金額を返して買い戻す約束で、令和2年4月の民法改正でできるようになった。受付番号が1番と同じ第1234号なのは、売買の登記と同時にセットで申請された印。
- 原因
- 令和7年7月1日特約
- 合意金額
- 金○○円
- 契約費用
- 金○○円
- 期間
- 平成7年7月1日から何年間
- 買戻権者
- ○市○町○番○号 甲 某
ひとつ前の記録例との違いは1か所だけ、「売買代金 金3,000万円」の行が 「合意金額 金○○円」に変わっている点です。 この行を見れば「返すお金は代金そのものではなく、話し合いで決めた金額だ」と読めます。 受付番号が所有権移転と同じ第1234号(同時申請の印)なのは基本形と同じです。 なお、この記録例は原本の印字どおりに再現していますが、原本では受付欄・期間欄が「平成7年7月1日」、 原因欄だけ「令和7年7月1日特約」と元号が食い違って印刷されています(誤植とみられます)。 合意金額型が使えるのは令和2年4月1日以後に契約した売買だけなので、 制度のうえで筋が通るのは「令和7年」の読みです。
登記名義人の表示変更・更正 — 名札の貼り替え
引っ越し(住所移転)や結婚・離婚(氏名変更)、会社の本店移転では、持ち主そのものは変わりません。 だから移転登記ではなく「○番登記名義人住所変更」のような表示変更登記を、 名義人が単独で申請します。第1章の甲区記録例で見た「2番の付記1号」がまさにこれで、 付記登記でされ、旧住所・旧氏名に下線が引かれます。書き間違いの訂正なら表示更正登記で、原因は「錯誤」・日付なしです。
- 住所移転: 原因「住所移転」。数回引っ越していても中間は省略して現住所へ直接変更(日付は最後の移転日)
- 氏名変更: 婚姻・離婚・養子縁組・帰化などすべて原因は「氏名変更」。理由までは登記簿からわからない
- 住居表示の実施・行政区画の変更: 町の制度変更で住所の書き方が変わった場合。証明書を付ければ登録免許税は非課税
- 代位(だいい)による変更: 差押えなどをしたい債権者が、所有者に代わって住所変更登記をする。「代位者」「代位原因」が記録される
そして令和8(2026)年4月1日から、住所・氏名の変更登記も義務化されます。 変更から2年以内に申請しないと、正当な理由がない場合5万円以下の過料です(法76条の5、164条2項)。 相続登記の義務化(3年以内)とあわせて、「登記簿の名札を現実に合わせておく」ことが法律上の義務になりました。 ここからは表示変更の各型を記録例で見ていきます。すべて付記登記で、 変更前の住所・氏名に下線が引かれるのが共通ルールです。
住所移転 — いちばん多い名札の貼り替え
基本形です。原因は「住所移転」、日付は引っ越しの日。 数回引っ越していても中間は飛ばして現住所へ直接書き換えます(日付は最後の引っ越しの日)。
| 権 利 部(甲区) (所有権に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 2 | 所有権移転 | 平成○年○月○日 第○号 | 原因 平成○年○月○日売買 所有者 渋谷区○町二丁目○番○号 甲野太郎 |
| 付記1号 | 2番登記名義人住所変更 | 令和○年○月○日 第○号 | 原因 令和○年○月○日住所移転 住所 埼玉県○市○町○番○号 |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 所有者の住所が移転した場合
- 2番所有権移転受付 平成○年○月○日 第○号
渋谷区に住んでいた甲野太郎さんがこの不動産を買った。その後、埼玉へ引っ越す。
- 原因
- 平成○年○月○日売買
- 所有者
- 渋谷区○町二丁目○番○号 甲野太郎
- 2番 付記1号2番登記名義人住所変更受付 令和○年○月○日 第○号
引っ越したので住所の名札だけ貼り替えた。持ち主は変わらないから付記登記。何回引っ越していても、中間を飛ばして今の住所へ直接書き換えてよい(日付は最後の引っ越しの日)。
- 原因
- 令和○年○月○日住所移転
- 住所
- 埼玉県○市○町○番○号
共有者のひとりだけが引っ越したときは、「共有者甲野太郎の住所」のように 名前で特定して書き換えます。下線もその人の旧住所にだけ引かれます。
| 権 利 部(甲区) (所有権に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 2 | 所有権移転 | 平成○年○月○日 第○号 | 原因 平成○年○月○日売買 共有者 渋谷区○町二丁目○番○号 持分2分の1 甲野太郎 渋谷区○町二丁目○番○号 2分の1 甲野花子 |
| 付記1号 | 2番登記名義人住所変更 | 令和○年○月○日 第○号 | 原因 令和○年○月○日住所移転 共有者甲野太郎の住所 埼玉県○市○町○番○号 |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 共有者の一人の住所が移転した場合
- 2番所有権移転受付 平成○年○月○日 第○号
夫婦で半分ずつの共有。このうち太郎さんだけが引っ越した。
- 原因
- 平成○年○月○日売買
- 共有者
- 渋谷区○町二丁目○番○号 持分2分の1 甲野太郎
- 渋谷区○町二丁目○番○号 2分の1 甲野花子
- 2番 付記1号2番登記名義人住所変更受付 令和○年○月○日 第○号
共有者がふたりいるので、「共有者甲野太郎の住所」と名前で特定して書き換える。下線が引かれるのも太郎さんの旧住所だけ。
