わかりやすい不動産登記簿の見方・読み方 — 第4章(全8章)
💰 乙区欄の見方 — 担保と利用権の記録
抵当権・根抵当権の設定から抹消まで、そして地上権・地役権・賃借権・配偶者居住権・信託。登記簿でいちばん読みにくい乙区を分解する。
出典: 『わかりやすい不動産登記簿の見方・読み方(6訂版)』日本法令(p.232〜361)。記録例は原本の帳票レイアウトを再現しつつ、内容を正規化データで管理している。
凡例: 記録例の中の下線は「抹消事項」=後の登記で効力を失った記録(登記簿は消さずに線を引いて歴史を残す)
乙区に記録されるのは「所有権以外の権利」です。大きく分けると2系統あります。 ひとつは、お金を貸した人が「返せなかったらこの不動産から優先的に回収するよ」と約束する 担保物権(たんぽぶっけん。抵当権・根抵当権など)。 もうひとつは、他人の不動産を「使わせてもらう」用益権 (ようえきけん。地上権・地役権・賃借権など)です。 乙区が読めるようになると、「この不動産にいくらの借金がぶら下がっているか」 「だれがどんな約束で使っているか」がわかります。第4章は本書でいちばん分厚い章(22節・約130ページ)です。 この記事では、章に載っている記録例をほぼ全部(45例)原本ビューで再現します。 まず代表例で読み方の型をつかみ、あとは「同じ型の変化形」として流していくのがおすすめです。
乙区の全体地図 — 「お金のカタ」と「使う約束」
まず、乙区に登場する権利の顔ぶれを整理します。
| 系統 | 権利 | 一言でいうと |
|---|---|---|
| 担保物権(約定 = 当事者の合意で発生) | 抵当権・根抵当権 | 借金のカタ。不動産は持ち主の手元に置いたまま |
| 質権(しちけん) | 担保物を債権者に渡すタイプのカタ。不動産では稀 | |
| 担保物権(法定 = 法律上当然に発生) | 先取特権(さきどりとっけん) | 給料債権などに法律が自動で付ける優先権 |
| 用益権(使わせてもらう約束) | 地上権・永小作権・地役権・賃借権・採石権 | 建てる・耕す・通る・借りる・掘る |
| その他 | 配偶者居住権・信託 | 住み続ける権利・管理を託したしるし |
読み方のコツを先にひとつ。担保権は付記登記(主登記にぶら下がるメモ書き)でよく動きます。 抵当権の持ち主が交代した(移転)、債権額が減った(変更)——こうした変化は 「1番 付記1号」のような形で親の登記の下に積み重なります。 そして第1章と同じく、効力を失った事項には下線が引かれます。
抵当権 — 「借金のカタ」の代表格
抵当権(ていとうけん)は担保物権の代表格です。住宅ローンを組むと、銀行はほぼ必ずこれを付けます。 質権と違って担保の不動産を持ち主の手元に置いたままにできるのが特徴で、 だからこそ外から見てもわからない。それを公示するのが乙区の役目です。 同じ不動産に複数の抵当権を付けられて、競売になったときの配当は登記した順番(順位)で決まります。 なお、利息は満期になった最後の2年分だけが担保されます(民法375条)。
抵当権設定 — 乙区でいちばんよく見る登記
まずは原本の見た目から。債務者の甲野太郎さんが株式会社A銀行から令和○年7月7日にお金を借り、 同じ日にその借金のカタとして抵当権を付けた例です。
| 権 利 部(乙区) (所有権以外の権利に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 1 | 抵当権設定 | 令和○年○月○日 第○号 | 原因 令和○年7月7日金銭消費貸借同日設定 債権額 金2,000万円 利息 年1.75%(年365日日割計算) 損害金 年14.0% 債務者 ○市○町○番○号 甲野太郎 抵当権者 ○市○町○番○号 株式会社A銀行(取扱店 ○○支店) |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
「1行 = 1できごと」に分解すると、こうなります。
記録例: 抵当権設定(通常の場合・取扱店の記録あり)
- 1番抵当権設定受付 令和○年○月○日 第○号
甲野太郎さんが銀行から2,000万円を借りて、「返せなかったらこの不動産を売ってお金にしていいよ」という約束(抵当権)を付けた。借りた日(金銭消費貸借)と担保にした日(設定)が同じ日。
- 原因
- 令和○年7月7日金銭消費貸借同日設定
- 債権額
- 金2,000万円
- 利息
- 年1.75%(年365日日割計算)
- 損害金
- 年14.0%
- 債務者
- ○市○町○番○号 甲野太郎
- 抵当権者
- ○市○町○番○号 株式会社A銀行(取扱店 ○○支店)
読みどころは4つあります。
- 原因「金銭消費貸借同日設定」 — 前半がお金を借りた契約(とその日付)、後半の「同日設定」が抵当権を付けた契約。日付が違えば「令和○年○月○日金銭消費貸借 令和○年○月○日設定」と並びます。
- 債権額 — 必ず登記される項目。ただしこれは「抵当権で担保される額」であって、実際に貸した額とは限りません(債権の一部だけ担保する書き方もあります)。
- 利息・損害金 — 定めがあれば登記。「(年365日日割計算)」は端数期間の計算特約です。
- 取扱店 — 銀行・信用金庫など通達で認められた金融機関だけが登記できるおまけ情報。一般の会社には認められていません。
バリエーションとして、共有持分への設定は登記の目的が「甲野太郎持分抵当権設定」のように だれの持分かがわかる書き方になります。また、土地と建物をセットで担保にする 共同抵当では、末尾に「共同担保 目録(あ) 第○号」が記録されます(第1章で見た共同担保目録です)。
工場抵当 — 機械までセットでカタになる
工場に属する土地・建物に抵当権を設定すると、特約がなくても備え付けの機械・器具まで当然に 抵当権の効力が及びます(工場抵当法2条)。登記官はその機械リスト=3条2項目録を作成し、 事項欄の末尾に「工場抵当法第3条第2項目録作成」と記録します。
| 権 利 部(乙区) (所有権以外の権利に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 1 | 抵当権設定 | 令和○年○月○日 第○号 | 原因 令和○年7月7日金銭消費貸借同日設定 債権額 金1,000万円 利息 年1.75%(年365日日割計算) 損害金 年14.0% 債務者 ○市○町○番○号 株式会社甲工業 抵当権者 ○市○町○番○号 株式会社A銀行 工場抵当法第3条第2項目録作成 |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 工場抵当(工場抵当法2条の設定)
- 1番抵当権設定受付 令和○年○月○日 第○号
工場の土地や建物をカタにすると、中に備え付けた機械や器具までセットでカタになる。末尾の「3条2項目録作成」が、その機械リストを登記所が作ったしるし。
- 原因
- 令和○年7月7日金銭消費貸借同日設定
- 債権額
- 金1,000万円
- 利息
- 年1.75%(年365日日割計算)
- 損害金
- 年14.0%
- 債務者
- ○市○町○番○号 株式会社甲工業
- 抵当権者
- ○市○町○番○号 株式会社A銀行
- 工場抵当法第3条第2項目録作成
この目録の提出は第三者対抗要件であって成立要件ではありません。それがシビアに効くのが次の例。 目録なしの1番と目録ありの2番が並ぶと、土地建物では1番が勝ちますが、 機械・器具の取り分では目録を出した2番が優先します(最一小判平成6年7月14日)。
| 権 利 部(乙区) (所有権以外の権利に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 1 | 抵当権設定 | 令和○年○月○日 第○号 | (一部省略) 抵当権者 ○市○町○番○号 A |
| 2 | 抵当権設定 | 令和○年○月○日 第○号 | (一部省略) 抵当権者 ○市○町○番○号 B 工場抵当法第3条第2項目録作成 |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 工場抵当(3条2項目録の提出がある場合とない場合)
- 1番抵当権設定受付 令和○年○月○日 第○号
目録なしで付けた1番抵当権。土地や建物には効くけれど、備え付けの機械の取り分では目録を出した人に負けてしまう。
- (一部省略)
- 抵当権者
- ○市○町○番○号 A
- 2番抵当権設定受付 令和○年○月○日 第○号
目録ありで付けた2番抵当権。順位はあとでも、工場の機械や器具のお金については1番より優先する(最高裁平成6年7月14日判決)。
- (一部省略)
- 抵当権者
- ○市○町○番○号 B
- 工場抵当法第3条第2項目録作成
なお、3条2項目録そのものはコンピュータ化されておらず、申請人が作った目録が そのまま使われます(書籍にも目録の帳票見本はありません)。
抵当権移転 — カタは借金にくっついて動く
抵当権は借金(被担保債権)にくっついて動きます。債権が譲渡されれば抵当権も一緒に移転する—— これを随伴性(ずいはんせい)といいます。移転は「1番抵当権移転」という付記登記で記録され、 順位は親(1番)のまま変わりません。意外なところでは、移転のときは前の抵当権者の名前に下線が引かれません。 下線はあくまで「抹消事項」の印だからです。
| 権 利 部(乙区) (所有権以外の権利に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 1 | 抵当権設定 | 平成○年○月○日 第○号 | (一部省略) 抵当権者 ○市○町○番○号 甲株式会社 |
| 付記1号 | 1番抵当権移転 | 平成○年○月○日 第○号 | 原因 平成○年○月○日債権譲渡 抵当権者 ○市○町○番○号 乙株式会社 |
| 付記2号 | 1番抵当権移転 | 令和○年○月○日 第○号 | 原因 令和○年○月○日債権譲渡 抵当権者 ○市○町○番○号 丙株式会社 |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 抵当権移転(債権の全部譲渡が順次行われた場合)
- 1番抵当権設定受付 平成○年○月○日 第○号
甲株式会社が付けた借金のカタ。このあと持ち主が2回交代するが、移転では前の持ち主の名前に下線は引かれない。
- (一部省略)
- 抵当権者
- ○市○町○番○号 甲株式会社
- 1番 付記1号1番抵当権移転受付 平成○年○月○日 第○号
甲が貸したお金(債権)を乙に譲ったので、カタも一緒に乙へ移った(随伴性)。順位は1番のまま変わらない。
- 原因
- 平成○年○月○日債権譲渡
- 抵当権者
- ○市○町○番○号 乙株式会社
- 1番 付記2号1番抵当権移転受付 令和○年○月○日 第○号
乙がさらに丙へ債権を譲った。全部譲渡の連続は「付記1号の付記」ではなく付記2号として並ぶ。いちばん下の付記が今の持ち主。
- 原因
- 令和○年○月○日債権譲渡
- 抵当権者
- ○市○町○番○号 丙株式会社
譲渡が2回続いても「付記1号の付記」にはならず、付記1号・付記2号と並びます (移転元はどちらも1番の抵当権だから)。いちばん下の付記が現在の抵当権者です。 債権の一部だけを譲ると次の形になり、このときだけ譲渡額が登記されます(法84条)。
| 権 利 部(乙区) (所有権以外の権利に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 1 | 抵当権設定 | 平成○年○月○日 第○号 | 原因 平成○年○月○日金銭消費貸借同日設定 債権額 1,000万円 (中略) 抵当権者 ○市○町○番○号 甲株式会社 |
| 付記1号 | 1番抵当権一部移転 | 令和○年○月○日 第○号 | 原因 令和○年○月○日債権一部譲渡 譲渡額 金600万円 抵当権者 ○市○町○番○号 乙株式会社 |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 抵当権一部移転(債権の一部譲渡)
- 1番抵当権設定受付 平成○年○月○日 第○号
甲株式会社が1,000万円の債権のカタとして付けた抵当権。このうち一部だけがこのあと譲られる。
- 原因
- 平成○年○月○日金銭消費貸借同日設定
- 債権額
- 1,000万円
- (中略)
- 抵当権者
- ○市○町○番○号 甲株式会社
- 1番 付記1号1番抵当権一部移転受付 令和○年○月○日 第○号
1,000万円のうち600万円分だけ乙に譲った。抵当権は甲400万円・乙600万円の「準共有」になる。一部譲渡のときだけ譲渡額が登記される。
- 原因
- 令和○年○月○日債権一部譲渡
- 譲渡額
- 金600万円
- 抵当権者
- ○市○町○番○号 乙株式会社
一部譲渡後の抵当権は甲400万円・乙600万円の準共有です。 このあと乙が自分の持分を丙へ全部譲ると、今度は「1番抵当権乙株式会社持分移転」が 付記1号の付記1号で記録されます(乙の権利取得の登記にぶら下げるため)。