- 原因
- 令和○年○月○日住所移転
- 共有者甲野太郎の住所
- 埼玉県○市○町○番○号
おもしろいのが、2回に分けて持分を取得して単有になった人の引っ越しです。 登記の口が2つあるので、付記も2つ必要になります。 2番の登記は形式上まだ共有なので「共有者甲野花子の住所」、3番は単有名義なので住所だけ。 2つの付記の受付番号が同じ第100号なのは、1通の申請でまとめて処理された印です。
| 権 利 部(甲区) (所有権に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 2 | 所有権移転 | 平成20年○月○日 第○号 | 原因 平成○年○月○日売買 共有者 甲市○町○番○号 持分2分の1 甲野太郎 甲市○町○番○号 2分の1 甲野花子 |
| 付記1号 | 2番登記名義人住所変更 | 令和○年○月○日 第100号 | 原因 令和○年○月○日住所移転 共有者甲野花子の住所 乙市○町○番○号 |
| 3 | 甲野太郎持分全部移転 | 平成30年○月○日 第○号 | 原因 平成○年○月○日財産分与 所有者 ○市○町○番○号 甲野花子 |
| 付記1号 | 3番登記名義人住所変更 | 令和○年○月○日 第100号 | 原因 令和○年○月○日住所移転 乙市○町○番○号 |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 2回にわたり所有権を取得して単有となった者の住所移転
- 2番所有権移転受付 平成20年○月○日 第○号
最初は夫婦半分ずつの共有だった。
- 原因
- 平成○年○月○日売買
- 共有者
- 甲市○町○番○号 持分2分の1 甲野太郎
- 甲市○町○番○号 2分の1 甲野花子
- 2番 付記1号2番登記名義人住所変更受付 令和○年○月○日 第100号
2番の登記は形のうえでは共有のままなので、実際にはもう花子さんひとりの物でも「共有者甲野花子の住所」と書く。
- 原因
- 令和○年○月○日住所移転
- 共有者甲野花子の住所
- 乙市○町○番○号
- 3番甲野太郎持分全部移転受付 平成30年○月○日 第○号
その後、財産分与で太郎さんの持分も花子さんへ。花子さんは「2番の半分」と「3番の半分」の2口でこの不動産を持っている形になった。
- 原因
- 平成○年○月○日財産分与
- 所有者
- ○市○町○番○号 甲野花子
- 3番 付記1号3番登記名義人住所変更受付 令和○年○月○日 第100号
花子さんが引っ越すと、2口それぞれに付記で住所変更が入る。受付番号が2番付記1号と同じ第100号なのは、1通の申請でまとめて処理された印。
- 原因
- 令和○年○月○日住所移転
- 乙市○町○番○号
会社の本店移転でも、登記の目的は「住所変更」のまま(「本店変更」とはしません)。 原因だけが「本店移転」になります。
| 権 利 部(甲区) (所有権に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 2 | 所有権移転 | 平成○年○月○日 第○号 | 原因 平成○年○月○日売買 所有者 渋谷区○町二丁目○番○号 株式会社A |
| 付記1号 | 2番登記名義人住所変更 | 令和4年○月○日 第○号 | 原因 令和4年○月○日本店移転 本店 港区○町三丁目○番○号 |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 会社の本店が移転した場合
- 2番所有権移転受付 平成○年○月○日 第○号
渋谷区に本店があった株式会社Aがこの不動産を買った。
- 原因
- 平成○年○月○日売買
- 所有者
- 渋谷区○町二丁目○番○号 株式会社A
- 2番 付記1号2番登記名義人住所変更受付 令和4年○月○日 第○号
会社の引っ越しでも、登記の目的は人と同じ「住所変更」のまま(「本店変更」とは書かない)。ただし原因は「本店移転」、事項のラベルも「本店」になる。
- 原因
- 令和4年○月○日本店移転
- 本店
- 港区○町三丁目○番○号
氏名変更 — 理由は登記簿に書かれない
婚姻・離婚・養子縁組・帰化、どんな理由でも原因は「氏名変更」とだけ記録されます。 日付は原則として市区町村に届出をした日(裁判離婚などは裁判確定日)です。
| 権 利 部(甲区) (所有権に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 2 | 所有権移転 | 平成○年○月○日 第○号 | 原因 平成○年○月○日売買 所有者 ○市○町○番○号 甲野次郎 |
| 付記1号 | 2番登記名義人氏名変更 | 令和○年2月4日 第○号 | 原因 令和○年2月1日氏名変更 氏名 山田次郎 |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 氏名の変更
- 2番所有権移転受付 平成○年○月○日 第○号
甲野次郎さんがこの不動産を買った。のちに名字が変わる。
- 原因
- 平成○年○月○日売買
- 所有者
- ○市○町○番○号 甲野次郎
- 2番 付記1号2番登記名義人氏名変更受付 令和○年2月4日 第○号
結婚・離婚・養子縁組・帰化、どんな理由でも原因は「氏名変更」とだけ書くので、登記簿からは理由がわからない。旧氏名(甲野次郎)に下線が引かれ、住所には引かれない。
- 原因
- 令和○年2月1日氏名変更
- 氏名
- 山田次郎
共有者のひとりの氏名が変わったときは、住所移転と同じく旧氏名で特定します。
| 権 利 部(甲区) (所有権に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 2 | 所有権移転 | 平成○年○月○日 第○号 | 原因 平成○年○月○日売買 共有者 ○市○町○番○号 持分2分の1 甲野太郎 ○市○町○番○号 2分の1 甲野花子 |
| 付記1号 | 2番登記名義人氏名変更 | 令和○年○月○日 第○号 | 原因 令和○年○月○日氏名変更 共有者甲野花子の氏名 乙野花子 |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 共有者の氏名が変更した場合
- 2番所有権移転受付 平成○年○月○日 第○号
ふたりの共有。このうち花子さんの名字が変わった。
- 原因
- 平成○年○月○日売買
- 共有者
- ○市○町○番○号 持分2分の1 甲野太郎
- ○市○町○番○号 2分の1 甲野花子
- 2番 付記1号2番登記名義人氏名変更受付 令和○年○月○日 第○号
だれの名前が変わったのかわかるように、旧氏名で「共有者甲野花子の氏名」と特定してから新しい名前を書く。
- 原因
- 令和○年○月○日氏名変更
- 共有者甲野花子の氏名
- 乙野花子
章の冒頭で見た旧氏(旧姓)の併記は、氏名変更の登記と同時に申し出ることもできます。 新しい氏名のうしろに「(甲野太郎)」とかっこ書きが付くのが目印です。
| 権 利 部(甲区) (所有権に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 3 | 所有権移転 | 平成○年○月○日 第○○号 | 原因 平成○年○月○日売買 所有者 ○市○町1番2号 甲野太郎 |
| 付記1号 | 3番登記名義人氏名変更 | 令和○年○月○日 第○○号 | 原因 令和○年○月○日氏名変更 氏名 不動太郎(甲野太郎) |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 氏名の変更の登記と同時に旧氏を併記した場合
- 3番所有権移転受付 平成○年○月○日 第○○号
甲野太郎さん名義の不動産。のちに名字が「不動」に変わる。
- 原因
- 平成○年○月○日売買
- 所有者
- ○市○町1番2号 甲野太郎
- 3番 付記1号3番登記名義人氏名変更受付 令和○年○月○日 第○○号
氏名変更の登記と同時に「前の名字も載せておいて」と申し出ると、「不動太郎(甲野太郎)」とかっこ書きで旧氏が併記される(令和6年〜)。仕事で旧姓を使い続けている人の本人確認がしやすくなる。
- 原因
- 令和○年○月○日氏名変更
- 氏名
- 不動太郎(甲野太郎)
氏名と住所の変更をまとめて1つの付記で行い、同時に旧氏を併記することもできます。
| 権 利 部(甲区) (所有権に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 3 | 所有権移転 | 平成○年○月○日 第○○号 | 原因 平成○年○月○日売買 所有者 甲市○町1番2号 甲野あおい |
| 付記1号 | 3番登記名義人住所、氏名変更 | 令和○年○月○日 第○○号 | 原因 令和○年○月○日氏名変更 令和○年○月○日住所移転 氏名住所 乙市○町○5番6号 不動あおい(甲野あおい) |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 氏名及び住所の変更の登記と同時に旧氏を併記した場合
- 3番所有権移転受付 平成○年○月○日 第○○号
甲野あおいさん名義の不動産。結婚で名字が変わり、引っ越しもした。
- 原因
- 平成○年○月○日売買
- 所有者
- 甲市○町1番2号 甲野あおい
- 3番 付記1号3番登記名義人住所、氏名変更受付 令和○年○月○日 第○○号
名字と住所の変更をまとめて1つの付記で記録し、同時に旧氏(甲野あおい)もかっこ書きで残した。旧住所・旧氏名の両方に下線が引かれる。
- 原因
- 令和○年○月○日氏名変更 令和○年○月○日住所移転
- 氏名住所
- 乙市○町○5番6号 不動あおい(甲野あおい)
旧氏併記なしで氏名・住所をまとめて変更する基本形はこちらです。
| 権 利 部(甲区) (所有権に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 2 | 所有権移転 | 平成○年○月○日 第○号 | 原因 平成○年○月○日売買 所有者 ○市○町○番○号 甲野花子 |
| 付記1号 | 2番登記名義人住所、氏名変更 | 令和○年○月○日 第○号 | 原因 令和○年○月○日氏名変更 令和○年○月○日住所移転 氏名住所 ○市○町○番○号 山田花子 |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 住所移転と氏名変更
- 2番所有権移転受付 平成○年○月○日 第○号
甲野花子さん名義の不動産。名字も住所も変わることになった。
- 原因
- 平成○年○月○日売買
- 所有者
- ○市○町○番○号 甲野花子
- 2番 付記1号2番登記名義人住所、氏名変更受付 令和○年○月○日 第○号