移転原因は譲渡だけではありません。保証会社などが肩代わり返済して債権者の地位を引き継ぐ代位弁済、 差し押さえた債権を支払いに代えて差押債権者へ移す裁判所の命令=転付命令(てんぷめいれい。民事執行法159条)でも、 カタは債権にくっついて動きます。転付命令の場面に出てくるのが「第三債務者」という用語。本書のMEMOの図を再現します。
AがBに対する債権に基づいて、「BがCに対して持っている債権」を差し押さえた——このときのCが第三債務者です。 差押えの的になっているのは、人ではなくB→Cの矢印(債権)のほうです。
転抵当 — カタのまた貸し、そのまた貸し
転抵当(てんていとう)は「カタのまた貸し」です。抵当権を持っている銀行Bが、 今度は自分がAからお金を借りるために、持っている抵当権そのものを担保に入れる。 これも「1番抵当権転抵当」という付記登記で記録されます。 さらに転抵当の転抵当(付記1号の付記1号)まで可能です。次の記録例はその2段重ねです。
- BはCに貸したお金のカタとして、建物に抵当権を持っています(=原抵当権者)。
- そのBが今度はAからお金を借り、持っている抵当権そのものをカタに入れる——これが転抵当で、Aが転抵当権者です。
| 権 利 部(乙区) (所有権以外の権利に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 1 | 抵当権設定 | 令和○年○月○日 第○号 | (一部省略) 抵当権者 ○市○町○番○号 B株式会社 |
| 付記1号 | 1番抵当権転抵当 | 令和○年○月○日 第100号 | 原因 令和○年7月7日金銭消費貸借同日設定 債権額 金700万円 利息 年1.75%(年365日日割計算) 損害金 年14.0% 債務者 ○市○町○番○号 B株式会社 転抵当権者 ○市○町○番○号 A株式会社 |
| 付記1号の付記1号 | 1番付記1号転抵当の転抵当 | 令和○年○月○日 第101号 | 原因 令和○年7月7日金銭消費貸借同日設定 債権額 金700万円 利息 年1.75%(年365日日割計算) 損害金 年14.0% 債務者 ○市○町○番○号 A株式会社 転抵当権者 ○市○町○番○号 C株式会社 |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 転抵当の転抵当
- 1番抵当権設定受付 令和○年○月○日 第○号
B株式会社が持っている元の抵当権(原抵当権)。このカタ自体が、このあと2段階の「また貸し」に使われる。
- (一部省略)
- 抵当権者
- ○市○町○番○号 B株式会社
- 1番 付記1号1番抵当権転抵当受付 令和○年○月○日 第100号
BがAから700万円を借りるために、持っている1番抵当権そのものを担保に入れた(転抵当)。競売になればAが先に700万円を受け取る。
- 原因
- 令和○年7月7日金銭消費貸借同日設定
- 債権額
- 金700万円
- 利息
- 年1.75%(年365日日割計算)
- 損害金
- 年14.0%
- 債務者
- ○市○町○番○号 B株式会社
- 転抵当権者
- ○市○町○番○号 A株式会社
- 1番 付記1号の付記1号1番付記1号転抵当の転抵当受付 令和○年○月○日 第101号
今度はAが、もらった転抵当をさらにCへの借金のカタに入れた。「また貸しのまた貸し」は付記1号の付記1号として記録される。
- 原因
- 令和○年7月7日金銭消費貸借同日設定
- 債権額
- 金700万円
- 利息
- 年1.75%(年365日日割計算)
- 損害金
- 年14.0%
- 債務者
- ○市○町○番○号 A株式会社
- 転抵当権者
- ○市○町○番○号 C株式会社
原抵当権が実行されると、配当はまず転抵当権者(さらにその転抵当権者)から。 記録例なら、Cが700万円を限度に最優先、残りがB(300万円まで)という順になります。 登記の目的「1番付記1号転抵当の転抵当」が、どの権利を担保に入れたかの住所表示になっています。
変更登記と債務引受 — 「下線があるか」で抜けたかを読む
変更登記は中身の修正です。たとえば借金の一部を返して債権額が800万円→500万円になると、 「1番抵当権変更 原因 一部弁済 債権額 金500万円」という付記が付き、変更前の債権額に下線が引かれます。 債務者の交代(債務引受)もここに入ります。旧債務者が完全に抜ける免責的債務引受では旧債務者に下線、 旧債務者も残って連帯する併存的債務引受では「連帯債務者」として新しい人が並び、下線は引かれません。 「下線があるか」で、前の人が義務から抜けたかどうかを読み分けられるわけです。
| 権 利 部(乙区) (所有権以外の権利に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 1 | 抵当権設定 | 令和○年○月○日 第○号 | 原因 令和○年7月7日金銭消費貸借同日設定 債権額 金1,000万円 利息 年1.75%(年365日日割計算) 損害金 年14.0% 債務者 ○市○町○番○号 乙川花子 抵当権者 ○市○町○番○号 株式会社A銀行(取扱店 ○○支店) |
| 付記1号 | 1番抵当権変更 | 令和○年○月○日 第○号 | 原因 令和○年○月○日免責的債務引受 債務者 ○市○町○番○号 甲野太郎 |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 抵当権変更(免責的債務引受)
- 1番抵当権設定受付 令和○年○月○日 第○号
もともとの借金は乙川花子さんのもの。下の付記で甲野太郎さんが借金を引き受けて花子さんは義務から抜けたので、花子さんの名前に下線が引かれた。
- 原因
- 令和○年7月7日金銭消費貸借同日設定
- 債権額
- 金1,000万円
- 利息
- 年1.75%(年365日日割計算)
- 損害金
- 年14.0%
- 債務者
- ○市○町○番○号 乙川花子
- 抵当権者
- ○市○町○番○号 株式会社A銀行(取扱店 ○○支店)
- 1番 付記1号1番抵当権変更受付 令和○年○月○日 第○号
甲野太郎さんが借金をまるごと引き受けた(免責的債務引受)。今の債務者は太郎さんひとり。旧債務者も残る併存的債務引受なら「連帯債務者」と書かれ、下線は引かれない。
- 原因
- 令和○年○月○日免責的債務引受
- 債務者
- ○市○町○番○号 甲野太郎
債務者が亡くなった場合は「原因 相続」の変更登記で相続人が並びます。 興味深いことに、相続による債務者変更では従前の債務者に下線を引くかどうかの取扱いが統一されておらず、 引いてある例と引いていない例の両方が実在すると本書は注記しています。
順位変更 — 配当の並び順を合意で入れ替える
競売の配当は順位の若い抵当権から受け取るのが原則ですが、関係する抵当権者 全員の合意 + 登記で順位を絶対的に入れ替えられます(民法374条)。 次の記録例は、1番A・2番B・4番C(根抵当権)の順位を「第1 = C、第2 = B、第3 = A」に変えた例です。
| 権 利 部(乙区) (所有権以外の権利に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 1(5) | 抵当権設定 | 令和○年○月○日 第○号 | (一部省略) 抵当権者 ○市○町○番○号 株式会社A |
| 2(5) | 抵当権設定 | 令和○年○月○日 第○号 | (一部省略) 抵当権者 ○市○町○番○号 株式会社B |
| 3 | 地上権設定 | 令和○年○月○日 第○号 | (省略) |
| 4(5) | 根抵当権設定 | 令和○年○月○日 第○号 | (一部省略) 根抵当権者 ○市○町○番○号 株式会社C |
| 5 | 1番、2番、4番順位変更 | 令和○年○月○日 第○号 | 原因 令和○年○月○日合意 第1 4番根抵当権 第2 2番抵当権 第3 1番抵当権 |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 抵当権の順位変更(1番・2番・4番の順位を入れ替え)
- 1(5)番抵当権設定受付 令和○年○月○日 第○号
株式会社Aがいちばん最初に付けた借金のカタ。順位番号のとなりの(5)は「5番の登記で順番が変わったよ」のしるし。
- (一部省略)
- 抵当権者
- ○市○町○番○号 株式会社A
- 2(5)番抵当権設定受付 令和○年○月○日 第○号
2番目に付いた株式会社Bの借金のカタ。今回の順位変更でも2番目のまま動かないが、合意の当事者にはなる。
- (一部省略)
- 抵当権者
- ○市○町○番○号 株式会社B
- 3番地上権設定受付 令和○年○月○日 第○号
地上権は「土地を使わせてもらう権利」。お金の配当の順番とは関係がないので、下の順位変更には参加しない(順位番号に(5)が付かない)。
- (省略)
- 4(5)番根抵当権設定受付 令和○年○月○日 第○号
4番目に付いた株式会社Cの「借り放題の枠」のカタ(根抵当権)。順位変更には根抵当権も参加できる。
- (一部省略)
- 根抵当権者
- ○市○町○番○号 株式会社C
- 5番1番、2番、4番順位変更受付 令和○年○月○日 第○号
A・B・Cの3人が話し合って、配当をもらえる順番を「C→B→A」に入れ替えた。入れ替え結果はこの5番の主登記に書かれ、各抵当権の順位番号に(5)が付く。
- 原因
- 令和○年○月○日合意
- 第1
- 4番根抵当権
- 第2
- 2番抵当権
- 第3
- 1番抵当権
ここで読み取れるポイントは3つ。
- 順位変更は付記登記ではなく主登記(5番)で行われ、入れ替え結果が「第1・第2・第3」の形で列挙されます。
- 入れ替え対象になった抵当権の順位番号には(5)という相互参照が付きます。「この権利の本当の順位は5番の登記を見て」というサインです。
- 3番の地上権には(5)が付いていません。地上権のような用益権は「お金の配当を受ける権利」ではないので、順位変更に参加しようがないからです。
ちなみに、順位が動かない2番のBさんも合意の当事者になります。順位変更が自分に有利か不利かは 債権額・利息・相手の信用度などを総合しないとわからないため、関係者全員の合意が要るとされています。
順位譲渡・順位放棄 — 2人の間だけの席のやりとり
全員参加の順位変更に対して、順位譲渡・順位放棄は当事者2人の間だけの調整です(民法376条1項)。 だから主登記ではなく、譲る側の抵当権への付記登記で記録され、 受けた側の順位番号には「(1付1)」(=1番の付記1号で順位が動いた)という相互参照が付きます。 まず順位の譲渡。AとCの優先枠の合計から、Cが先に取り、残りをAが取る形になります。
| 権 利 部(乙区) (所有権以外の権利に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 1 | 抵当権設定 | 令和○年○月○日 第○号 | 原因 令和○年7月7日金銭消費貸借同日設定 債権額 金1,500万円 利息 年1.75%(年365日日割計算) 損害金 年14.0% 債務者 ○市○町○番○号 甲野太郎 抵当権者 ○市○町○番○号 A |
| 付記1号 | 1番抵当権の3番抵当権への順位譲渡 | 令和○年○月○日 第○号 | 原因 令和○年○月○日順位譲渡 |
| 2 | 抵当権設定 | 令和○年○月○日 第○号 | (前略) 債権額 金1,000万円 (一部省略) 抵当権者 ○市○町○番○号 B |
| 3(1付1) | 抵当権設定 | 令和○年○月○日 第○号 | (前略) 債権額 金3,500万円 (一部省略) 抵当権者 ○市○町○番○号 C |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 抵当権の順位の譲渡
- 1番抵当権設定受付 令和○年○月○日 第○号
いちばん先に配当を受けられるはずのAの抵当権(1,500万円)。下の付記で、その「先にもらえる席」をCに譲った。
- 原因
- 令和○年7月7日金銭消費貸借同日設定
- 債権額
- 金1,500万円
- 利息
- 年1.75%(年365日日割計算)
- 損害金
- 年14.0%
- 債務者
- ○市○町○番○号 甲野太郎
- 抵当権者
- ○市○町○番○号 A
- 1番 付記1号1番抵当権の3番抵当権への順位譲渡受付 令和○年○月○日 第○号
AがCに順位を譲った記録。A・Cの取り分の合計からCが先に受け取り、残りをAがもらう。間にいるBの取り分は変わらない。
- 原因
- 令和○年○月○日順位譲渡
- 2番抵当権設定受付 令和○年○月○日 第○号
2番のB(1,000万円)。順位譲渡はAとCの間だけの席替えなので、Bの配当には影響しない。
- (前略)
- 債権額
- 金1,000万円
- (一部省略)
- 抵当権者