名字の変更と引っ越しを1つの付記にまとめた基本形。目的は「住所、氏名変更」、原因には2つの出来事がそれぞれの日付つきで並ぶ。
- 原因
- 令和○年○月○日氏名変更 令和○年○月○日住所移転
- 氏名住所
- ○市○町○番○号 山田花子
住所の更正 — 引っ越しではなく「書き間違い」
登記したときの住所がそもそも間違っていた場合は、変更ではなく更正です。 原因は「錯誤」で日付なし。引っ越し前の古い住民票で申請してしまうのが典型例です。 原因欄が「住所移転+日付」なら引っ越し、「錯誤」なら書き間違い、と見分けられます。
| 権 利 部(甲区) (所有権に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 2 | 所有権移転 | 令和○年9月5日 第○号 | 原因 令和○年○月○日売買 所有者 渋谷区○町二丁目○番○号 甲野太郎 |
| 付記1号 | 2番登記名義人住所更正 | 令和○年○月○日 第○号 | 原因 錯誤 住所 港区○町三丁目○番○号 |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 住所の更正
- 2番所有権移転受付 令和○年9月5日 第○号
登記したときの住所が、実はもう古い住所だった。引っ越し前の住民票で申請してしまうのがよくあるパターン。
- 原因
- 令和○年○月○日売買
- 所有者
- 渋谷区○町二丁目○番○号 甲野太郎
- 2番 付記1号2番登記名義人住所更正受付 令和○年○月○日 第○号
「最初から間違っていた」ので、変更ではなく更正(間違い直し)。原因は「錯誤」で日付は書かれない。引っ越しによる「変更」と書き間違いの「更正」は、原因欄で見分けられる。
- 原因
- 錯誤
- 住所
- 港区○町三丁目○番○号
住居表示の実施・行政区画の変更 — 引っ越していないのに住所が変わる
町の制度変更(住居表示の実施)で住所の書き方が「○番地」から「○番○号」に変わることがあります。 自動では書き換わらないので変更登記が必要ですが、市区町村の証明書を付ければ 登録免許税は非課税です。
| 権 利 部(甲区) (所有権に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 2 | 所有権移転 | 平成○年○月○日 第○号 | 原因 平成○年○月○日売買 所有者 ○市○町○番地 甲野太郎 |
| 付記1号 | 2番登記名義人住所変更 | 令和○年○月○日 第○号 | 原因 令和○年○月○日住居表示実施 住所 ○市○町○番○号 |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 住居表示の実施
- 2番所有権移転受付 平成○年○月○日 第○号
昔ながらの「○番地」という地番ベースの住所で登記されていた。
- 原因
- 平成○年○月○日売買
- 所有者
- ○市○町○番地 甲野太郎
- 2番 付記1号2番登記名義人住所変更受付 令和○年○月○日 第○号
町の制度変更で住所の書き方が「○番○号」方式に変わった。引っ越していないのに住所が変わる珍しいケースで、市区町村の証明書を付ければ登録免許税はタダになる。
- 原因
- 令和○年○月○日住居表示実施
- 住所
- ○市○町○番○号
引っ越しと住居表示が重なったときは、原因に両方を起きた順番どおりに並べます。 「住所移転→住居表示実施」の順か、その逆かで、原因欄の並びが変わります。
| 権 利 部(甲区) (所有権に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 2 | 所有権移転 | 平成○年○月○日 第○号 | 原因 平成○年○月○日売買 所有者 甲市○町○番○号 甲野太郎 |
| 付記1号 | 2番登記名義人住所変更 | 令和○年○月○日 第○号 | 原因 平成○年○月○日住所移転 令和○年○月○日住居表示実施 住所 乙市○町○番○号 |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 住所移転後に住居表示が実施された場合
- 2番所有権移転受付 平成○年○月○日 第○号
甲市に住んでいたころに買った不動産。乙市へ引っ越したが、登記しないでいるうちに——
- 原因
- 平成○年○月○日売買
- 所有者
- 甲市○町○番○号 甲野太郎
- 2番 付記1号2番登記名義人住所変更受付 令和○年○月○日 第○号
引っ越し先の乙市で住居表示の実施があった。原因に2つの出来事を並べ、住所は実施後の今の書き方で記録する。この場合も証明書付きなら登録免許税は非課税。
- 原因
- 平成○年○月○日住所移転 令和○年○月○日住居表示実施
- 住所
- 乙市○町○番○号
| 権 利 部(甲区) (所有権に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 2 | 所有権移転 | 平成○年○月○日 第○号 | 原因 平成○年○月○日売買 所有者 甲市○町○番地 甲野太郎 |
| 付記1号 | 2番登記名義人住所変更 | 令和○年○月○日 第○号 | 原因 平成○年○月○日住居表示実施 令和○年○月○日住所移転 住所 乙市○町○番○号 |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 住居表示実施後、住所移転した場合
- 2番所有権移転受付 平成○年○月○日 第○号
地番ベースの古い住所のまま登記されていた。まず住居表示の実施があり、そのあと引っ越した。
- 原因
- 平成○年○月○日売買
- 所有者
- 甲市○町○番地 甲野太郎
- 2番 付記1号2番登記名義人住所変更受付 令和○年○月○日 第○号
記録例2と出来事の順番が逆のパターン。原因欄を読むと「先に住居表示、あとから引っ越し」と時系列がわかる。順番どおりに並べるのがルール。
- 原因
- 平成○年○月○日住居表示実施 令和○年○月○日住所移転
- 住所
- 乙市○町○番○号
区政施行(市に区ができる行政区画の変更)が引っ越しのあとに重なった場合も、 原因を2つ並べて記録すると決められています。
| 権 利 部(甲区) (所有権に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 2 | 所有権移転 | 平成○年○月○日 第○号 | 原因 平成○年○月○日売買 所有者 ○市○町○番○号 甲野太郎 |
| 付記1号 | 2番登記名義人住所変更 | 令和○年○月○日 第○号 | 原因 平成○年○月○日住所移転 令和○年○月○日区政施行 住所 ○市○区○町○番○号 |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 住所移転後に行政区画の変更があった場合
- 2番所有権移転受付 平成○年○月○日 第○号
引っ越したあと、引っ越し先の市が政令指定都市になって「○区」が誕生した、というパターン。
- 原因
- 平成○年○月○日売買
- 所有者
- ○市○町○番○号 甲野太郎
- 2番 付記1号2番登記名義人住所変更受付 令和○年○月○日 第○号
原因は「住所移転」と「区政施行」の2本立てで書くと決められている。区政施行ぶんは町の都合なので、証明書を付ければ登録免許税は非課税。
- 原因
- 平成○年○月○日住所移転 令和○年○月○日区政施行
- 住所
- ○市○区○町○番○号
代位による変更 — 本人の代わりに債権者が動く
登記簿の住所が古いままだと、差押えなどの登記は受け付けてもらえません(法25条7号)。 そこで債権者が所有者に代わって住所変更を申請するのが代位(だいい)登記です。 事項欄に「代位者」「代位原因」の行があったら、 本人ではなく債権者が動かした登記だと読めます。
| 権 利 部(甲区) (所有権に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 2 | 所有権移転 | 平成○年○月○日 第○号 | 原因 平成○年○月○日売買 所有者 ○市○町○番○号 甲野太郎 |
| 付記1号 | 2番登記名義人住所変更 | 令和○年○月○日 第○号 | 原因 令和○年○月○日住所移転 住所 ○市○町○番○号 代位者 ○県 代位原因 令和○年○月○日滞納処分の差押 |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 代位による登記名義人の住所の変更登記
- 2番所有権移転受付 平成○年○月○日 第○号
甲野太郎さんは税金を滞納したまま引っ越して、住所変更の登記をしていなかった。
- 原因
- 平成○年○月○日売買
- 所有者
- ○市○町○番○号 甲野太郎
- 2番 付記1号2番登記名義人住所変更受付 令和○年○月○日 第○号
差押えをしたい県が、本人に代わって住所変更の登記を申請した。登記簿の住所と今の住所が違うままだと差押えの登記が受け付けてもらえないため。「代位者」と「代位原因」の行があったら、本人以外がやむを得ず動いた印。
- 原因
- 令和○年○月○日住所移転
- 住所
- ○市○町○番○号
- 代位者
- ○県
- 代位原因
- 令和○年○月○日滞納処分の差押
差押え — 裁判所のロックから競売の出口まで
差押え(さしおさえ)は「この不動産を勝手に処分してはダメ」という処分制限の登記です。 持ち主の意思とは無関係に、裁判所書記官の嘱託(しょくたく)や行政の手続で記録されます。 入口は主に4ルートあります。
| ルート | だれが・なにを根拠に | 原因欄の書き方 |
|---|---|---|
| 担保不動産競売 | 抵当権などの担保権者が申立て。ローン滞納の典型ルート | 「○地方裁判所担保不動産競売開始決定」 |
| 強制競売 | 確定判決などの債務名義を持つ債権者が申立て | 「○地方裁判所強制競売開始決定」 |
| 強制管理・担保不動産収益執行 | 売らずに賃料収入から回収。管理人が選任される(貸しビル向き) | 「○地方裁判所強制管理開始決定」など |
| 滞納処分 | 税金の滞納。市役所・税務署が裁判所を通さず差し押さえる | 「甲市役所差押」など |
2つ目のルート(強制競売)の入口だけを切り出した記録例がこちらです。 担保不動産競売との違いは原因欄の決定の名前だけで、 「○地方裁判所強制競売開始決定」と記録され、申し立てた債権者の住所・氏名が載ります。
| 権 利 部(甲区) (所有権に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 2 | 所有権移転 | 平成○年○月○日 第○号 | 原因 平成○年○月○日売買 所有者 ○市○町○番○号 甲野太郎 |