- ○市○町○番○号 B
- 3(1付1)番抵当権設定受付 令和○年○月○日 第○号
3番のC(3,500万円)。順位番号のとなりの(1付1)は「1番の付記1号の登記で順位が動いたよ」という相互参照のしるし。
- (前略)
- 債権額
- 金3,500万円
- (一部省略)
- 抵当権者
- ○市○町○番○号 C
次に順位の放棄。帳票の見た目は譲渡とほぼ同じで、目的と原因の「譲渡/放棄」だけが違います。 ただし配当の計算はまったく別物。放棄ではAとCが同順位になり、 優先枠を債権額の比(3対7)で按分します。どちらの場合も、間にいるBの取り分は変わりません。
| 権 利 部(乙区) (所有権以外の権利に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 1 | 抵当権設定 | 令和○年○月○日 第○号 | 原因 令和○年7月7日金銭消費貸借同日設定 債権額 金1,500万円 利息 年1.75%(年365日日割計算) 損害金 年14.0% 債務者 ○市○町○番○号 甲野太郎 抵当権者 ○市○町○番○号 A |
| 付記1号 | 1番抵当権の3番抵当権への順位放棄 | 令和○年○月○日 第○号 | 原因 令和○年○月○日順位放棄 |
| 2 | 抵当権設定 | 令和○年○月○日 第○号 | (前略) 債権額 金1,000万円 (一部省略) 抵当権者 ○市○町○番○号 B |
| 3(1付1) | 抵当権設定 | 令和○年○月○日 第○号 | (前略) 債権額 金3,500万円 (一部省略) 抵当権者 ○市○町○番○号 C |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 抵当権の順位の放棄
- 1番抵当権設定受付 令和○年○月○日 第○号
先頭のAの抵当権(1,500万円)。下の付記で「先にもらえる得」をCに対して手放した(放棄)。
- 原因
- 令和○年7月7日金銭消費貸借同日設定
- 債権額
- 金1,500万円
- 利息
- 年1.75%(年365日日割計算)
- 損害金
- 年14.0%
- 債務者
- ○市○町○番○号 甲野太郎
- 抵当権者
- ○市○町○番○号 A
- 1番 付記1号1番抵当権の3番抵当権への順位放棄受付 令和○年○月○日 第○号
AがCに対して順位を放棄した記録。譲渡と違って席を入れ替えるのではなく、AとCが同順位になり、債権額の比(3対7)で分け合う。
- 原因
- 令和○年○月○日順位放棄
- 2番抵当権設定受付 令和○年○月○日 第○号
2番のB(1,000万円)。順位放棄もAとCの間だけの話なので、Bの取り分は変わらない。
- (前略)
- 債権額
- 金1,000万円
- (一部省略)
- 抵当権者
- ○市○町○番○号 B
- 3(1付1)番抵当権設定受付 令和○年○月○日 第○号
3番のC(3,500万円)。(1付1)は順位譲渡のときと同じ相互参照。AとCの優先枠を3対7で分けるので、Cの実入りが増える。
- (前略)
- 債権額
- 金3,500万円
- (一部省略)
- 抵当権者
- ○市○町○番○号 C
| 観点 | 順位変更(374条) | 順位譲渡・放棄(376条) |
|---|---|---|
| だれの合意か | 関係する担保権者全員 | 当事者2人だけ |
| 登記の形式 | 主登記(新しい順位番号) | 譲る側への付記登記 |
| 相互参照 | (5) のように主登記の番号 | (1付1) のように付記の番号 |
| 第三者への影響 | 順位が絶対的に入れ替わる | 当事者間の配当だけ調整(Bは無関係) |
抵当権抹消 — 完済のゴールテープ
借金を完済するなどして抵当権が消えたら、抹消登記でゴールテープを切ります。 主な原因は「弁済」(全部返した)・「解除」「放棄」(債務が残っていても担保だけ外す)・ 「主債務消滅」(保証会社のカタで、元の借金が消えたから)など。原因を見ると消えた理由まで読めます。
| 権 利 部(乙区) (所有権以外の権利に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 1 | 抵当権設定 | 平成○年○月○日 第○号 | 原因 平成○年7月7日金銭消費貸借同日設定 債権額 金1,000万円 利息 年1.75%(年365日日割計算) 損害金 年14.0% 債務者 ○市○町○番○号 甲野太郎 抵当権者 ○市○町○番○号 株式会社A銀行 |
| 付記1号 | 1番抵当権移転 | 平成○年6月6日 第○号 | 原因 平成○年4月1日合併 抵当権者 ○市○町○番○号 株式会社B銀行 |
| 2 | 1番抵当権抹消 | 令和○年7月10日 第○号 | 原因 令和○年7月7日弁済 |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 弁済による抵当権の抹消
- 1番抵当権設定受付 平成○年○月○日 第○号
A銀行が付けた1,000万円の借金のカタ。あとで完済されて消された(抹消)ので、登記事項の全体に下線が引かれている。
- 原因
- 平成○年7月7日金銭消費貸借同日設定
- 債権額
- 金1,000万円
- 利息
- 年1.75%(年365日日割計算)
- 損害金
- 年14.0%
- 債務者
- ○市○町○番○号 甲野太郎
- 抵当権者
- ○市○町○番○号 株式会社A銀行
- 1番 付記1号1番抵当権移転受付 平成○年6月6日 第○号
A銀行がB銀行に合併されて、カタの持ち主がB銀行に交代した記録。抵当権ごと消されたので、ここにも下線が引かれている。
- 原因
- 平成○年4月1日合併
- 抵当権者
- ○市○町○番○号 株式会社B銀行
- 2番1番抵当権抹消受付 令和○年7月10日 第○号
借金が全部返された(弁済)ので、1番の抵当権を消した。「消した」という記録自体は新しい順位番号で残り、消された側に下線が引かれる。
- 原因
- 令和○年7月7日弁済
注目してほしいのは下線の引かれ方です。変更登記では「変更前の債権額」のように一部にだけ下線が引かれましたが、 抹消登記では抹消された側の登記事項の全体に下線が引かれます。 原本どおり、1番は順位番号・登記の目的・受付欄まで下線、 その付記1号(合併による移転)も登記の目的・受付欄ごと丸ごと下線—— 「この権利に関する記録はすべて効力を失った」という意味です。 中古物件の乙区が下線だらけなのは、過去のローンを組んでは完済してきた歴史の表れで、悪いサインではありません。
ひとつ実務的な注意を。抹消登記は不動産の所有者と抵当権者が共同で申請しますが、 抵当権者の銀行が合併していたら先に移転登記が必要(記録例の付記1号がまさにそれ)、 所有者が亡くなっていたら先に相続登記が必要、という順序のルールがあります。
根抵当権 — 「借り放題の枠」のカタ
根抵当権(ねていとうけん)は、会社と銀行のように継続的に何度も貸し借りする関係のための担保です。 普通の抵当権が「住宅ローン1本のカタ」なら、根抵当権は「極度額(きょくどがく)という枠を決めて、 その範囲なら何度借りても返しても担保され続ける枠のカタ」。借りるたびに抵当権を設定し直す手間がいりません。
根抵当権設定 — 枠の中身を読む
| 権 利 部(乙区) (所有権以外の権利に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 1 | 根抵当権設定 | 令和○年○月○日 第○号 | 原因 令和○年○月○日設定 極度額 金1,000万円 債権の範囲 銀行取引 手形債権 小切手債権 電子記録債権 確定期日 令和○年○月○日 債務者 ○市○町○番○号 株式会社A 根抵当権者 ○市○町○番○号 甲銀行株式会社(取扱店 東京支店) 共同担保 目録(あ) 第○号 |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 根抵当権設定(共同根抵当権)
- 1番根抵当権設定受付 令和○年○月○日 第○号
株式会社Aと甲銀行が「1,000万円の枠までなら、何度借りても返してもこの不動産が担保になるよ」という枠(根抵当権)を付けた。いま実際にいくら借りているかは登記簿からはわからない。
- 原因
- 令和○年○月○日設定
- 極度額
- 金1,000万円
- 債権の範囲
- 銀行取引 手形債権 小切手債権 電子記録債権
- 確定期日
- 令和○年○月○日
- 債務者
- ○市○町○番○号 株式会社A
- 根抵当権者
- ○市○町○番○号 甲銀行株式会社(取扱店 東京支店)
- 共同担保
- 目録(あ) 第○号
- 極度額 — 担保の上限枠。元本も利息も損害金も全部この枠の中。逆にいうと、いま実際にいくら借りているかは登記簿からわからないのが抵当権との大きな違いです。
- 債権の範囲 — どんな取引から生まれた債権を担保するかの限定。「銀行取引」「売買取引」のように認められる類型が決まっていて、「商取引」のような広すぎる書き方は認められません。
- 確定期日 — 枠の締め切り日。定めるかは任意で、実際にはほとんど定められません。
- 債務者 — 複数いても「連帯債務者」とは書かない作法です。根抵当権者が複数(共有)でも持分は書きません。
| 観点 | 抵当権 | 根抵当権 |
|---|---|---|
| 担保する借金 | 特定の1本 | 枠の中で出たり入ったりする不特定の債権 |
| 必ず登記される金額 | 債権額(担保される額) | 極度額(枠の上限。実際の残高は不明) |
| 原因の書き方 | 「金銭消費貸借同日設定」のように債権契約とセット | 「設定」だけ(債権が特定していないから) |
| 借金を完済すると | 抵当権も消滅 → 抹消できる | 枠は残る(元本確定するまで消えない) |
| 債権だけ譲渡すると | 随伴して抵当権も移転 | 確定前は随伴しない(枠ごと譲渡するには設定者の承諾) |
根抵当権の全部譲渡 — 枠ごと譲る
元本確定前の根抵当権は債権と切り離して枠ごと譲渡できます(設定者の承諾が必要)。 まるごと譲るのが全部譲渡。原因は「全部譲渡」ではなく単に「譲渡」と書くのが作法です。
| 権 利 部(乙区) (所有権以外の権利に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 1 | 根抵当権設定 | 令和○年○月○日 第○号 | 原因 令和○年○月○日設定 極度額 金1,000万円 債権の範囲 銀行取引 手形債権 小切手債権 確定期日 令和○年○月○日 債務者 ○市○町○番○号 株式会社A 根抵当権者 ○市○町○番○号 甲銀行株式会社 |
| 付記1号 | 1番根抵当権移転 | 令和○年○月○日 第○号 | 原因 令和○年○月○日譲渡 根抵当権者 ○市○町○番○号 株式会社乙銀行 |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 根抵当権の全部譲渡
- 1番根抵当権設定受付 令和○年○月○日 第○号
甲銀行が持っていた「1,000万円までの借り放題の枠」のカタ。確定前の根抵当権は、債権と切り離して枠ごと譲れる。
- 原因
- 令和○年○月○日設定
- 極度額
- 金1,000万円
- 債権の範囲
- 銀行取引 手形債権 小切手債権
- 確定期日
- 令和○年○月○日
- 債務者
- ○市○町○番○号 株式会社A
- 根抵当権者
- ○市○町○番○号 甲銀行株式会社
- 1番 付記1号1番根抵当権移転受付 令和○年○月○日 第○号
枠ごと乙銀行に譲られた。原因は「全部譲渡」ではなく単に「譲渡」と書く。設定者(不動産の持ち主)の承諾がないと効力が出ない。
- 原因
- 令和○年○月○日譲渡
- 根抵当権者
- ○市○町○番○号 株式会社乙銀行
分割譲渡 — 枠を2つに切って片方を譲る
分割譲渡では1個の根抵当権が「1番(あ)」「1番(い)」という同順位の2個に分かれます。 次の記録例は、極度額1,000万円を300万円と700万円に分割し、700万円側を乙銀行に譲渡したうえで 債権の範囲も変更した、この章でいちばん複雑な帳票です。
| 権 利 部(乙区) (所有権以外の権利に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 1(あ) | 根抵当権設定 | 平成2年3月2日 第1234号 | 原因 平成2年3月1日設定 極度額 金1,000万円 債権の範囲 売買取引 手形債権 小切手債権 債務者 ○市○町○番○号 株式会社A 根抵当権者 ○市○町○番○号 甲銀行株式会社(取扱店 東京支店) 共同担保 目録(あ) 第○号 |
| 付記1号 | 1番(あ)根抵当権変更 | 余白 | 極度額 金300万円 分割譲渡により令和○年7月8日付記 |