| 3 | 差押 | 令和○年○月○日 第○号 | 原因 令和○年○月○日甲地方裁判所強制競売開始決定 債権者 ○市○町○番○号 乙川次郎 |
差押えから競売の出口までがそろった記録例を読んでみましょう。 抹消された3番・4番は、原本どおり順位番号・登記の目的・受付欄・原因・事項のすべてに 下線(抹消の印)を再現しています。
| 権 利 部(甲区) (所有権に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 2 | 所有権移転 | 平成○年○月○日 第○号 | 原因 平成○年○月○日売買 所有者 ○市○町○番○号 甲野太郎 |
| 3 | 差押 | 令和○年○月○日 第○号 | 原因 令和○年○月○日甲地方裁判所担保不動産競売開始決定 債権者 ○市○町○番○号 株式会社A銀行 |
| 4 | 差押 | 令和○年○月○日 第○号 | 原因 令和○年○月○日甲市役所差押 債権者 甲市 |
| 5 | 所有権移転 | 令和○年7月1日 第10000号 | 原因 令和○年○月○日担保不動産競売による売却 所有者 ○市○町○番○号 乙川次郎 |
| 6 | 3番差押登記抹消 | 令和○年7月1日 第10000号 | 原因 令和○年○月○日担保不動産競売による売却 |
| 7 | 4番差押登記抹消 | 余白 | 令和○年7月1日5番の登記をしたので滞納処分と強制執行等との手続の調整に関する法律第32条の規定により抹消 |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 担保不動産競売による差押えと売却
- 2番所有権移転受付 平成○年○月○日 第○号
甲野太郎さんが買って持ち主になった。ここから競売の物語が始まる。
- 原因
- 平成○年○月○日売買
- 所有者
- ○市○町○番○号 甲野太郎
- 3番差押受付 令和○年○月○日 第○号
借金が返せなくなり、担保権を持つA銀行の申立てで裁判所が「この不動産は競売にかけます」とロックをかけた。日付は競売開始決定がされた日。
- 原因
- 令和○年○月○日甲地方裁判所担保不動産競売開始決定
- 債権者
- ○市○町○番○号 株式会社A銀行
- 4番差押受付 令和○年○月○日 第○号
税金の滞納で市役所も差押え。裁判所を通らない行政ルート(滞納処分)で、ロックが二重になった。
- 原因
- 令和○年○月○日甲市役所差押
- 債権者
- 甲市
- 5番所有権移転受付 令和○年7月1日 第10000号
競売で乙川次郎さんが落札した。代金を納めた日に所有権を取得する。この登記は裁判所書記官からの嘱託(しょくたく=依頼)で行われる。
- 原因
- 令和○年○月○日担保不動産競売による売却
- 所有者
- ○市○町○番○号 乙川次郎
- 6番3番差押登記抹消受付 令和○年7月1日 第10000号
役目を終えた3番の差押えを消した記録。5番の移転と同じ受付番号=同じ嘱託書でまとめて処理された。これで3番の事項に下線が引かれる。
- 原因
- 令和○年○月○日担保不動産競売による売却
- 7番4番差押登記抹消受付 余白
市役所の差押えは、法律の決まりにより登記官が自分の判断(職権)で消した。受付欄が「余白」なのは、誰かの申請による登記ではない印。
- 令和○年7月1日5番の登記をしたので滞納処分と強制執行等との手続の調整に関する法律第32条の規定により抹消
物語はこう読めます。甲野さんがローンを返せなくなりA銀行が競売を申し立て(3番)、 税金の滞納で市役所のロックも重なり(4番)、競売で乙川さんが落札して持ち主交代(5番)、 裁判所ルートの差押えは売却と同じ嘱託書で抹消され(6番・受付番号が5番と同じ第10000号)、 市役所の差押えは登記官の職権で抹消(7番・受付欄が「余白」)。 ひとつ重要な注意があります。差押えの登記があっても、その後の売買や抵当権設定の登記は受理されます。 ただしそれらは差押権者に対抗できず、競売が実行されれば抹消される運命です。 差押え登記付きの物件の取引には、それだけの覚悟が要ります。
売却で乙区はどうなるか — 担保の大掃除
競売による売却が行われると、その不動産に付いていた抵当権・根抵当権は消滅します(民事執行法59条)。 乙区側を見ると、売却と同じ嘱託書(甲区5番・6番と同じ受付番号 第10000号)で担保がまとめて抹消され、 抹消された1番・2番は順位番号から受付欄まで下線が引かれます。 落札者が「担保のないまっさらな状態」で受け取れる仕組みです。
| 権 利 部(乙区) (所有権以外の権利に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 1 | 抵当権設定 | 平成○年○月○日 第○号 | (省略) |
| 2 | 根抵当権設定 | 平成○年○月○日 第○号 | (省略) |
| 3 | 1番抵当権、2番根抵当権抹消 | 令和○年7月1日 第10000号 | 原因 令和○年○月○日担保不動産競売による売却 |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 競売による売却で抹消された乙区の担保権
- 1番抵当権設定受付 平成○年○月○日 第○号
ローンの担保に付けられていた抵当権。競売による売却で役目を終え、順位番号から受付欄まで下線(抹消の印)が引かれた。
- (省略)
- 2番根抵当権設定受付 平成○年○月○日 第○号