| 1(い) | 1番根抵当権分割譲渡 | 令和○年7月8日 第4567号 | 原因 令和○年7月6日分割譲渡 (根抵当権の表示) 平成2年3月2日受付 第1234号 原因 平成2年3月1日設定 極度額 金700万円 債権の範囲 売買取引 手形債権 小切手債権 債務者 ○市○町○番○号 株式会社A 根抵当権者 ○市○町○番○号 乙銀行株式会社(取扱店 渋谷支店) 共同担保 目録(か) 第○号 |
| 付記1号 | 1番(い)根抵当権変更 | 令和○年7月8日 第4568号 | 原因 令和○年7月6日変更 債権の範囲 銀行取引 手形債権 小切手債権 |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 根抵当権の分割譲渡と債権の範囲の変更
- 1(あ)番根抵当権設定受付 平成2年3月2日 第1234号
もとは1,000万円の枠が1個。分割譲渡で2個に分かれたので、順位番号が「1番(あ)」に変わり、古い極度額1,000万円に下線が引かれた。
- 原因
- 平成2年3月1日設定
- 極度額
- 金1,000万円
- 債権の範囲
- 売買取引 手形債権 小切手債権
- 債務者
- ○市○町○番○号 株式会社A
- 根抵当権者
- ○市○町○番○号 甲銀行株式会社(取扱店 東京支店)
- 共同担保
- 目録(あ) 第○号
- 1(あ)番 付記1号1番(あ)根抵当権変更受付 余白
登記官が職権で入れた付記。だれかの申請ではないので受付欄は「余白」。手元に残った(あ)の枠は300万円に減った、というメモ。
- 極度額
- 金300万円
- 分割譲渡により令和○年7月8日付記
- 1(い)番1番根抵当権分割譲渡受付 令和○年7月8日 第4567号
分割して乙銀行に譲られた700万円の枠。(あ)と同順位の「1番(い)」になる。中身には元の根抵当権の受付番号や設定日が引き写される。下の付記で債権の範囲が変わったので、古い範囲に下線。
- 原因
- 令和○年7月6日分割譲渡
- (根抵当権の表示)
- 平成2年3月2日受付 第1234号
- 原因
- 平成2年3月1日設定
- 極度額
- 金700万円
- 債権の範囲
- 売買取引 手形債権 小切手債権
- 債務者
- ○市○町○番○号 株式会社A
- 根抵当権者
- ○市○町○番○号 乙銀行株式会社(取扱店 渋谷支店)
- 共同担保
- 目録(か) 第○号
- 1(い)番 付記1号1番(い)根抵当権変更受付 令和○年7月8日 第4568号
譲り受けた乙銀行は売買の会社ではなく銀行なので、債権の範囲を「売買取引」から「銀行取引」に変えた。
- 原因
- 令和○年7月6日変更
- 債権の範囲
- 銀行取引 手形債権 小切手債権
読みどころは3つ。
- 1番(あ)の付記1号は登記官の職権による付記。だれの申請でもないので受付欄が「余白」になり、「分割譲渡により令和○年7月8日付記」と入ります。元の極度額 金1,000万円には下線。
- 1番(い)の事項欄には元の根抵当権のプロフィール(受付番号・設定日・債権の範囲・債務者)が引き写されます。(あ)と(い)が同じ親から分かれた証拠です。
- 譲り受けた乙銀行がすぐ債権の範囲を「売買取引」→「銀行取引」に変えたので、(い)の変更前の範囲に下線が引かれています。
一部譲渡と優先の定め — 1個の枠を2社で共有する
一部譲渡では枠を切らずに2社で準共有します。共有者の取り分は本来は債権額の割合ですが、 確定前なら「乙銀行は甲銀行に優先する」のような優先の定めを合意して付記で登記できます (「甲3・乙7の割合」のような定め方も可)。
| 権 利 部(乙区) (所有権以外の権利に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 1 | 根抵当権設定 | 令和○年○月○日 第○号 | (前略) 根抵当権者 ○市○町○番○号 甲銀行株式会社 |
| 付記1号 | 1番根抵当権一部移転 | 令和○年○月○日 第○号 | 原因 令和○年○月○日一部譲渡 根抵当権者 ○市○町○番○号 乙銀行株式会社 |
| 付記2号 | 1番根抵当権優先の定 | 令和○年○月○日 第○号 | 原因 令和○年○月○日合意 優先の定 乙銀行株式会社は甲銀行株式会社に優先する |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 根抵当権の一部譲渡及び優先の定め
- 1番根抵当権設定受付 令和○年○月○日 第○号
甲銀行の根抵当権。このあと枠の一部を乙銀行に譲って、2社で1個の枠を共有することになる。
- (前略)
- 根抵当権者
- ○市○町○番○号 甲銀行株式会社
- 1番 付記1号1番根抵当権一部移転受付 令和○年○月○日 第○号
枠の一部が乙銀行へ。これで根抵当権は甲・乙の準共有になった。分割譲渡と違って枠は1個のまま。
- 原因
- 令和○年○月○日一部譲渡
- 根抵当権者
- ○市○町○番○号 乙銀行株式会社
- 1番 付記2号1番根抵当権優先の定受付 令和○年○月○日 第○号
共有する2社の取り分は本来は債権額の割合だが、合意で「乙が先」と決めて登記した。「甲3・乙7の割合」のような決め方もできる。
- 原因
- 令和○年○月○日合意
- 優先の定
- 乙銀行株式会社は甲銀行株式会社に優先する
なお、銀行が経営破綻して事業譲渡される場面に限っては、設定者の承諾なしで 枠ごと移転できる特例があります(預金保険法133条の2第1項)。原因欄に条文名がそのまま入る珍しい記録です。
| 権 利 部(乙区) (所有権以外の権利に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 1 | 根抵当権設定 | 令和○年○月○日 第○号 | (一部省略) 根抵当権者 ○市○町○番○号 株式会社甲銀行 |
| 付記1号 | 1番根抵当権移転 | 令和○年○月○日 第○号 | 原因 令和○年○月○日預金保険法第133条の2第1項による譲渡 根抵当権者 ○市○町○番○号 株式会社乙銀行 |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 預金保険法133条の2第1項による根抵当権の移転
- 1番根抵当権設定受付 令和○年○月○日 第○号
甲銀行の根抵当権。甲銀行が経営破綻して、事業ごと別の銀行に引き継がれる場面。
- (一部省略)
- 根抵当権者
- ○市○町○番○号 株式会社甲銀行
- 1番 付記1号1番根抵当権移転受付 令和○年○月○日 第○号
破綻した銀行の事業譲渡のときだけは、設定者の承諾なしで枠ごと乙銀行へ移せる特例。原因に法律の条文名がそのまま書かれる。
- 原因
- 令和○年○月○日預金保険法第133条の2第1項による譲渡
- 根抵当権者
- ○市○町○番○号 株式会社乙銀行
債権の範囲の変更 — 枠の対象を入れ替える
確定前なら債権の範囲は根抵当権者と設定者の合意で変更できます(債務者の同意は不要、 後順位者の承諾も不要。民法398条の4)。変更すると変更前の範囲の全体に下線が引かれます。
| 権 利 部(乙区) (所有権以外の権利に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 1 | 根抵当権設定 | 令和○年○月○日 第○号 | 原因 令和○年○月○日設定 極度額 金1,000万円 債権の範囲 金銭消費貸借取引 手形債権 小切手債権 債務者 ○市○町○番○号 株式会社A 根抵当権者 ○市○町○番○号 甲銀行株式会社 |
| 付記1号 | 1番根抵当権変更 | 令和○年○月○日 第○号 | 原因 令和○年○月○日変更 債権の範囲 金銭消費貸借取引 売買取引 手形債権 小切手債権 |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 根抵当権変更(債権の範囲の変更)
- 1番根抵当権設定受付 令和○年○月○日 第○号
はじめの枠は「お金の貸し借り(金銭消費貸借取引)」が対象。下の付記で範囲が広がったので、古い範囲の全体に下線が引かれた。
- 原因
- 令和○年○月○日設定
- 極度額
- 金1,000万円
- 債権の範囲
- 金銭消費貸借取引 手形債権 小切手債権
- 債務者
- ○市○町○番○号 株式会社A
- 根抵当権者
- ○市○町○番○号 甲銀行株式会社
- 1番 付記1号1番根抵当権変更受付 令和○年○月○日 第○号
債権の範囲に「売買取引」を追加した。根抵当権者と設定者の合意だけででき、あとの順位の人の承諾はいらない(民法398条の4第2項)。
- 原因
- 令和○年○月○日変更
- 債権の範囲
- 金銭消費貸借取引 売買取引 手形債権 小切手債権
債務者の相続 — 6か月以内の「合意の登記」が分かれ道
根抵当権の債務者が亡くなったら、相続開始から6か月以内に 「これからの取引はこの相続人と続けます」という指定債務者の合意の登記をするかが分かれ道。 しなければ、元本は相続開始の時にさかのぼって確定したものとみなされます(民法398条の8第4項)。 まずは6か月以内に合意の登記をした例。相続(付記1号)→合意(付記2号)と積み重なります。
| 権 利 部(乙区) (所有権以外の権利に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 1 | 根抵当権設定 | 平成○年○月○日 第○号 | 原因 平成○年○月○日設定 極度額 金1,000万円 債権の範囲 銀行取引 手形債権 小切手債権 債務者 ○市○町○番○号 甲野太郎 根抵当権者 ○市○町○番○号 甲銀行株式会社 |
| 付記1号 | 1番根抵当権変更 | 平成○年○月○日 第○号 | 原因 平成○年○月○日相続 債務者 ○市○町○番○号 甲野花子 ○市○町○番○号 甲野次郎 |
| 付記2号 | 1番根抵当権変更 | 平成○年○月○日 第○号 | 原因 平成○年○月○日合意 指定債務者 ○市○町○番○号 甲野次郎 |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 根抵当権の債務者の相続と合意の登記
- 1番根抵当権設定受付 平成○年○月○日 第○号
債務者は甲野太郎さん。太郎さんが亡くなったあとどうなるかが、下の2つの付記に記録されていく。相続では太郎さんの名前に下線は引かれない。
- 原因
- 平成○年○月○日設定
- 極度額
- 金1,000万円
- 債権の範囲
- 銀行取引 手形債権 小切手債権
- 債務者
- ○市○町○番○号 甲野太郎
- 根抵当権者
- ○市○町○番○号 甲銀行株式会社
- 1番 付記1号1番根抵当権変更受付 平成○年○月○日 第○号
太郎さんが亡くなり、法定相続人の花子さんと次郎さんが債務者として並んだ。原因の日付は亡くなった日。
- 原因
- 平成○年○月○日相続
- 債務者
- ○市○町○番○号 甲野花子 ○市○町○番○号 甲野次郎
- 1番 付記2号1番根抵当権変更受付 平成○年○月○日 第○号
「これからの取引は次郎さんと続けます」という指定債務者の合意の登記。相続開始から6か月以内にしないと、枠は相続の時にさかのぼって締め切られる。
- 原因
- 平成○年○月○日合意
- 指定債務者
- ○市○町○番○号 甲野次郎
次は合意の登記をしなかった例。原因の相続日(平成20年4月8日)と付記1号の受付日(平成20年12月2日)が 6か月以上離れている——これが「合意なし=亡くなった人の分は確定済み」と読み取るサインです。 そのうえで相続人間の債務引受を反映するため、付記2号で債務者ごとに債権の範囲を書き分ける 長文の変更登記が入ります。
| 権 利 部(乙区) (所有権以外の権利に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 1 | 根抵当権設定 | 平成○年○月○日 第○号 | 原因 平成○年○月○日設定 極度額 金1,000万円 債権の範囲 銀行取引 手形債権 小切手債権 債務者 ○市○町○番○号 甲野太郎 ○市○町○番○号 甲野次郎 根抵当権者 ○市○町○番○号 乙銀行株式会社 |
| 付記1号 | 1番根抵当権変更 | 平成20年12月2日 第○号 | 原因 平成20年4月8日債務者甲野太郎の相続 債務者 ○市○町○番○号 甲野花子 ○市○町○番○号 丙川あゆみ |
| 付記2号 | 1番根抵当権変更 | 平成21年3月2日 第○号 | 原因 平成21年3月1日変更 債権の範囲 債務者甲野次郎につき 銀行取引 手形債権 小切手債権 債務者甲野花子につき 平成21年3月1日債務引受(旧債務者丙川あゆみ)にかかる債権 平成20年4月8日相続による甲野花子の相続債務のうち変更前根抵当権の被担保債権の範囲に属するものにかかる債権 銀行取引 手形債権 小切手債権 債務者 ○市○町○番○号 甲野次郎 ○市○町○番○号 甲野花子 |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 根抵当権の債務者の相続と債務引受(債務者の一人について相続が発生した場合)