事業資金の枠として付けられていた根抵当権も、同じく売却で消された。競売で買った人は、担保が掃除されたまっさらな状態で受け取れる。
- (省略)
- 3番1番抵当権、2番根抵当権抹消受付 令和○年7月1日 第10000号
2つの担保権をまとめて消した記録。受付番号が甲区の売却(5番)と同じ第10000号なのは、裁判所書記官の同じ嘱託書で一括処理された印。
- 原因
- 令和○年○月○日担保不動産競売による売却
所有権の仮登記 — 席取りの予約札
仮登記(かりとうき)は、本登記のために順位だけ先に確保しておく予備的な登記です(法105条)。 仮登記の段階では第三者への対抗力はありません。行列に置いた予約札そのもので、 札には座る力はないけれど、あとで本人が来たら札を置いた位置に座れます。2種類あります。
| 1号仮登記(条件不備) | 2号仮登記(請求権保全) | |
|---|---|---|
| 状況 | 所有権はもう移転したが、登記識別情報など必要な情報を提供できない | 所有権はまだ移転していないが、売買予約・停止条件付き契約などで将来の請求権がある |
| 登記の目的 | 所有権移転仮登記 | 所有権移転請求権仮登記 |
| 本登記の原因日付 | 仮登記と同じ | 仮登記と異なるのが一般的(予約完結などで後日移転するため) |
1号仮登記の基本形 — 「余白」という名の予約席
まずは仮登記をした直後の姿です。仮登記の下には、将来の本登記のための 「余白」と書かれた空席があらかじめ用意されます。 この余白がある限り、あとから来た登記(3番)は予約席より前には座れません。 仮登記の権利者は「所有者」ではなく「権利者」と書かれる点にも注目です。
| 権 利 部(甲区) (所有権に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 1 | 所有権保存 | 平成○年○月○日 第○号 | 所有者 ○市○町○番○号 甲野太郎 |
| 2 | 所有権移転仮登記 | 令和○年○月○日 第○号 | 原因 令和○年○月○日売買 権利者 ○市○町○番○号 乙川次郎 |
| 余白 | 余白 | 余白 | |
| 3 | 所有権移転 | 令和○年○月○日 第○号 | 原因 令和○年○月○日売買 所有者 ○市○町○番○号 丙山三郎 |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 所有権移転の仮登記
- 1番所有権保存受付 平成○年○月○日 第○号
甲野太郎さんが最初の持ち主。
- 所有者
- ○市○町○番○号 甲野太郎
- 2番所有権移転仮登記受付 令和○年○月○日 第○号
乙川次郎さんが買ったが、登記識別情報などの書類がそろわず仮登記。まだ第三者に主張できないので、肩書は「所有者」ではなく「権利者」。
- 原因
- 令和○年○月○日売買
- 権利者
- ○市○町○番○号 乙川次郎
- 余白受付 余白
仮登記の下には、将来の本登記のための空席(余白)があらかじめ用意される。この席がある限り、あとから来た登記はこの席より前には座れない。
- 余白
- 3番所有権移転受付 令和○年○月○日 第○号
売主の甲野さんが同じ不動産を丙山三郎さんにも売って、こちらは本登記までされた(二重譲渡)。これも有効な登記だが、2番の余白が埋まる日が来たら——という時限爆弾付き。
- 原因
- 令和○年○月○日売買
- 所有者
- ○市○町○番○号 丙山三郎
本登記と職権抹消 — 予約札の力が発動する瞬間
仮登記の力がいちばんよくわかる記録例がこれです。 原本では、本登記の行は順位番号欄が空欄のまま仮登記(2番)の下に仕切りなしで続きます。 また職権抹消された3番は、原本どおり順位番号・目的・受付欄・原因・事項のすべてに下線を再現しています。
| 権 利 部(甲区) (所有権に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 1 | 所有権保存 | 令和○年○月○日 第○号 | 所有者 ○市○町○番○号 甲野太郎 |
| 2 | 所有権移転仮登記 | 令和○年9月2日 第○号 | 原因 令和○年9月1日売買 権利者 ○市○町○番○号 乙川次郎 |
| 所有権移転 | 令和○年12月1日 第○号 | 原因 令和○年9月1日売買 所有者 ○市○町○番○号 乙川次郎 | |
| 3 | 所有権移転 | 令和○年10月1日 第100号 | 原因 令和○年10月1日売買 所有者 ○市○町○番○号 丙山三郎 |
| 4 | 3番所有権抹消 | 余白 | 2番仮登記の本登記により令和○年12月1日登記 |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 仮登記に基づく本登記と後順位登記の職権抹消
- 1番所有権保存受付 令和○年○月○日 第○号
甲野太郎さんが最初の持ち主。
- 所有者
- ○市○町○番○号 甲野太郎
- 2番所有権移転仮登記受付 令和○年9月2日 第○号
乙川次郎さんが9月1日に買ったが、書類がそろわずまだ「仮」。順位だけ先に確保する席取りの予約札なので、肩書も「所有者」ではなく「権利者」と書かれる。
- 原因
- 令和○年9月1日売買
- 権利者
- ○市○町○番○号 乙川次郎
- 2番 所有権移転受付 令和○年12月1日 第○号
12月1日、書類がそろって予約札の席に本人が座った(本登記)。順位は仮登記のときの2番のまま。1号仮登記なので、原因の日付も仮登記と同じ9月1日になる。