- 1番根抵当権設定受付 平成○年○月○日 第○号
債務者は太郎さんと次郎さんの2人。あとで付記2号が債務者と債権の範囲を書き直したので、ここの古い記載には下線が引かれている。
- 原因
- 平成○年○月○日設定
- 極度額
- 金1,000万円
- 債権の範囲
- 銀行取引 手形債権 小切手債権
- 債務者
- ○市○町○番○号 甲野太郎 ○市○町○番○号 甲野次郎
- 根抵当権者
- ○市○町○番○号 乙銀行株式会社
- 1番 付記1号1番根抵当権変更受付 平成20年12月2日 第○号
太郎さんが平成20年4月8日に死亡し、花子さんとあゆみさんが債務を相続した。受付日が死亡から6か月以上あとなので「合意の登記はされなかった=太郎さん分は確定済み」と読める。
- 原因
- 平成20年4月8日債務者甲野太郎の相続
- 債務者
- ○市○町○番○号 甲野花子 ○市○町○番○号 丙川あゆみ
- 1番 付記2号1番根抵当権変更受付 平成21年3月2日 第○号
花子さんがあゆみさんの分も引き受けて債務者を整理した登記。確定前の根抵当権では「債務引受」を原因にできないので、債務者ごとに債権の範囲を細かく書き分けるこの形になる。
- 原因
- 平成21年3月1日変更
- 債権の範囲
- 債務者甲野次郎につき 銀行取引 手形債権 小切手債権 債務者甲野花子につき 平成21年3月1日債務引受(旧債務者丙川あゆみ)にかかる債権 平成20年4月8日相続による甲野花子の相続債務のうち変更前根抵当権の被担保債権の範囲に属するものにかかる債権 銀行取引 手形債権 小切手債権
- 債務者
- ○市○町○番○号 甲野次郎 ○市○町○番○号 甲野花子
元本確定 — 枠が締め切られる瞬間
元本確定(がんぽんかくてい)とは、借り放題の枠が締め切られて、 その時点で存在する債権だけを担保する「普通の抵当権のような状態」になることです。 確定事由は、確定期日の到来、設定者・根抵当権者からの確定請求、競売や滞納処分の差押え、 債務者・設定者の破産手続開始など多数あります。 ただし登記簿に書かれる原因は「確定」の一言だけで、なぜ確定したかまでは登記簿からわかりません。 確定すると性格が逆転して、それまでできた債権の範囲の変更や枠ごとの譲渡はできなくなり、 代わりに債権譲渡による移転ができるようになります。
本書が4ページにわたって列挙している確定事由を、タイプ別に整理するとこうなります。
| タイプ | 枠が締め切られる場合 |
|---|---|
| 締め切り日 | 確定期日が来た(民法398条の6) |
| 請求 | 設定者からの確定請求 — 設定から3年たてばでき、請求から2週間で確定(398条の19第1項) |
| 根抵当権者からの確定請求 — いつでもでき、請求の時に確定(同条2項) | |
| 根抵当権者・債務者に合併や会社分割があったときの、設定者からの確定請求(398条の9・398条の10) | |
| 相続 | 相続開始から6か月以内に指定債務者(指定根抵当権者)の合意の登記をしなかった — 相続開始時にさかのぼって確定(398条の8第4項) |
| 担保の実行 | 根抵当権者自身が競売・担保不動産収益執行・物上代位の差押えを申し立てた(398条の20第1項1号) |
| 根抵当権者が滞納処分による差押えをした(同2号) | |
| 他の債権者が始めた競売手続の開始や滞納処分の差押えを知ってから2週間たった(同3号) | |
| 倒産 | 債務者または設定者が破産手続開始の決定を受けた(同4号) |
| 民事再生法による担保権消滅の許可があった(民事再生法148条) |
| 権 利 部(乙区) (所有権以外の権利に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 1 | 根抵当権設定 | 平成○年○月○日 第○号 | 原因 平成○年○月○日設定 極度額 金1,000万円 債権の範囲 銀行取引 手形債権 小切手債権 債務者 ○市○町○番○号 株式会社A 根抵当権者 ○市○町○番○号 甲銀行株式会社 |
| 付記1号 | 1番根抵当権元本確定 | 令和○年○月○日 第○号 | 原因 令和○年○月○日確定 |
| 付記2号 | 1番根抵当権移転 | 令和○年○月○日 第○号 | 原因 令和○年○月○日債権譲渡 根抵当権者 ○市○町○番○号 株式会社B |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 根抵当権の元本確定と債権譲渡による移転
- 1番根抵当権設定受付 平成○年○月○日 第○号
甲銀行の借り放題の枠。下の付記で枠が締め切られ(確定)、そのあと債権ごと別の会社へ売られていく。
- 原因
- 平成○年○月○日設定
- 極度額
- 金1,000万円
- 債権の範囲
- 銀行取引 手形債権 小切手債権
- 債務者
- ○市○町○番○号 株式会社A
- 根抵当権者
- ○市○町○番○号 甲銀行株式会社
- 1番 付記1号1番根抵当権元本確定受付 令和○年○月○日 第○号
枠の締め切り(元本確定)の登記。原因は「確定」の一言だけで、なぜ確定したのか・いくら残っているのかは登記簿からはわからない。
- 原因
- 令和○年○月○日確定
- 1番 付記2号1番根抵当権移転受付 令和○年○月○日 第○号
確定して中身が特定の債権になったので、債権を譲ると根抵当権もくっついて移る(随伴性が復活)。確定→債権譲渡の並びは、不良債権が回収業者へ売られた場面でよく見る。
- 原因
- 令和○年○月○日債権譲渡
- 根抵当権者
- ○市○町○番○号 株式会社B
「1番根抵当権元本確定」の付記の次に「1番根抵当権移転 原因 債権譲渡」が並ぶこの形は、 不良債権が回収業者へ売られた場面かもしれない——そんな読み方ができる並びです。 付記2号の移転をするには、確定していることが登記簿上明らかである必要があり、 付記1号の確定の登記がその役割を果たしています。
用益権 — 土地を「使わせてもらう」権利
ここからは2つめの系統、使う約束の権利です。担保権と違ってお金の配当順位の話は出てきません。 「だれが・なんのために・どの範囲を・いつまで」使えるかを読みます。
地上権 — 建てるための強い権利
地上権(ちじょうけん)は、建物・橋・地下鉄などの工作物や竹木を所有するために 他人の土地を使う物権です。登記には目的(「建物所有」など)・存続期間・地代が記録されます。 登記される事項を整理すると次のとおりです。
- 設定の目的 — 必ず記録(「建物所有」など)
- 地代・その支払時期 — 定めがあるとき
- 存続期間、定期借地(借地借家法22条・23条)や被災地短期借地(被災借地借家特措法7条)の定め — 定めがあるとき
- 目的が事業用建物の所有(借地借家法23条1項・2項)のときは、その旨
- 区分地上権(民法269条の2)では、目的である地下・空間の上下の範囲と、土地の使用を制限する定め
| 権 利 部(乙区) (所有権以外の権利に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 1 | 地上権設定 | 令和○年○月○日 第○号 | 原因 令和○年○月○日設定 目的 建物所有 存続期間 60年 地代 1平方メートル1年1万円 支払時期 毎年○月○日 地上権者 ○市○町○番○号 甲野太郎 |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 通常の地上権の設定
- 1番地上権設定受付 令和○年○月○日 第○号
甲野太郎さんが「他人の土地に自分の建物を建てて60年使う」強い権利(物権)をもらった記録。目的・期間・地代がセットで書かれる。
- 原因
- 令和○年○月○日設定
- 目的
- 建物所有
- 存続期間
- 60年
- 地代
- 1平方メートル1年1万円
- 支払時期
- 毎年○月○日
- 地上権者
- ○市○町○番○号 甲野太郎
区分地上権 — 空中・地下を輪切りにする
おもしろいのは区分地上権で、「東京湾平均海面の上100メートルから上30メートルの間」のように 空中や地下を輪切りにして設定できます(民法269条の2)。高架鉄道や地下鉄が典型で、 「範囲」欄があるのが通常の地上権との見分けポイント。 土地所有者の使い方を制限する特約も登記できます。
| 権 利 部(乙区) (所有権以外の権利に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 1 | 地上権設定 | 令和○年○月○日 第○号 | 原因 令和○年○月○日設定 目的 高架鉄道敷設 範囲 東京湾平均海面の上100メートルから上30メートルの間 地代 1平方メートル1年○万円 支払時期 毎年○月○日 特約 土地の所有者は高架鉄道の運行の障害となる工作物を設置しない 地上権者 ○市○町○番○号 株式会社甲 |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 区分地上権の設定
- 1番地上権設定受付 令和○年○月○日 第○号
土地を丸ごとではなく、空中を「海面の上100mから30mぶん」だけ輪切りにして借りる区分地上権。高架鉄道や地下鉄の定番で、「範囲」欄があるのが見分けポイント。
- 原因
- 令和○年○月○日設定
- 目的
- 高架鉄道敷設
- 範囲
- 東京湾平均海面の上100メートルから上30メートルの間
- 地代
- 1平方メートル1年○万円
- 支払時期
- 毎年○月○日
- 特約
- 土地の所有者は高架鉄道の運行の障害となる工作物を設置しない
- 地上権者
- ○市○町○番○号 株式会社甲
定期借地権・事業用定期借地権 — 「更新なし」を特約欄で読む
存続期間50年以上で更新がない定期借地権(借地借家法22条)は、 特約欄の「借地借家法第22条の特約」が目印です。中身は「更新しない・建て直しても延長しない・買取請求しない」の3点セット。 期間満了で土地は更地にして返すのが原則です。
| 権 利 部(乙区) (所有権以外の権利に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 1 | 地上権設定 | 令和○年○月○日 第○号 | 原因 令和○年○月○日設定 目的 建物所有 存続期間 50年 地代 1平方メートル1年○万円 支払時期 毎年○月○日 特約 借地借家法第22条の特約 地上権者 ○市○町○番○号 甲野太郎 |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 定期借地権としての地上権の設定
- 1番地上権設定受付 令和○年○月○日 第○号
50年たったら更新なしで土地が持ち主に返ってくる定期借地権。「借地借家法第22条の特約」の一行が、その約束のしるし。
- 原因
- 令和○年○月○日設定
- 目的
- 建物所有
- 存続期間
- 50年
- 地代
- 1平方メートル1年○万円
- 支払時期
- 毎年○月○日
- 特約
- 借地借家法第22条の特約
- 地上権者
- ○市○町○番○号 甲野太郎
事業用の建物(住居は除く)に限った事業用定期借地権(同法23条)は、 目的欄まで「借地借家法第23条第1項の建物所有」と条文入りになります。 存続期間30〜50年未満が1項、10〜30年未満なら2項で、2項の場合は特約欄なしで目的が「第2項の建物所有」になります。
| 権 利 部(乙区) (所有権以外の権利に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 1 | 地上権設定 | 令和○年○月○日 第○号 | 原因 令和○年○月○日設定 目的 借地借家法第23条第1項の建物所有 存続期間 45年 地代 1平方メートル1年○万円 支払時期 毎年○月○日 特約 借地借家法第23条第1項の特約 地上権者 ○市○町○番○号 株式会社甲 |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 事業用定期借地権としての地上権(借地借家法23条1項)
- 1番地上権設定受付 令和○年○月○日 第○号
お店や倉庫など事業用の建物限定の定期借地権(住む家はダメ)。目的にも特約にも条文名が入る。30〜50年未満なら1項、10〜30年未満なら2項の建物所有と書かれる。
- 原因
- 令和○年○月○日設定
- 目的
- 借地借家法第23条第1項の建物所有
- 存続期間
- 45年
- 地代
- 1平方メートル1年○万円
- 支払時期
- 毎年○月○日
- 特約
- 借地借家法第23条第1項の特約
- 地上権者
- ○市○町○番○号 株式会社甲
永小作権 — いまや絶滅危惧種の「耕す権利」
永小作権(えいこさくけん)は小作料を払って耕作・牧畜をする権利(存続期間20〜50年)で、 現在ではほとんど見かけません。小作料は必ず登記され、 譲渡・賃貸を禁止する特約(民法272条ただし書)も登記できます。
- 小作料 — 必ず記録
- 存続期間・小作料の支払時期 — 定めがあるとき
- 譲渡・賃貸を禁止する特約(民法272条ただし書) — 定めがあるとき
- そのほか永小作人の権利・義務に関する定め(民法273条〜276条) — 定めがあるとき
| 権 利 部(乙区) (所有権以外の権利に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 1 | 永小作権設定 | 令和○年○月○日 第○号 | 原因 令和○年○月○日設定 小作料 1年○万円 支払時期 毎年○月○日 存続期間 ○年 特約 譲渡、賃貸することができない 永小作権者 ○市○町○番○号 甲野太郎 |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 永小作権の設定
- 1番永小作権設定受付 令和○年○月○日 第○号
小作料を払って他人の土地で畑や牧畜をする権利(20〜50年)。小作料は必ず登記される。いまではほとんど見かけないレア物件。
- 原因
- 令和○年○月○日設定
- 小作料
- 1年○万円
- 支払時期
- 毎年○月○日
- 存続期間
- ○年
- 特約
- 譲渡、賃貸することができない
- 永小作権者
- ○市○町○番○号 甲野太郎
地役権 — お隣の土地を通らせてもらう権利
地役権(ちえきけん)は、自分の土地(要役地・ようえきち)の便利のために 他人の土地(承役地・しょうえきち)を使わせてもらう権利です。 典型は「道路に出るためにお隣の土地のはしっこを通らせてもらう」通行地役権。 登記は使われる側=承役地の乙区にされます。位置関係を図にするとこうです。
| 権 利 部(乙区) (所有権以外の権利に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 1 | 地役権設定 | 令和○年○月○日 第○号 | 原因 令和○年○月○日設定 目的 通行 範囲 東側12平方メートル 要役地 ○市○町○番 地役権図面 第○号 |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 地役権設定(承役地の登記記録)
- 1番地役権設定受付 令和○年○月○日 第○号
この土地(承役地)の東側12㎡を、おとなりの土地(要役地)の人が通り道として使える約束。「だれが使うか」の名前は書かれず、「どの土地のためか」だけが書かれる。
- 原因
- 令和○年○月○日設定
- 目的
- 通行
- 範囲
- 東側12平方メートル
- 要役地
- ○市○町○番
- 地役権図面
- 第○号
他の権利と決定的に違うのは、地役権者の住所・氏名が登記されないことです(法80条2項)。 地役権は要役地の所有権にくっついて自動的に移転するので、「だれが」ではなく 「どの土地のためか(要役地 ○市○町○番)」だけを書けば足りるのです。 範囲が土地の一部なら「東側12平方メートル」のように特定し、地役権図面の番号が記録されます。 承役地に登記される事項をまとめるとこうなります。
- 要役地の表示 — 「だれが」の代わりに「どの土地のためか」を書く
- 設定の目的と範囲 — 目的は「通行」「用水使用」「眺望観望」「電線路の障害となる工作物を設置しない」など
- 別段の定め(民法281条1項ただし書・285条1項ただし書・286条) — 定めがあるとき
- 範囲が承役地の一部のときは、末尾に地役権図面の番号(不動産登記規則160条)
そして要役地(通らせてもらう側)の登記簿にも、登記官が職権で 「要役地地役権」という登記を入れてくれます。申請ではないので受付欄は「余白」、 代わりに登記の年月日が事項欄に記録されます。
| 権 利 部(乙区) (所有権以外の権利に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 1 | 要役地地役権 | 余白 | 承役地 ○市○町○番 目的 通行 範囲 東側12平方メートル 令和○年○月○日登記 |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 要役地の登記記録に職権でする登記(要役地地役権)
- 1番要役地地役権受付 余白
通らせてもらう側(要役地)の登記簿には、登記官が職権で「お隣を通れる地役権付きですよ」と書き込んでくれる。申請ではないので受付欄は「余白」。
- 承役地
- ○市○町○番
- 目的
- 通行
- 範囲
- 東側12平方メートル
- 令和○年○月○日登記
賃借権 — 「貸します・借ります」を登記する
賃借権(ちんしゃくけん)は賃貸借契約で借りる権利です。物権ではなく債権なので、 貸主が協力する特約がない限り借主から登記を要求できず、実際に登記される例は限られますが、 登記されればその後の買主などにも対抗できる強い武器になります。
| 権 利 部(乙区) (所有権以外の権利に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 1 | 賃借権設定 | 令和○年○月○日 第○号 | 原因 令和○年○月○日設定 賃料 1月○万円 支払時期 毎月末日 存続期間 ○年 敷金 金○円 特約 譲渡、転貸ができる 賃借権者 ○市○町○番○号 甲野太郎 |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 賃借権設定(敷金がある場合)
- 1番賃借権設定受付 令和○年○月○日 第○号
甲野太郎さんがこの不動産を借りた記録。家賃(賃料)・敷金・「また貸ししてもOK」の特約まで登記簿に書ける。特約は登記しないと第三者に主張できない。
- 原因
- 令和○年○月○日設定
- 賃料
- 1月○万円
- 支払時期
- 毎月末日
- 存続期間
- ○年
- 敷金
- 金○円
- 特約
- 譲渡、転貸ができる
- 賃借権者
- ○市○町○番○号 甲野太郎
賃料は必ず登記。敷金や「譲渡、転貸ができる」の特約は、登記してはじめて第三者に対抗できます。 賃借権の登記事項は8つあり、このあと出てくる定期借地・定期建物賃貸借の見分けポイントも最後の項目に含まれています。
- 賃料 — 必ず記録
- 存続期間・賃料の支払時期 — 定めがあるとき
- 譲渡・転貸ができる旨の定め — 定めがあるとき
- 敷金 — あるときは、その旨
- 賃貸人が処分の権限を持たない人(行為能力の制限を受けた人など)のときは、その旨
- 土地の賃借権の目的が建物の所有のときは、その旨
- その建物が事業用定期借地権の建物(借地借家法23条1項・2項)のときは、その旨
- 定期借地・定期建物賃貸借・終身建物賃貸借・被災地短期借地などの特約(借地借家法22条・23条・38条・39条、高齢者住まい法52条、被災借地借家特措法7条) — 定めがあるとき
賃借権が抵当権に勝つ「同意の登記」
抵当権付きの物件を借りると、競売されたら追い出されるのが原則。それでは借り手がつかないので、 先順位の担保権者全員の同意 + 登記で賃借権を守るしくみがあります(民法387条)。 順位変更と同じく主登記(5番)で行われ、関係する1〜4番すべての順位番号に(5)が付きます。
| 権 利 部(乙区) (所有権以外の権利に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 1(5) | 抵当権設定 | 平成○年○月○日 第○号 | (一部省略) 抵当権者 ○市○町○番○号 株式会社A |
| 2(5) | 抵当権設定 | 平成○年○月○日 第○号 | (一部省略) 抵当権者 ○市○町○番○号 株式会社B |
| 3(5) | 根抵当権設定 | 平成○年○月○日 第○号 | (一部省略) 根抵当権者 ○市○町○番○号 株式会社C |
| 4(5) | 賃借権設定 | 平成○年○月○日 第○号 | (一部省略) 賃借権者 ○市○町○番○号 甲野太郎 |
| 5 | 4番賃借権の1番抵当権、2番抵当権、3番根抵当権に優先する同意 | 令和○年○月○日 第○号 | 原因 令和○年○月○日同意 |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 賃借権の先順位抵当権に優先する同意の登記
- 1(5)番抵当権設定受付 平成○年○月○日 第○号
先に付いていたAの抵当権。5番の同意の登記に参加したしるしに(5)が付いている。
- (一部省略)
- 抵当権者
- ○市○町○番○号 株式会社A
- 2(5)番抵当権設定受付 平成○年○月○日 第○号
2番のBの抵当権。賃借権に優先を許す同意は、先順位の担保権者全員でしないと意味がないので、Bも当事者。
- (一部省略)
- 抵当権者
- ○市○町○番○号 株式会社B
- 3(5)番根抵当権設定受付 平成○年○月○日 第○号
3番のCの根抵当権。根抵当権者も同意の当事者になる。
- (一部省略)
- 根抵当権者
- ○市○町○番○号 株式会社C
- 4(5)番賃借権設定受付 平成○年○月○日 第○号
抵当権より後から入った甲野太郎さんの賃借権。本来は競売されると追い出される立場だが、下の同意の登記で守られる。
- (一部省略)
- 賃借権者
- ○市○町○番○号 甲野太郎
- 5番4番賃借権の1番抵当権、2番抵当権、3番根抵当権に優先する同意受付 令和○年○月○日 第○号
「競売になっても4番の借主は出て行かなくていい」と先順位の担保権者全員が同意した登記(民法387条)。順位変更と同じく主登記で行われ、関係者の順位番号に(5)が付く。
- 原因
- 令和○年○月○日同意
定期借地権としての賃借権
定期借地権(50年以上・更新なし)は地上権でも賃借権でも設定できます。賃借権版では 地代の代わりに賃料が並び、「譲渡、転貸ができる」特約と「借地借家法第22条の特約」が同じ特約欄に同居します。 事業用定期借地権(23条)も同様に賃借権で設定できます。
| 権 利 部(乙区) (所有権以外の権利に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 1 | 賃借権設定 | 令和○年○月○日 第○号 | 原因 令和○年○月○日設定 目的 建物所有 賃料 1平方メートル1月○万円 支払時期 毎月末日 存続期間 50年 特約 譲渡、転貸ができる 借地借家法第22条の特約 賃借権者 ○市○町○番○号 甲野太郎 |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 定期借地権としての賃借権の設定
- 1番賃借権設定受付 令和○年○月○日 第○号
同じ定期借地権でも、地上権ではなく賃借権で登記した形。地代の代わりに賃料が並び、更新なしの約束は同じく「借地借家法第22条の特約」で表す。
- 原因
- 令和○年○月○日設定
- 目的
- 建物所有
- 賃料
- 1平方メートル1月○万円
- 支払時期
- 毎月末日
- 存続期間
- 50年
- 特約
- 譲渡、転貸ができる 借地借家法第22条の特約
- 賃借権者
- ○市○町○番○号 甲野太郎
建物賃借権の3変化 — 定期・終身・期間付死亡時終了
建物の賃借権には期間の終わり方のバリエーションがあります。 「期間が来たら更新なし」の定期建物賃借権(借地借家法38条)、 高齢者向けに「亡くなるまで住めて、相続されない」終身建物賃借権(高齢者住まい法52条)、 その合わせ技で「○年か死亡時の早いほう」で終わる期間付死亡時終了建物賃借権(同法57条)。 どれも存続期間と特約の欄を見れば見分けられます。
| 権 利 部(乙区) (所有権以外の権利に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 1 | 賃借権設定 | 令和○年○月○日 第○号 | 原因 令和○年○月○日設定 賃料 1月○万円 支払時期 毎月末日 存続期間 令和○年○月○日から○年 特約 譲渡、転貸ができる 契約の更新がない 賃借権者 ○市○町○番○号 甲野太郎 |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
| 権 利 部(乙区) (所有権以外の権利に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 1 | 賃借権設定 | 令和○年○月○日 第○号 | 原因 令和○年○月○日設定 賃料 1月○万円 支払時期 毎月末日 存続期間 賃借人の死亡時まで 特約 賃借人の死亡時に賃貸借終了 賃借権者 ○市○町○番○号 甲野太郎 |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