- 原因
- 令和○年9月1日売買
- 所有者
- ○市○町○番○号 乙川次郎
- 3番所有権移転受付 令和○年10月1日 第100号
売主の甲野さんは、同じ不動産を10月1日に丙山三郎さんにも売って登記していた(二重譲渡)。受付は2番の本登記(12月1日)より先。それでも……
- 原因
- 令和○年10月1日売買
- 所有者
- ○市○町○番○号 丙山三郎
- 4番3番所有権抹消受付 余白
2番の仮登記が本登記になった瞬間、あとから登記した3番は登記官の職権で消された。先に取った予約札(順位2番)が、受付の早い3番に勝つ。これが仮登記の順位保全の力。
- 2番仮登記の本登記により令和○年12月1日登記
時系列を並べ直すと、9月1日に乙川さんが買って9月2日に仮登記(2番)、 10月1日に売主が丙山さんへ二重譲渡して本登記(3番)、12月1日に乙川さんが本登記。 受付の早さでは丙山さんの勝ちのはずが、乙川さんの本登記は仮登記の順位(2番)を使えるので、 3番より先順位になり、3番は登記官の職権で抹消されました(法109条2項)。 逆にいうと、所有権移転仮登記が付いている不動産を買うのは、 「いつ予約札の本人が来て自分の登記が消されるかわからない席」に座るということです。 なお、本登記には3番のような利害関係人の承諾(または対抗できる判決)が必要です。 仮登記は所有権のほか地上権・抵当権・賃借権・配偶者居住権などでもできますが、 所有権保存登記の仮登記は(単独で簡単にできるため)実益がないとして原則認められていません。
本登記の力は乙区にも及ぶ
職権で消されるのは甲区の後順位登記だけではありません。 仮登記のあとに設定された乙区の抵当権も、本登記と同時に職権で抹消されます(法109条2項)。 抹消の理由欄に「甲区2番仮登記の本登記により」と書かれ、受付欄は申請によらない職権の印「余白」になります。
| 権 利 部(乙区) (所有権以外の権利に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 1 | 抵当権設定 | 令和○年10月1日 第101号 | (省略) |
| 2 | 1番抵当権抹消 | 余白 | 甲区2番仮登記の本登記により令和○年12月1日登記 |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 仮登記の本登記による乙区の職権抹消
- 1番抵当権設定受付 令和○年10月1日 第101号
仮登記のあと(10月1日)に設定された抵当権。甲区の仮登記が本登記された瞬間、この担保も登記官の職権で消され、順位番号から受付欄まで下線が引かれた。
- (省略)
- 2番1番抵当権抹消受付 余白
消した理由の記録。受付欄が「余白」なのは、だれかの申請ではなく登記官が法律にもとづいて自動で行った(職権)印。仮登記の力は甲区だけでなく乙区の担保にも及ぶ。
- 甲区2番仮登記の本登記により令和○年12月1日登記
2号仮登記 — 「買う予約」の席取り
所有権がまだ動いていない段階で、将来の請求権を保全するのが2号仮登記です。 目的に「請求権」が入り、原因が「売買予約」になるのが1号との見分けポイント。 予約を完結させて本登記するときは、原因の日付が仮登記と異なるのが一般的です。
| 権 利 部(甲区) (所有権に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 1 | 所有権保存 | 平成○年○月○日 第○号 | 所有者 ○市○町○番○号 甲野太郎 |
| 2 | 所有権移転請求権仮登記 | 令和○年○月○日 第○号 | 原因 令和○年○月○日売買予約 権利者 ○市○町○番○号 乙川次郎 |
| 余白 | 余白 | 余白 | |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 所有権移転請求権の仮登記
- 1番所有権保存受付 平成○年○月○日 第○号
甲野太郎さんが最初の持ち主。
- 所有者
- ○市○町○番○号 甲野太郎
- 2番所有権移転請求権仮登記受付 令和○年○月○日 第○号
「買います」の予約だけが成立した段階。所有権はまだ動いていないが、「将来買う権利(請求権)」の順位を確保しておく。1号仮登記との違いは目的に「請求権」が入ることと、原因が「売買予約」なこと。
- 原因
- 令和○年○月○日売買予約
- 権利者
- ○市○町○番○号 乙川次郎
- 余白受付 余白
こちらも本登記用の空席が用意される。予約を完結させて本登記するとき、原因の日付は仮登記とは別の日になるのが普通(実際に所有権が動いた日を書くため)。
- 余白
まとめ — この章で覚える3つのこと
- 甲区は「目的・原因・日付」の3点セットで読む年表。 相続=死亡日、売買=契約日、時効取得=起算日のように、原因ごとに「日付が何の日か」が決まっている。
- 下線は更正・変更・抹消のときだけ。普通の売買や相続では前の持ち主に下線は引かれない。 持分の数字も書き換えられないので、今の持分は引き算で読む。
- 差押え・仮登記・買戻し特約は「買うと危ない」サイン。 競売の実行・仮登記の本登記・買戻権の行使によって、あとから入った権利は消されてしまう。
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