| 権 利 部(乙区) (所有権以外の権利に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 1 | 賃借権設定 | 令和○年○月○日 第○号 | 原因 令和○年○月○日設定 賃料 1月○万円 支払時期 毎月末日 存続期間 令和○年○月○日から○年又は賃借人の死亡時までのうち、いずれか短い期間 特約 契約の更新がない 賃借人の死亡時に賃貸借終了 賃借権者 ○市○町○番○号 甲野太郎 |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 定期建物賃借権の設定
- 1番賃借権設定受付 令和○年○月○日 第○号
建物の賃貸借で「期間が来たら更新なしで終わり」と約束した定期建物賃借権。特約欄の「契約の更新がない」が目印で、期間は1年未満でもよい。
- 原因
- 令和○年○月○日設定
- 賃料
- 1月○万円
- 支払時期
- 毎月末日
- 存続期間
- 令和○年○月○日から○年
- 特約
- 譲渡、転貸ができる 契約の更新がない
- 賃借権者
- ○市○町○番○号 甲野太郎
記録例: 終身建物賃借権の設定
- 1番賃借権設定受付 令和○年○月○日 第○号
60歳以上の人が「一生住み続けられて、亡くなったら終わり(相続されない)」という約束で借りる終身建物賃借権。存続期間欄が年数ではなく「賃借人の死亡時まで」になる。
- 原因
- 令和○年○月○日設定
- 賃料
- 1月○万円
- 支払時期
- 毎月末日
- 存続期間
- 賃借人の死亡時まで
- 特約
- 賃借人の死亡時に賃貸借終了
- 賃借権者
- ○市○町○番○号 甲野太郎
記録例: 期間付死亡時終了建物賃借権の設定
- 1番賃借権設定受付 令和○年○月○日 第○号
「○年間」か「亡くなるまで」の短いほうで終わる建物賃借権。終身型と定期型の合わせ技で、存続期間欄の長い書きぶりが特徴。
- 原因
- 令和○年○月○日設定
- 賃料
- 1月○万円
- 支払時期
- 毎月末日
- 存続期間
- 令和○年○月○日から○年又は賃借人の死亡時までのうち、いずれか短い期間
- 特約
- 契約の更新がない 賃借人の死亡時に賃貸借終了
- 賃借権者
- ○市○町○番○号 甲野太郎
被災地短期借地権 — 災害復興のための5年契約
大規模災害の被災地では、政令施行から2年間に限り、存続期間5年以下・更新なしの 短い借地権を設定できます(被災借地借家特措法7条1項)。特約欄に長い法律名がそのまま入るのが目印で、 地上権でも賃借権でも設定できます(記録例は賃借権版)。
| 権 利 部(乙区) (所有権以外の権利に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 1 | 賃借権設定 | 令和○年○月○日 第○号 | 原因 令和○年○月○日設定 目的 建物所有 賃料 1月○万円 支払時期 毎年○月○日 存続期間 5年 特約 譲渡、転貸ができる 大規模な災害の被災地における借地借家に関する特別措置法第7条第1項の特約 賃借権者 ○市○町○番○号 甲野太郎 |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 特別措置法7条1項の被災地短期借地権(賃借権)の設定
- 1番賃借権設定受付 令和○年○月○日 第○号
大きな災害の被災地だけで使える、存続期間5年以下・更新なしの短い借地権。長い法律名がそのまま特約欄に書かれる。地上権でも同じ形で設定できる。
- 原因
- 令和○年○月○日設定
- 目的
- 建物所有
- 賃料
- 1月○万円
- 支払時期
- 毎年○月○日
- 存続期間
- 5年
- 特約
- 譲渡、転貸ができる 大規模な災害の被災地における借地借家に関する特別措置法第7条第1項の特約
- 賃借権者
- ○市○町○番○号 甲野太郎
| 権利 | なにをする権利か | たとえ話 |
|---|---|---|
| 地上権 | 工作物・竹木の所有のため土地を使う(物権) | 「ここに建てさせて」の強い約束 |
| 永小作権 | 小作料を払って耕作・牧畜(20〜50年) | 「ここで畑をやらせて」 |
| 地役権 | 自分の土地の便利のために他人の土地を使う | 「お隣を通らせて」。人ではなく土地にくっつく |
| 賃借権 | 賃料を払って借りる(債権) | 「家賃を払うので貸して」 |
| 採石権 | 岩石・砂利を採取する(20年以内) | 「ここの石を掘らせて」 |
その他の乙区 — 配偶者居住権・先取特権・質権・信託
配偶者居住権 — 「住み慣れた家に住み続ける」権利
配偶者居住権は、亡くなった人の配偶者が、住んでいた建物に 無償で住み続けられる権利です(民法1028条)。 家の所有権そのものは子どもが相続しつつ、配偶者は住む権利だけを確保する—— 相続の場面で「家を売らないとお金を分けられない」問題を和らげるために令和2年に生まれた、乙区では最年少の権利です。 どんなときに成立するかを先に整理しておくと、記録例の「原因」欄が読みやすくなります。
- 前提 — 亡くなった人が所有していた建物に、相続開始の時に配偶者が住んでいたこと(亡くなった人が配偶者以外の人とその建物を共有していた場合は対象外)
- 成立場面① — 遺産分割で「配偶者居住権を取得する」と決められたとき(民法1028条1項1号)
- 成立場面② — 遺贈の目的とされたとき(同項2号)。被相続人と結んだ死因贈与契約でも成立します(民法554条)
| 権 利 部(乙区) (所有権以外の権利に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 何 | 配偶者居住権設定 | 令和○年○月○日 第○号 | 原因 令和○年○月○日遺産分割 存続期間 配偶者居住権者の死亡時まで 特約 第三者に居住建物の使用又は収益をさせることができる 配偶者居住権者 ○市○町○番○号 甲某 |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 配偶者居住権設定(遺産分割で取得)
- 何番配偶者居住権設定受付 令和○年○月○日 第○号
亡くなった人の配偶者が、遺産分けの話し合いで「この家にずっと住み続けられる権利」をもらった。期間の定めがなければ一生もの。ただし売ったり譲ったりはできない。
- 原因
- 令和○年○月○日遺産分割
- 存続期間
- 配偶者居住権者の死亡時まで
- 特約
- 第三者に居住建物の使用又は収益をさせることができる
- 配偶者居住権者
- ○市○町○番○号 甲某
原因は「遺産分割」のほか「遺贈」「贈与」(死因贈与の場合も登記簿上は「贈与」)。 存続期間は別段の定めがなければ「配偶者居住権者の死亡時まで」=一生ものです。 この権利は譲渡できないので移転登記は存在せず、配偶者が亡くなったときは 建物の所有者が単独で抹消を申請できます。 なお、順位番号の「何」は記録例の作法で「何番でもよい」という意味のプレースホルダです。
先取特権 — 法律が自動で付ける優先権
先取特権は、給料債権などを持つ人に法律が自動で与える優先権(法定担保物権)です。 当事者の契約で生まれた権利ではないので、登記の目的は「設定」ではなく 「一般の先取特権保存」となるのが見分けポイント。原因も契約日ではなく 債権の発生期間で書かれます。 不動産保存・不動産工事・不動産売買の3種の先取特権もありますが、実例はわずかです。 ここで、担保物権の生まれ方による分類を整理しておきましょう。
| 区分 | どうやって生まれるか | 例 |
|---|---|---|
| 約定担保物権 | 当事者の契約(設定行為)で生まれる | 抵当権・質権 |
| 法定担保物権 | 特定の債権者を守るため、法律上当然に生まれる | 先取特権・留置権 |
| 権 利 部(乙区) (所有権以外の権利に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 1 | 一般の先取特権保存 | 令和○年○月○日 第○号 | 原因 令和○年○月○日から令和○年○月○日までの給料債権の先取特権発生 債権額 金○万円 債務者 ○市○町○番○号 乙株式会社 先取特権者 ○市○町○番○号 甲野太郎 |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 一般の先取特権
- 1番一般の先取特権保存受付 令和○年○月○日 第○号
甲野太郎さんの未払い給料を守るために、法律が自動で付けてくれた優先権。契約で作った権利ではないので、目的が「設定」ではなく「保存」になるのが見分けポイント。
- 原因
- 令和○年○月○日から令和○年○月○日までの給料債権の先取特権発生
- 債権額
- 金○万円
- 債務者
- ○市○町○番○号 乙株式会社
- 先取特権者
- ○市○町○番○号 甲野太郎
質権・根質権 — 渡してしまうタイプのカタ
質権は担保物を債権者に渡してしまうタイプのカタで、不動産ではほぼ抵当権に取って代わられました。 記録の形は抵当権に似ていますが、質権者は目的物を使える代わりに利息を請求できないのが原則で、 それを逆にする特約(「質権者は質物を使用収益できない」「利息の定め」)が登記できます。 存続期間は最長10年です。抵当権と共通の事項に加えて、質権ならではの登記事項は次の7つ。
- 存続期間の定め
- 利息に関する定め
- 違約金・賠償額の定め
- 債権に付した条件
- 担保される債権の範囲を変える定め(民法346条ただし書)
- 使用収益に関する別段の定め(民法356条・357条に関する359条の定め)
- 抵当権の効力の及ぶ範囲についての別段の定め(民法361条で準用する370条ただし書)
| 権 利 部(乙区) (所有権以外の権利に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 1 | 質権設定 | 令和○年○月○日 第○号 | 原因 令和○年7月7日金銭消費貸借同日設定 債権額 金1,000万円 存続期間 令和○年○月○日から○年 利息 年1.75%(年365日日割計算) 特約 質権者は質物を使用収益できない 債務者 ○市○町○番○号 乙川次郎 質権者 ○市○町○番○号 甲野太郎 共同担保 目録(あ) 第○号 |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 複数の不動産に対する質権の設定
- 1番質権設定受付 令和○年○月○日 第○号
担保物を債権者に渡してしまうタイプのカタ(質権)。本来は質権者が使ってよい代わりに利息を取れないが、特約でどちらも逆にできる。存続期間は最長10年。
- 原因
- 令和○年7月7日金銭消費貸借同日設定
- 債権額
- 金1,000万円
- 存続期間
- 令和○年○月○日から○年
- 利息
- 年1.75%(年365日日割計算)
- 特約
- 質権者は質物を使用収益できない
- 債務者
- ○市○町○番○号 乙川次郎
- 質権者
- ○市○町○番○号 甲野太郎
- 共同担保
- 目録(あ) 第○号
枠型の根質権もあります。極度額・債権の範囲を登記する読み方は根抵当権と同じです。
| 権 利 部(乙区) (所有権以外の権利に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 1 | 根質権設定 | 令和○年○月○日 第○号 | 原因 令和○年7月7日設定 極度額 金1,000万円 債権の範囲 売買取引 手形債権 小切手債権 債務者 ○市○町○番○号 乙川次郎 根質権者 ○市○町○番○号 甲野太郎 |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 根質権の設定
- 1番根質権設定受付 令和○年○月○日 第○号
質権の「枠」バージョン。極度額と債権の範囲を登記する読み方は根抵当権とまったく同じで、実際の残高は登記簿からわからない。
- 原因
- 令和○年7月7日設定
- 極度額
- 金1,000万円
- 債権の範囲
- 売買取引 手形債権 小切手債権
- 債務者
- ○市○町○番○号 乙川次郎
- 根質権者
- ○市○町○番○号 甲野太郎
採石権 — 石を掘らせてもらう権利
採石権は他人の土地から岩石・砂利を採取する権利です(採石法。存続期間は20年以内)。 「内容」欄に採る石の種類(花こう岩採取など)が書かれるのが特徴。 原則は契約で設定しますが、例外的に経済産業局長の決定でも設定でき、 その場合は原因が「設定決定」になります。
| 権 利 部(乙区) (所有権以外の権利に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 1 | 採石権設定 | 令和○年○月○日 第○号 | 原因 令和○年○月○日設定 存続期間 ○年 内容 花こう岩採取 採石料 毎年○万円 支払時期 毎年○月○日 採石権者 ○市○町○番○号 甲株式会社 |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 採石権の設定(契約による場合)
- 1番採石権設定受付 令和○年○月○日 第○号
他人の土地から岩石や砂利を掘り出す権利(最長20年)。「内容」欄にどの石を採るかが書かれる。例外的に経済産業局長の決定でも設定できる。
- 原因
- 令和○年○月○日設定
- 存続期間
- ○年
- 内容
- 花こう岩採取
- 採石料
- 毎年○万円
- 支払時期
- 毎年○月○日
- 採石権者
- ○市○町○番○号 甲株式会社
信託 — 「管理を託した」しるし(甲区に登場)
信託は、財産の管理や処分を受託者に託すしくみです。所有権の信託は甲区に 「所有権移転 原因 信託」として現れ、名義人の肩書きが「受託者」になります。 所有権移転とワンセットで「信託」の併記行が入りますが、この行は 順位番号欄が空欄のまま上の行とつながり、受付欄は「余白」という独特の形です。
| 権 利 部(甲区) (所有権に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 2 | 所有権移転 | 平成○年○月○日 第○号 | 原因 平成○年○月○日売買 所有者 ○市○町○番○号 甲野太郎 |
| 3 | 所有権移転 | 令和○年○月○日 第○号 | 原因 令和○年○月○日信託 受託者 ○市○町○番○号 乙川二郎 |
| 信託 | 余白 | 信託目録第○号 | |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 所有権移転と信託(受託者が一人の場合)
- 2番所有権移転受付 平成○年○月○日 第○号
甲野太郎さんが買って持ち主になった記録。このあと太郎さんはこの不動産の管理を人に託す。
- 原因
- 平成○年○月○日売買
- 所有者
- ○市○町○番○号 甲野太郎
- 3番所有権移転受付 令和○年○月○日 第○号
管理を託された乙川二郎さんに所有権が移った。原因は「信託」、名義人の肩書きは「所有者」ではなく「受託者」。自分のためでなく信託の目的のために持つ。
- 原因
- 令和○年○月○日信託
- 受託者
- ○市○町○番○号 乙川二郎
- 信託受付 余白
所有権移転とワンセットで入る信託のしるし。順位番号欄は空欄のまま上の行とつながり、受付欄は「余白」。中身(目的・受益者など)は信託目録を見る。
- 信託目録第○号
信託の中身(委託者・受託者・受益者・信託条項)は登記記録本体ではなく信託目録という 別の帳票に書かれています。証明書を取るときは「信託目録付き」で請求するのがコツです。
| 信 託 目 録 | 調製 | 令和○年○月○日 | |
| 番 号 | 受付年月日・受付番号 | 予 備 | |
| 第○号 | 令和○年○月○日 第○号 | 余白 | |
| 1 委託者に関する事項 | ○市○町○番○号 甲野太郎 | ||
| 2 受託者に関する事項 | ○市○町○番○号 乙川二郎 | ||
| 3 受益者に関する事項等 | 受益者 ○市○町○番○号 甲野花子 | ||
| 4 信託条項 | 1 信託の目的 (省略) 2 信託財産の管理方法 (省略) 3 信託の終了の事由 (省略) 4 その他の信託の条項 (省略) | ||
バリエーションも見ておきましょう。自分の財産を自分に託す自己信託では、 所有権が動かないので「所有権移転」ではなく「信託財産となった旨の登記」になります (委託者と受託者が同一人)。
| 権 利 部(甲区) (所有権に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 2 | 所有権移転 | 令和○年○月○日 第○号 | 原因 令和○年○月○日売買 所有者 ○市○町○番○号 甲某 |
| 3 | 信託財産となった旨の登記 | 令和○年○月○日 第○号 | 原因 令和○年○月○日自己信託 受託者 ○市○町○番○号 甲某 |
| 信託 | 余白 | 信託目録第○号 | |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 自己信託の場合
- 2番所有権移転受付 令和○年○月○日 第○号
甲某さんが持ち主。このあと「自分の財産を自分に託す」自己信託をする。
- 原因
- 令和○年○月○日売買
- 所有者
- ○市○町○番○号 甲某
- 3番信託財産となった旨の登記受付 令和○年○月○日 第○号
持ち主は甲某さんのままなので「所有権移転」ではなく「信託財産となった旨の登記」。2番の所有者と3番の受託者は同じ人になる。
- 原因
- 令和○年○月○日自己信託
- 受託者
- ○市○町○番○号 甲某
- 信託受付 余白
自己信託でも信託のしるしと信託目録はセットで付く。
- 信託目録第○号
ほかに受託者が2人以上の「所有権移転(合有)」(持分は記録しない)、遺言で託す「原因 遺言信託」、 信託財産のお金で不動産を買ったときの「信託財産の処分による信託」などの形があります。
抵当権付きの債権を信託すると乙区にも信託が登場します。 原因が「債権譲渡(信託)」となり、移転先の肩書きが「受託者」になります。
| 権 利 部(乙区) (所有権以外の権利に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 2 | 抵当権設定 | 令和○年○月○日 第○号 | 原因 令和○年○月○日金銭消費貸借同日設定 債権額 金○万円 利息 年○% 損害金 年○% 債務者 ○市○町○番○号 乙川次郎 抵当権者 ○市○町○番○号 株式会社B |
| 付記1号 | 2番抵当権移転 | 令和○年○月○日 第○号 | 原因 令和○年○月○日債権譲渡(信託) 受託者 ○市○町○番○号 株式会社A |
| 信託 | 余白 | 信託目録第○号 | |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 担保付債権の信託
- 2番抵当権設定受付 令和○年○月○日 第○号
B社が持つ普通の抵当権。このあとB社は、この抵当権付きの債権そのものを信託に出す。
- 原因
- 令和○年○月○日金銭消費貸借同日設定
- 債権額
- 金○万円
- 利息
- 年○%
- 損害金
- 年○%
- 債務者
- ○市○町○番○号 乙川次郎
- 抵当権者
- ○市○町○番○号 株式会社B
- 2番 付記1号2番抵当権移転受付 令和○年○月○日 第○号
債権を信託したので、くっついている抵当権も受託者A社へ移転。原因が「債権譲渡(信託)」となり、肩書きが「受託者」になるのが普通の債権譲渡との違い。
- 原因
- 令和○年○月○日債権譲渡(信託)
- 受託者
- ○市○町○番○号 株式会社A
- 信託受付 余白
乙区でも信託のしるしは同じ形。順位番号欄は空欄、受付欄は「余白」で、信託目録の番号だけが書かれる。
- 信託目録第○号
担保権そのものを信託財産にするセキュリティ・トラストでは、 設定の原因が「金銭消費貸借同日信託」、権利者の表記が最初から「受託者」になります。 債権者が大勢いても担保権は受託者が1人で持つので、債権が譲渡されるたびに移転登記をしなくて済むしくみです。
| 権 利 部(乙区) (所有権以外の権利に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 2 | 抵当権設定 | 令和○年○月○日 第○号 | 原因 令和○年○月○日金銭消費貸借同日信託 債権額 金○万円 利息 年○% 損害金 年○% 債務者 ○市○町○番○号 乙川次郎 受託者 ○市○町○番○号 株式会社B |
| 信託 | 余白 | 信託目録第○号 | |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 担保権の信託(セキュリティ・トラスト)— 受託者を直接担保権者とする方法
- 2番抵当権設定受付 令和○年○月○日 第○号
債権はみんなのもの、担保権だけ受託者がまとめて持つ形(セキュリティ・トラスト)。原因の末尾が「同日設定」ではなく「同日信託」、権利者が「受託者」になっているのが見分けポイント。
- 原因
- 令和○年○月○日金銭消費貸借同日信託
- 債権額
- 金○万円
- 利息
- 年○%
- 損害金
- 年○%
- 債務者
- ○市○町○番○号 乙川次郎
- 受託者
- ○市○町○番○号 株式会社B
- 信託受付 余白
担保権そのものが信託財産であるしるし。だれのための担保かは信託目録の受益者欄を見る。
- 信託目録第○号
信託が終わって財産が帰属権利者に引き継がれると、「所有権移転 原因 信託財産引継」と 「○番信託登記抹消」がワンセットで入り、信託の併記行が目的・余白・目録番号ごと丸ごと下線で消されます。
| 権 利 部(甲区) (所有権に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 3 | 所有権移転 | 令和○年○月○日 第○号 | 原因 令和○年○月○日信託 受託者 ○市○町○番○号 甲某 |
| 信託 | 余白 | 信託目録第○号 | |
| 4 | 所有権移転 | 令和○年○月○日 第○号 | 原因 令和○年○月○日信託財産引継 所有者 ○市○町○番○号 乙某 |
| 3番信託登記抹消 | 余白 | 原因 信託財産引継 | |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 所有権移転及び信託・信託財産引継
- 3番所有権移転受付 令和○年○月○日 第○号
受託者の甲某さんが信託財産として持っていた記録。信託が終わったあとも、移転の記録自体には下線は引かれない。
- 原因
- 令和○年○月○日信託
- 受託者
- ○市○町○番○号 甲某
- 信託受付 余白
信託のしるしの行。下の「3番信託登記抹消」で消されたので、目的・余白・目録番号まで全体に下線が引かれている。
- 信託目録第○号
- 4番所有権移転受付 令和○年○月○日 第○号
信託が終わり、財産が帰属権利者の乙某さんに引き継がれた。原因は「信託財産引継」、肩書きは「受託者」から普通の「所有者」に戻る。
- 原因
- 令和○年○月○日信託財産引継
- 所有者
- ○市○町○番○号 乙某
- 3番信託登記抹消受付 余白
3番に付いていた信託のしるしを消した記録。引継ぎの所有権移転とワンセットで入るので、これも受付欄は「余白」。
- 原因
- 信託財産引継
抵当権者の引っ越し・改名も付記で
抵当権者の銀行が本店を移したら「1番登記名義人住所変更 原因 本店移転」、 商号を変えたら「1番登記名義人名称変更 原因 商号変更」という付記登記が入ります。 会社なのに目的が「住所変更」、原因が「本店移転」という組み合わせが読みどころ。 両方変わったら目的「住所、名称変更」で原因を2つ併記します。
| 権 利 部(乙区) (所有権以外の権利に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 1 | 抵当権設定 | 平成○年○月○日 第○号 | (一部省略) 抵当権者 ○市○町○番○号 株式会社A銀行(取扱店 ○○支店) |
| 付記1号 | 1番登記名義人住所変更 | 令和○年○月○日 第○号 | 原因 令和○年○月○日本店移転 本店 ○市○町○番○号 |
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
記録例: 抵当権者の本店移転(登記名義人住所変更)
- 1番抵当権設定受付 平成○年○月○日 第○号
A銀行の抵当権。銀行が引っ越し(本店移転)をしたので、下の付記で住所だけ書き換える。
- (一部省略)
- 抵当権者
- ○市○町○番○号 株式会社A銀行(取扱店 ○○支店)
- 1番 付記1号1番登記名義人住所変更受付 令和○年○月○日 第○号
会社の本店が変わっても登記の目的は「住所変更」で、原因が「本店移転」になる。商号が変われば「名称変更・商号変更」、両方なら原因を2つ併記する。
- 原因
- 令和○年○月○日本店移転
- 本店
- ○市○町○番○号
この変更登記は義務ではありませんが、移転や変更の登記をする前提として必要になるので、 古い抵当権には合併・商号変更の付記が何段も積み重なっていることがあります (抹消登記のときだけは、変更を証する情報を提供すれば省略できます)。
まとめ — この章で覚える3つのこと
- 乙区は2系統。担保権(抵当権・根抵当権など)は「いくらの借金のカタか」、用益権(地上権・地役権・賃借権など)は「だれが・どう使うか」を読む。
- 抵当権は1本のカタ、根抵当権は枠のカタ。移転・変更は付記登記で積み重なり、抹消されると登記事項の全体に下線。下線だらけの乙区は完済の歴史。
- 順位がお金の順番。配当は登記の順位どおり、入れ替えるには全員合意の順位変更(主登記)。順位番号のとなりの(5)のような数字は「その番号の登記で順位が変わった」相互参照。
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